AIが落ちこぼれ学生を未然に防ぐ? MicrosoftがAIで成果を上げている5つの分野

» 2018年07月01日 06時00分 公開
[後藤治ITmedia]

 AI(人工知能)の急速な発達に伴って、これまでにない便利なサービスの登場が期待されています。総力特集で取り上げた「ミライのクルマ」や「音声言語インタフェース最前線」は、高精度なセンサー技術とともに、その情報を処理するAIが重要な鍵。また、医療や気象・災害予測、食糧問題等、人類が現在抱えている、より大きな問題に対してもAIが解決の糸口になるかもしれません。

 2018年の5月にMicrosoftとGoogleが開催した年次開発者会議(Build 2018とGoogle I/O 2018)でもAIが大きく取り上げられたように、多くのデベロッパーにとってこの話題は最もホットな分野。今後もAIを活用したアプリやサービスが続々と登場し、私たちの生活を変えていくことは間違いありません。

 ただしその一方で、同分野の専門家たちは、AIが悪用される危険性についても警告しています(「The Malicious Use of Artificial Intelligence」)。アシモフがたびたび小説の中で描いた(人間にとって不都合な)未来が来るかどうかはともかく、有用性と危険性が同居した道具の制御を、倫理観というわりと曖昧な基準だけに頼るのはおそらく無理でしょう。

 とはいえ、将来起こりうる問題におびえて、今目の前で起きつつあるAIの明るい側面を否定するのもおかしな話です。「AI開発に必要な6つの倫理的条件」を掲げるMicrosoftが、これまでAIによって実際に生み出した成果を発表しているので紹介しましょう。

1、アクセシビリティー 周囲の環境を音声で説明してくれる「Seeing AI」

 Seeing AIは、スマートフォンで撮影した内容をAIが識別して音声情報に変換するアプリです。人物の予想年齢や表情を読み取ったり、道路の脇にバスが停車しているなど周囲の視覚情報をユーザーに伝えたりすることで、世界に2億8500万人いるといわれるロービジョン者の生活をサポートしています。画像認識技術はここまで来てるんですね。

 他にも視線追跡機能でPCを操作する「Eye Control」や、音声をイラストに変換する「Helpicto」など、障害者向けAI開発プログラムによってさまざまなアプリが開発されています(→動画)。

画像の内容を認識し、音声に変換してユーザーに伝えてくれるSeeing AI

2、農業 種をまく時期が分かる「AI Sowing App」

 世界人口の60%、約45億人が住むアジア地域の人口は、2030年までに50億人を超えると予想されており、食糧供給問題が懸念されています。これに対してMicrosoftは、インドの非営利団体、ICRISAT(International Crop Research Institute for the Semi-Arid Tropics)と協業し、AIを活用して収穫高を向上する施策に取り組んでいます。

 AI Sowing Appというアプリでは、過去30年間の気象データとリアルタイムのデータから雨量と土壌水分を計算し、作物の植え付けに最適な日を予測可能。広大な農地にセンサーを設置するといった投資が必要ないため、新興国での利用が期待されています。

AIを活用して収穫量を上げる取り組み

3、エネルギー効率

 持続可能な社会を目指し、2014年に再生可能エネルギー100%を達成したMicrosoftは、データセンターとインフラの管理にAIを活用しています。

 同社によると、Microsoftのクラウドサービスで計算と冷却に必要とされる電力は、従来型のデータセンターと比較してエネルギー効率が93%高く、炭素効率性は最大98%優れているそうです(The carbon benefits of cloud computing. A study on the Microsoft Cloud)。多くの企業がこうした取り組みを積極的に推進すれば、炭素の排出量を大幅に削減し、自然環境や気候変動に対するインパクトを抑えられるかもしれません。

国の電力の3分の1が建物で消費されるシンガポールでは、建物の監視、分析、最適化の運用をMicrosoft Cloudに集約し、エネルギーコストを15 パーセント削減したという

4、教育 落ちこぼれを未然に防ぐAI

 南インドのアーンドラ・プラデーシュ州では、1万校以上の学校・500万人以上の学生を対象(2017年時点)に、学校からドロップアウトする可能性が高い学生を予測するアプリが使われています。

 このアプリでは、入学時の情報や成績、性別、社会的特性、学校のインフラ、教師のスキルなどを複合的に分析し、パターンを抽出。リスクが高いと判断された学生を早期に特定して、ドロップアウトを防ぐプログラムやカウンセリングなどを提供できるようになるとしています。

アーンドラ・プラデーシュ州で、1万校以上の学校・500万人以上の学生を対象(2017年時点)に利用されている教育用AIアプリ

 ドロップアウト率の推移を示すデータが見つからなかったので、成果がどれほどのものかは分かりませんが面白い取り組みです。離職率の高い企業の人事部も欲しがりそうですね……。

5、ヘルスケア 心臓病のリスクを予想

 インドでは年間300万件の心臓発作が発生しており、3000万人以上が心臓病を患っていると推定されているそうですが、これに対してMicrosoftはインド最大の医療機関の一つであるApollo Hospitalsと協力し、AIにフォーカスしたネットワークを開発しています。

 AI技術と心臓病に関する膨大なデータを組み合わせることで新たな機械学習モデルを開発し、心臓病リスクの予測や治療計画の支援を目標にしているそうです。この他、Microsoftは医療分野でAIを駆使したさまざまな取り組みを行っています(Microsoft’s focus on transforming healthcare: Intelligent health through AI and the cloud)。

医療分野で利用が進むAI技術

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