米国のバラク・オバマ前大統領政権が2015年にせっかく定めた「ネット中立性(Net Neutrality)」を守る規則が、2017年12月に撤廃されようとしています。
米国内の話だし、ごたごたして分かりにくいので、日本ではほとんど関心を持たれていないようですが、日本にも関係なくはないニュースです。今回は、日本のユーザーにとって「米国のネット中立性規則の廃止でどんな影響があるのか」について見ていきます。
この規則撤廃を「風が吹くと桶屋がもうかる」的にはしょると、「ネット中立性の規則がなくなるとNetflixが高くなる」――かなり強引ですが、そういう可能性をはらんでいるのは確かです。
もう少し詳しく説明すると、AT&T、Verizon、Comcastなどの米通信インフラ企業やISP(インターネットサービスプロバイダー)傘下のコンテンツ企業と競合するNetflixやYouTube、Huluなどは冷遇され、その結果、これまでと同じ品質のサービスを保つためにユーザーへの値上げを余儀なくされるかもしれません。
規則撤廃の影響はそれだけではありませんが、日本のユーザーに直接関係あることに絞るとそうなります。
そもそも「ネット中立性」の「中立」は何と何の中に立つことかというと、インターネットのトラフィックです。オバマ前大統領が制定した「Open Internet Order」とは、「インターネットを支える通信インフラ企業やISPは、回線を行き交うトラフィックを全て平等に扱うべし」という規則です。
つまり、競合するからといって特定のサービスの通信速度を遅くしたり、規制したり、利害が一致する企業を特別扱いしたりしちゃだめよ、ということです。
これは通信インフラ企業にとっては嫌な規則です(実際、AT&T、Verizon、Comcastといった通信インフラ企業はこの規則に反対していました)。
だって、苦労してはりめぐらせたインターネットのためのネットワーク上を、コンテンツ企業はタダ乗りして膨大なトラフィックを流しまくってお金をもうけ、トラフィックがあふれるとユーザーから苦情が出て、お金を掛けて基地局を増やしたりケーブルを太くしたりしなくちゃなりません。
インターネットがメールとテキストベースのWebサービスだけだったころは問題になりませんでしたが、今や高速な常時接続環境や4K動画が当たり前。インフラ側がそれに対応するのは大変です。
だから、お金持ちな通信インフラ企業やISPはコンテンツ企業を買収して、苦労して敷設した「土管」を自分でも使うことにしました。
例えば、AT&Tは衛星放送のDIRECTVを、Verizonはデジタル光ファイバーテレビ放送のFiOS TVを買収し、コンテンツサービスも手掛けています。AT&Tはドラマ専用チャンネルHBOなどを傘下に持つTime Warnerも買収しようとしています。
この買収が認められて、ネット中立性の規則もなくなれば、米国のAT&T利用者は人気ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」を、パケット代を気にせずに高画質で快適に視聴できるようになるかもしれません。
それは一見、いい話みたいですが、何かを優先すれば何かが犠牲になります。もしかしたら、競合するNetflixの人気ドラマ「ストレンジャー・シングス」をAT&Tのユーザーがスマートフォンで見ようとすると、途切れ途切れになるかもしれません。
それでは困ると、NetflixはAT&Tに優先順位を上げてもらうためにお金を払うかもしれません。そのお金を稼ぐために、ユーザーの会費を値上げするかもしれない、というのが最初にはしょった話の中身です。実際、Netflixは規則撤廃に反対しています。
ネット中立性の規則撤廃はまだ決まったわけではありません。12月14日(現地時間)に米連邦通信委員会(FCC)内で投票が行われ(FCCの5人の委員はほとんど共和党員なので可決でしょう)、採択します。
NetflixやGoogle、Facebookなどの反対派が黙ってはいないでしょうから、採択後も訴訟になったりで、しばらく落ち着くことはないでしょう。
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