Appleが直営店のリンゴを緑に光らせる意味

» 2017年04月21日 17時00分 公開
[後藤治ITmedia]

 4月22日の「アースデイ」にあわせて、Apple直営店のリンゴロゴ(葉っぱの部分)が今年もグリーンに変わった。アップルストア表参道は、初夏を思わせるまぶしい空と街路に植えられたケヤキの新緑、そして巨大なガラスに囲まれた店内そのものが、まるでリンゴを飾るための美しいショーケースのように見える。

 ロゴのライトアップは4月28日まで続き、この期間にApple Payを使ってApple Store、およびApple Store App経由で買い物をすると、世界自然保護基金に1ドルが寄付されるキャンペーンを実施している。


 また、同社のWebサイトでは特設ページが設けられ、Appleが継続的に実施している環境への取り組みの最新情報を報告している。

 これによれば、Appleが自社施設で使用する電力の96%はクリーンな再生可能エネルギーで生み出されているという(昨年は93%)。同社はiMessageやFaceTime、Siriなど様々なサービスで利用されるデータセンター、および米国をはじめとする24カ国の施設で100%を再生可能エネルギーでまかない、将来的には残りの全施設も100%にするべく、太陽光発電をはじめ、水力発電、風力発電、燃料電池発電などへの投資を加速させている。また、自社だけでなくパートナー企業も含めたカーボンフットプリントを削減する努力も行っている。

Apple Park

 なるほど、Appleは毎年膨大な数のデバイスを出荷する巨大な企業でありながら、ただやみくもに人類のリソースを消費し続けるのではなく、持続可能な社会を目指す立派な会社だ(さすがApple!)。ただ、だからAppleはどこよりも素晴らしく、例えばSurfaceよりもMacBookを買うべきだ、と言いたいわけではない。

 地球環境へのこうした取り組みは、近年、世界各国の主要企業、特にIT企業が積極的に推進しているものだ。例えば、RE100の加盟企業(将来的に再生可能エネルギーのみでの事業運営を目指す宣言をした企業)をみれば、GoogleやFacebook、HPも名を連ねているし、Microsoftは2014年に再生可能エネルギー100%を達成している。Appleが特別なわけではない。


 ここで注目したいのは、確かにこの分野ではリーディングカンパニーではあるが、しかし決して特別ではないAppleが、特別に“見える”ということだ。アップルストア表参道店が1つの美しいショーケースに“見える”ように、同社はこの手の演出がうまい。

 2016年のアップルスペシャルイベントでは、かなり長い時間を割いて環境問題への取り組みが紹介された。当日のビデオストリーミングで、広大な森林を保護し、巨大なソーラーファームを施設し、LiamがiPhoneを分解する様子が流れたとき、これは素晴らしい挑戦だと素直に感心したのだが、その一方でネットでは「お金が余ってるから」とか「そんなことに使うならもっと製品開発に投資してほしい」という意見があった。しかし、もしAppleがそうしたやり方で利益を追求する企業なら、少なくとも今のように頻繁には、電車の中でiPhoneを見ることも、スタバでMacBookを見ることもなかったかもしれない。


 Apple製品の魅力を人に聞くと色々な答えが返ってくる。美しいデザイン、先進的な機能、ハードウェアとソフトウェアの融合が生み出す卓越したユーザー体験などなど。もちろん、それらは商品がヒットする必要条件ではある。しかし、そうした面でAppleが特別かと問えば、ほかのメーカーにも素晴らしい製品はたくさんある。Appleが魅力的に“見える”原動力は、同社が指し示す未来へのビジョンをユーザーと共有している点だろう。

4月21日のアップルストア表参道では、鳥取県から修学旅行を利用して来た中学生による「環境に関するフィールドトリップ課外授業」が行われていた。内容はiPad Proを使って環境ポスターを作成するというもの

 Appleは個別の製品の機能や便利さを語る前に、彼らの目的を語る。「テクノロジーによって世界をより良いものに変えていこう」、例えばこんな風に。それから「そのために私たちはこんな製品を作ったんだ」と続ける。そうしたメッセージに共感する人はそれほど多くはないかもしれない。それよりもスペックや価格を重視する人のほうが多いかもしれない。

 しかし、同じ目的を共有し、それを実現するためにApple製品を選んだ人たちは、ただの顧客を超えて自社製品の強力な支援者になることをAppleは知っている。ほかの誰かに言われたからではなく、自分の信条に照らして製品を選び、自分という人間を表現するためにApple製品を使う人々――“信者”と揶揄(やゆ)されることもあるが、自分の思い描く理想のストーリーに寄り添った製品ほど魅力的なものはない。「そう、これこそが自分のために作られたものだ」という深い満足感を得られるのだから。


 こうした側面からAppleが推進する地球環境への取り組みを見ると、それが単にCSRレポートの数字作りのためでも、消費社会に暮らす私たちの罪悪感を少しだけ軽くするための免罪符でもないことが分かる。世界を良くしたいと語る企業が、反対の手で森林を無尽蔵に伐採していたらその言葉は信用されるだろうか。あるいは、テクノロジーはすべての人が使いやすいものであるべきだと主張する一方で、その製品のユーザーインタフェースが障害者を無視したものだったらどうだろうか(Appleはユニバーサルデザインにも力を入れている)。


 Appleがこうした様々な問題に本気で取り組んでいる姿勢を見せることは、同社のメッセージを補強し、それに共感する人間を増やすことにつながる。そしてその波及効果がApple製品を“特別な製品”に変えていく――そこでは環境問題への投資と企業利益が矛盾しない。自然保護活動は余ったお金で行う慈善事業ではない。それどころか、さらなる利益を追求するための原動力にさえなっている。

 地球や環境のことを考えるアースデイに、世界中のApple直営店でグリーンの葉っぱがついたリンゴのロゴが点灯するのは、同社にとって企業の社会的責任や環境への貢献をアピールすること以上の意味がある。


 なお、アップルはアースデイにあわせて4本のユニークなアニメをアップしている。同社の環境に対する関わり方が見えてくるアニメなので参考にどうぞ。

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