米Microsoftが2013年以来となる5年ぶりの大規模な組織改編を発表し、注目を集めている。
3月29日(米国時間)にサティア・ナデラCEOが全従業員宛てに公開した書簡によれば、ラジェシュ・ジャー氏が率いる「Experiences & Devices」と、スコット・ガスリー氏が率いる「Cloud + AI Platform」の2つの部門に再編し、既存事業をこの2つの事業部にぶら下がる形とする。2016年にスタートしたハリー・シャム氏が率いる研究部門「AI + Research」はそのまま継続し、全組織を横断して活動していく。
なお、この組織改編に伴い、これまで「Windows and Devices Group(WDG)」と呼ばれていた部門のトップだったテリー・マイヤーソン氏は同社を去ることになった。LinkedInの同氏のページには、過去21年間を振り返った備忘録が記されており、当時の背景や同氏から見た状況などがしのばれるものとなっている。
この組織改編についてはさまざまな意見が各方面から聞かれるが、筆者の視点から少し考察してみたい。
書簡の冒頭でナデラ氏は次のイノベーションに向けて「インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジのビジョンを体現するもの」として組織改編の概要を紹介しており、これが念頭にあるのは間違いない。
このキーワードは2018年5月に開催する開発者向けカンファレンス「Build 2018」のキャッチフレーズであり、同氏が登壇する基調講演のタイトルでもあり、組織改編後初の公式声明として基調講演の場で説明が行われることだろう。
Experiences & Devicesの傘下にはパノス・パネイ氏が率いる「Devices」、ジョー・ベルフィオーレ氏が率いる「Windows」、クドー・ツノダ氏が率いる「New Experiences and Technology」、ブラッド・アンダーソン氏が率いる「Enterprise Mobility and Management」がそれぞれ所属する。
もう一方のCloud + AI Platformの傘下には、従来までガーディープ・パール氏が率いていた「Customer Service, Marketing and Sales Insights」のチームがジェームス・フィリップス氏が率いる「Business Applications Group」に合流する形で誕生する「Business AI」、エリック・ロッカード氏の「Universal Store and Commerce Platform」、アレックス・キップマン氏の「AI Perception & Mixed Reality(MR)」、そしてエリック・ボイド氏の「AI Cognitive Services & Platform」がまとめられる。
今回の組織改編で目を引くのは、1つは会社組織を「エッジ」と「クラウド」で分割したということ。もう1つは、これまで独立した事業部として最大勢力を誇っていたWindows部門がサブグループの1つとなり、会社における位置付けが後退していることだ。その意味ではOffice製品も長らく独立した事業部としては存在しておらず、「製品ではなくソリューション」という形で組織の切り分け方が変化しつつある。
これは、近年のMicrosoftが掲げる「クラウド重視」の姿勢をよく示している。キップマン氏のAI Perception & MRを除けば、Cloud + AI PlatformにはAzureやクラウド関連の事業が全てまとまっており、恐らくはMicrosoftの主軸部門として今後機能していくことだろう。
もう一方のExperiences & Devicesはいわゆる「エッジソリューション」だ。Windows OSやデバイス、そして端末管理を担うEnterprise Mobility and Managementなど、Azureの発表までは(Office製品を除く)Microsoftの中心だった事業群であり、クラウドと連動する形で各デバイスの制御を担う。
興味深いのは、過去10年ほどの間にMicrosoftが「OSとビジネスツール」の企業から、「クラウド」事業を包括する企業へと大変革を遂げた点だ。今回の組織改編はこれを象徴するものといえる。
2018年1月に発表した同社会計年度で2018年度第2四半期(2017年10〜12月期)の事業別業績にも、その傾向は見て取れる。
「Productivity and Business Processes(主にOfficeなどのアプリケーション製品)」「Intelligent Cloud(Azureやサーバ、ツールなど)」「More Personal Computing(Windows OEMやゲーム、サービス事業など)」の3つのカテゴリーのうち、Windows OEMのMore Personal Computingは売上高が122億ドルと依然高いものの、営業利益はそれほどでもない。また成長率でも、Office 365が好調なProductivity and Business Processesや、Azure事業で急成長するIntelligent Cloudには及ばない。
もちろん、こうしたスタンスが即「MicrosoftがWindowsやデバイス事業を捨てる」という話ではない。クラウドと対になる「エッジ」は引き続き重要なピースであり、比重こそ落ちていくものの、今後も事業自体は継続する方針とみられるからだ。
米ZDNetのメアリー・ジョー・フォリー氏によれば、今回の組織改編で人員削減等は計画されていないとのことで、「会社としてのスタンスを示す」という点に重点が置かれているのだろう。
仮に今後Windows OEMの売上高がさらに下がっていったとしても、「Microsoft 365」のようなクラウドとWindowsの親和性を高めたサービスに比重を移していくとみられ、「Microsoftの商習慣が変化した」と捉えるのが正しい。
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