自動車が自律的に運転するレベル3以上の「自動運転」。それを実現するための半導体を巡る競争が激化している。ルネサス エレクトロニクスのような車載半導体を提供してきたメーカーだけでなく、米Intelや米NVIDIAといったコンピュータ業界の半導体メーカーが急速に自動車向け半導体へ参入を果たしているからだ。
本記事ではそうした自動運転向け半導体の現状についてまとめていきたい。
レベル3/4/5の自動運転を実現する半導体が今業界では大きな注目を集めている。SUBARUの「アイサイト」や本田技研工業(ホンダ)の「Honda SENSING」といったレベル2の自動運転機能と、レベル3以上の自動運転機能は、半導体に必要とされる処理能力が段違いに違っている。
レベル2までの自動運転では、ドライバーのハンドルやアクセル、ブレーキ制御をアシストすることはあっても、自動車が自律的にそれらを制御することはやっていない。これに対してレベル3以上の自動運転では、自動車が自律的にハンドル、アクセル、ブレーキを操作するという人間の代わりを果たす必要があり、レベル2までの自動運転とは段違いの処理能力が必要になる。
このためレベル3以上の自動運転を巡る半導体戦争では、主役の入れ替わりも発生している。車載半導体メーカーと言えば、トップシェアはオランダのNXP Semiconductors、そしてグローバルではNXPに次ぐ2位、国内ではダントツ1位のルネサス エレクトロニクスといった半導体メーカーが主役だった。
しかし、レベル3以上の自動運転向け半導体で主役として語られているのは、NVIDIA、Intel、そしてQualcommといったコンピューティングや携帯電話通信などに強みを持つ半導体メーカーだ。レベル3以上の自動運転では強力な処理能力や高速なデータ通信が必要になるからだ。
レベル3以上の自動運転は、自動車単体では実現できず、データセンターにあるクラウドサーバ、LTEや5Gなどの高速なセルラー通信網、そして自動車が連携して動作する。
自動運転車では、自動車に搭載されている各種センサー(カメラ、レーダー、ライダーなど)から生成されるデジタルデータを、自動車に搭載された半導体が処理しながら進んでいく。それにより、半導体は自車の周囲360度を常にリアルタイムで把握しながら運転を行う。
そうして把握したデータを基に、ハンドル、アクセルやブレーキを操作するのが半導体により実現されるAI(人工知能)だ。現在のAIはディープラーニングやマシンラーニングと呼ばれる手法を利用して実現されており、その手法のうち「推論」と呼ばれるAIの判断機能を活用して、自律的にハンドル、アクセル、ブレーキを操作する。
自動車側の半導体で推論を行うには、常にマシンラーニングやディープラーニングの「学習」と呼ばれる作業により得られるデータが必要になる。この学習は人間の子供が教えられて大人になるのと同じプロセスで、AIを鍛える作業と考えると理解しやすい。学習には膨大な演算性能が必要で、それらの作業はクラウドサーバで行い、その成果だけを自動車上の推論を行うAIにフィードバックする。
そうしたクラウドサーバで得られた学習データの自動車へのフィードバックは携帯電話回線経由で行われる。このため、レベル3以上の自動運転車には高速なデータ回線、具体的にはLTEや5G(第5世代移動通信システム)といった現在の、そして将来の高速な携帯電話回線が必須となっている。
このようにレベル3以上の自動運転は、クラウドと自動車の間を、高速な携帯電話回線を経由してデータが行ったり来たりする循環型のシステムになっているのだ。
こうした背景があるため、クラウドに強みを持つIntel、GPUを利用したディープラーニングに強みを持つNVIDIA、そして5Gなどの通信に強みを持つQualcommなどの半導体メーカーが大きな注目を集めているのだ
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