シン・ゴジラのスクリプターが語るiPad Pro&Apple Pencil仕事術(1/3 ページ)

» 2017年03月30日 18時43分 公開
[らいらITmedia]

 映画はカットをかけて撮影し、編集でつなげて1本の作品に仕上げます。そこで重要な役割を果たすのが、記録係の「スクリプター」。前後のシーン、衣装、俳優のアドリブなど、シーンにおけるあらゆる情報を記録・整理し監督をサポートします。

田口さんがスクリプターとして携わった作品の1つ「デスノート Light up the NEW world」の絵コンテ

 「今までは紙とペンを使っていましたが、iPad ProとApple Pencilに変えてからは断然作業が楽になりました」と話すのは、日本を代表するスクリプターのひとり、田口良子さん。

「シン・ゴジラ」「アイアムアヒーロー」「何者」「デスノート Light up the NEW world」など、数々のヒット映画の製作に携わるスクリプター

 彼女いわく、ペーパーレス化によってスクリプターのワークフローが大きく変わったのだとか。手書き資料が多く、なかなかペーパーレス化が進まないビジネスマンは参考にしてみてはいかがでしょうか。

スクリプターは「監督の秘書」

――(聞き手:らいら) そもそもスクリプターとはどんな仕事なのでしょうか。

田口良子さん(以下、田口) 一言で表現すると「監督の秘書」です。映画は始まりから順番に撮影するわけではなく、カットごとにバラバラに撮っていきます。そのため、キャストの髪型や衣裳、物をどちらの手で持っているかなど、前後のカットのつながりを記録し、覚えておくのが仕事です。

―― 前後がつながっていないシーンを当てるクイズ番組をたまにテレビで見ますが、それはスクリプターのミスということですか?

田口 そうです。まさに私の参加した作品がクイズにされたことがあります(笑)。観客が何の違和感もなく映画を見終えることができたら、スクリプターの仕事は成功。できて当たり前、ミスが目立ってしまう仕事ですね。

スクリプターは国内外問わず女性がつくことが多いそう。「スクリプターは監督に口出しする役割もあるので、女性のほうがトゲが立ちません。『監督、ここ変じゃないですか?』なんて男性が言うと、男性監督の威厳が保てませんが、女性なら心遣いのある言い回しができる場合も多いです。そのためスクリプターは古くは『映画女房』と呼ばれていたほどです」(田口)

 あとは現場と編集をつなぐパイプラインでもあります。現場の思いを言葉にし、「こういう風に編集してほしい」と編集に伝える役割です。撮影した映像は日々、現像場でデータが圧縮され編集室に行くので、バラバラに撮ったカットのリストと、正しい順番に並べたリストを2つ渡し、編集室に編集順を伝えます。監督の指示をもとに、カットごとに「ここからここまで使ってほしい」と細かく伝達するので、頭が混乱しないように情報を整理する必要があります。

インタビュー前に、田口さんが講師を務めるセミナー「iPadを使ってかさばる資料をペーパレスに!」(主催Fellows Creative Academy)を取材。映像関係の方が多く参加しました

―― 業務が多岐に渡るようですが、仕事ではどんな資料を取り扱っているのでしょうか。

田口 まず台本は自分用と、清書して編集部に渡す用の2冊があります。クリップデータリストには、撮影素材にどのカットが入っているか、撮影した順番が書いてあります。助監督が作る衣裳香盤は、シーンごとの衣裳の写真や装飾をリスト化したものです。紙ものが多いのですが、私はiPad Proですべて管理しています。

「デスノート Light up the NEW world」のクリップデータリスト。アプリは現場向けデジタルノートアプリ「GEMBA note」を使用し、Apple Pencilで直接書き込んでいます

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