舞台はPC・スマホからクルマへ 「自動運転」で半導体メーカーの競争が激化特集・ミライのクルマ(2/3 ページ)

» 2017年12月26日 07時00分 公開
[笠原一輝ITmedia]

アウディ、トヨタなどが相次いで採用を表明するNVIDIA

 こうしたメーカーの中で、現在のところレベル3以上の自動運転向け半導体ソリューションで大きくリードしているのがNVIDIAだ。

 1993年に設立された比較的新しい半導体メーカーであるNVIDIAは、もともとはGPU(Graphics Processing Unit)と呼ばれるPC用のグラフィックスチップをファブレスで製造するメーカーとして誕生した。

 同社が自動車事業に進出したのは2000年代の後半で、ドイツの自動車メーカーなどに対してデジタルメーター用GPUの提供を開始したことに始まっている。その後も、メータークラスター用のGPUや、IVI(In-Vehicle Infotainment system)向けのSoC(System on a Chip)の提供を開始し、NVIDIAは車載事業に熱心に取り組んできた。

 その時代に、ドイツのVWグループやBMW、日本のホンダといったメーカーとの取引ができたことが、現在の自動運転向けの事業につながっている。つまり、自動車産業にとってNVIDIAは既に新顔ではなくなっていたのだ。

NVIDIAが試作した自動運転車両

 NVIDIAは2010年代の前半から、同社のGPUを利用したマシンラーニングやディープラーニングの学習を高速化するソリューションに積極的に取り組んでおり、現在ではAI関連の半導体ではトップ企業とみられるようになっている。

 AIで成功するためにNVIDIA GPUのプログラミングモデル「CUDA」を利用して実現する企業が増えつつある。現在多くの企業がディープラーニングの「学習」をCUDAを利用してGPU上で行っている。

 NVIDIAはその成功を自動車に持ち込もうとしており、「DRIVE PX」シリーズと呼ばれる自動運転用のソリューションを充実させている。最新製品の「DRIVE PX2」ではレベル3以上の自動運転にも対応し、同社のSDKを利用してAIを自動車上で実現可能になっている。

 また、プログラマーはクラウド側で使っているCUDAを用いて、自動車上でディープラーニングの「推論」が可能になっており、移植性の良さもNVIDIAのソリューションを採用するメリットだ。

 DRIVE PX2は、米Tesla、そして独Audiなどのレベル3の自動運転を実現した自動運転車に既に採用されている。また、5月に米カリフォルニア州のサンノゼで行われた開発者向けイベント「GTC 2017」では、トヨタ自動車が将来の製品で採用する計画であることを発表した他、ホンダもDRIVE PXを自動運転車の開発に利用していることを12月に日本で行った「GTC Japan 2017」で明らかにしている。

5月のGTCでは、トヨタ自動車がNVIDIAのソリューションを採用と発表された

 その他にも、ティアワン(Tier1:メーカーに直接納品する1次サプライヤー)の部品メーカーであるドイツのBoschやZFなどがNVIDIAのDRIVE PXを採用した自動運転ソリューションを自動車メーカーに提供することを明らかにしている。

世界最大の半導体メーカーIntel、携帯電話通信の王者Qualcomm

 そうしたNVIDIAの背中を激しく追い上げているのが世界最大の半導体メーカーIntel、そして携帯電話通信の王者Qualcommだ。

 Intelの強みは、クラウドサーバの市場でトップシェアという点と、自動運転に関わる半導体ソリューションを一気通貫で提供できるという2つにある。冒頭でも説明した通り、自動運転は自動車、クラウドサーバが、携帯電話回線によって循環型のモデルを構築していく必要がある。

 Intelは、「Xeon」プロセッサがクラウドサーバの市場で圧倒的なトップシェアを誇っており、その上で多くの企業がマシンラーニングやディープラーニングの「学習」を行っている。それに加えて、Intelは「Atom」プロセッサや「Core」プロセッサといったSoCを持っており、それらの車載グレードの製品を自動運転車のSoCとして活用できる。

Intelが独Delphiと共同開発したレベル4の自動運転車両

 また、Intelは携帯電話通信のモデムベンダーとしても近年はシェアを増やしており、同社のLTEモデムチップ「XMM7000」シリーズは米国向けのApple「iPhone」シリーズに採用されるなどしている。Intelでは次世代の携帯電話通信の規格である5Gへの取り組みも加速しており、日本国内ではNTTドコモと実証実験を行っている他、自動車向けの開発プラットフォームもいち早く投入している。

 このように、Intelはクラウド、自動車側、通信の全てで製品を持っており、自動運転向けのソリューションを一気通貫に提供できるのだ。

既に米サンノゼ市の公道で実走テストを行っている

 さらにIntelは2017年に入ってからイスラエルの半導体メーカーMobileyeを買収している。Mobileyeは日産自動車のレベル2の自動運転システムである「プロパイロット」のカメラユニットとしても採用されるなど、既に世界の自動車メーカーで画像認識のソリューションとして採用が進んでいる。

 IntelはそのMobileyeとのパートナーシップのもと、BMWと自動運転車の共同開発を行っており、恐らく2018年初頭に米ネバダ州ラスベガスで開催されるイベント「CES 2018」でその成果が公開されるとみられている。また、ティアワンの部品メーカーとしてドイツのDelphiやContinentalなどがパートナーであることが既に明らかにされている。

 そのIntelと5Gの開発競争で激しく争っているのがQualcommだ。スマートフォン向けSoCのトップベンダーであるQualcommは、2017年1月にIVI向けの「Snapdragon 820A」を発表し、2018年以降出荷される自動車などに採用されている段階で、自動運転に関しての取り組みはこれからとなる。

 クラウドに強みを持つIntel、ディープラーニングに強みを持つNVIDIAに対して、Qualcommの強みはLTE・5Gモデムを持つことだ。Qualcommは「C-V2X(Cellular Vehicle-to-Everything)」などのソリューションにも力を入れており、現在市場シェア50%を越える携帯電話モデムの強みを自動運転の市場でも発揮できるかが出遅れを取り返す鍵となる。

 また、世界最大の車載半導体メーカーのNXPの買収を決めていることもQualcommの強みとなる。現時点ではEU規制当局の買収承認待ちという段階だが、仮に正式にゴーが出れば、Qualcommは世界最大の車載半導体メーカーとなる。現在はNVIDIA、そしてIntelに比べて自動運転では出遅れているQualcommだが、NXPの買収が決まれば状況は完全に変わってくる可能性がある。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年04月17日 更新
最新トピックスPR

過去記事カレンダー