2018年、ユーザーインタフェースに真の革新が始まるか鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(2/3 ページ)

» 2018年01月02日 06時00分 公開

OSやデバイスを問わないユニバーサルアプリに向かう世界

 スマートスピーカーのトレンドを見ていくと、次に出て来るのは「Amazon Echo Show」などに代表されるディスプレイ付きの製品という話もあり、Microsoftもそういった製品を準備しているとのうわさが聞こえてくる。

Amazon Echo Show Amazon Echoファミリーのディスプレイ搭載モデル「Amazon Echo Show」

 しかし、筆者はスマートスピーカー自体が人々の生活のメインストリームになる製品とは考えておらず、あくまで「機能のクラウドシフト」の一環として、その通過点にすぎないと考えている。

 前回掲載した記事「2017年末、PC業界に起こりつつある変化とは?」でも触れたが、Windows 10への移行需要を取り込んだPCが一時的に盛り返す一方で、Googleの「Chromebook」を含む汎用(はんよう)の製品というよりは特定の目的に特化した製品が市場を拡大させている。

 PCは間もなく万人向けのデバイスではなくなるというのが記事の趣旨だが、このときAppleは、従来Macでカバーしていたユーザー層の多くをiPadへと移行しているのではないかと推察している。

 米Bloombergのマーク・グルマン氏は2017年12月20日(米国時間)、Appleは「iPhone、iPad、Macで共通のアプリが利用できるような仕組みの提供」を計画していると報じた。時期は不明だが、報道が出たタイミングからみて、早ければ2018年半ばに開催される「WWDC 2018」でこの仕組みが開発者向けにアピールされるかもしれない。

 筆者も似たような話を小耳に挟んでいるが、恐らく最終的な狙いは開発者を除くMacユーザー、特に既成のアプリをそのまま使っているような一般層をiPadへと誘導することにあると考えている。

 この場合、「MacBook」のようなIntel Core Mプロセッサを搭載する製品ラインを徐々に縮小していき、「クリエイターや開発者向けのMacBook Pro」と「一般ユーザー向けのiPad」という形で区分けすることになるだろう。

iPad 一般ユーザー向けのコンピュータとして、Appleの「iPad」は今より重要な位置付けになるか(画像は10.5型の「iPad Pro」)

 理由は幾つか考えられるが、iPadを機能強化することでMacユーザーの一部を誘導できるという考えの他、Apple的にもSoC(System on a Chip)を自社調達できるiPadの方が品質を含めて製品のコントロールがしやすく、利益率が高いということが挙げられる。

 もちろん、Microsoftが掲げる常時接続+長時間バッテリー駆動を特徴とした新世代のWindows 10デバイス「Always Connected PC」にみられる、今後に一般ユーザー向けの主流になるであろうデバイスのセルラーネットワーク対応を考えれば、MacにLTEモデムを搭載するよりもセルラー対応iPadを主軸に据える方が理にかなっている。

 このAppleのユニバーサルアプリ構想のプロジェクト名は「Marzipan(マルチパン)」と呼ばれているようだ。

 一般に、異なるプラットフォームとフォームファクターで共通して動作する、いわゆるユニバーサルアプリを作成するポイントとしては「バイナリ」「パフォーマンス」「ユーザーインタフェース(UI)」の3つが挙げられる。

 モバイルではARM、PCではx86やx64という形でプロセッサの種類が異なるため、それぞれに適したバイナリを用意する必要がある。かつてAppleはmacOS(OS X)のPowerPCからx86への移行において「Rosetta(ロゼッタ)」というバイナリ変換機構を搭載したが、「Windows on Snapdragon」においても同様の抽象化レイヤーを介在させることでバイナリ変換を実現している。

Windows on Snapdragon スマートフォン向けプロセッサで知られるQualcommのSnapdragon 835を搭載し、PC向けのWindows 10が動作する新しいデバイスが2018年にやって来る。x86プロセッサ向けに記述されたアプリケーションであっても、エミュレーションを使ってARMプロセッサであるSnapdragon上で実行できる。LTE内蔵による常時接続と長時間バッテリー駆動がウリだ

 ただ一般にバイナリ変換はパフォーマンスや省電力の面でペナルティが大きく、ネイティブで動作する専用バイナリを用意するのが望ましい。そのため、macOSにおいてもRosettaは環境が整うまでの暫定措置であり、「OS X Lion」では正式に廃止された。

 Microsoftの場合は、Windows 10において「UWP(Universal Windows Platform)」の名称でPCとモバイルでアプリのパッケージを共通化し、インストール先の環境に応じてアプリストアが最適なバイナリを送り込むという仕様になっている。

 Appleにおけるアプリストアを見ると、iOS向けの「App Store」とmacOS向けの「Mac App Store」では前者の方が圧倒的に盛り上がっており、どちらかと言えばMarzipanの狙いは後者の盛り上げにある。

 従って、アプリストアの共通化ではiOSのアプリ開発者がMac App Storeへと流れる形となるため、比較的非力なiOSのプラットフォームでエミュレーションを実行するようなパフォーマンス上のペナルティは発生しにくい。Xcodeの開発ではMac上でiOSエミュレータが動作する形となるが、これがそのままアプリストアと連動したのがMarzipanだと考えていいかもしれない。

 むしろ問題はUIだ。タッチ操作とマウス+キーボード操作という異なる性格を持つ2つのプラットフォームが1つになったとき、どのような混乱が起きるかということだ。

 残念ながら、Microsoftにおける同様の試みは、Windows 8から続くUWPの計画が縮小した時点でうやむやになったが、これは同社の新しいUIの作法に必ずしも開発者やユーザーが追随しなかったことによる。

 少なくとも、タッチUIが登場した時点ではiOSとmacOSという形でプラットフォームを分離したAppleの判断の方が正しかったと筆者は考えており、今度は2つの融合を巡ってAppleがMicrosoftと同様の苦労をする番だと言える。

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