―― Nianticでは「ARでキャラクターが人や物の背後に回り込む」といった新技術や、Niantic Real World Platformの構想などを発表されていますが、Tokyo Studioとしてこうした技術開発に関与することはあるのでしょうか。
野村氏 基礎技術開発は本社で進めていきますので、Tokyo Studioが担当するのはその応用です。それを応用してどういうゲームを作れるのか、どういった体験ができるのか、Tokyo Studioの役割はそれをうまく使って新しいゲームや体験を作っていくことです。
もちろん、その過程で必要になるものを自分たちで開発したり、あるいは新しい技術を開発したり、という可能性はあります。
―― それでは、新技術を既存のゲームタイトルにフィードバックしていくという視点ではどうでしょう。
例えば、先日の発表では「Project Neon」や「Project Tonehenge」のように、クラウド上のサーバを介さずに、近隣のモバイルデバイス同士がピア・ツー・ピアで通信することでリアルタイム処理を行う仕組みがありました。
これをポケモンGOで未実装のプレイヤー同士のバトルに組み込むといった計画はあるのでしょうか。実際、現状のジムバトルやレイドバトルでは通信環境の問題もあり、操作が実際に反映されるまでのラグが存在しており、完全にリアルタイムでのバトルにはなっていません。
野村氏 ポケモンGOはTokyo Studioで開発しているわけではありませんが、ポケモンGOに限らず、リアルタイム性が実際にゲーム性にどれくらい反映され、それが重要になるかはゲームデザイン次第だと思います。例えば、格闘ゲームではフレーム単位での素早い操作が求められますが、スマートフォンでプレイするポケモンGOではそこまでリアルタイム性を必要としないゲームデザインにしています。
当然クラウドのネットワークを介した通信では遅延が発生するわけですが、反応速度を上げるために通信頻度を上げると通信量が増大したり(通信料金も増える)、デバイスのバッテリー駆動時間が短くなったりとトレードオフが発生します。今後開発するゲームについてもこの辺りを加味して、ゲームデザインを決定する必要があります。
―― イングレスとポケモンGOだけでも膨大なプレイヤー数がいるので、そこで収集したデータを応用すれば、前述のNiantic Real World Platformのような世界をより現実に「マッピング」することが可能になるのではないでしょうか。
例えば、スマートフォンのカメラを使って物体の奥行き情報を取得できる仕組みを使えば、Niantic独自の立体空間マッピングが可能になると考えます。
野村氏 究極的に、Niantic Real World Platformというものの行き着く先には、例えば街の中で電話を取り出してみると、周囲の3D空間を認識して「何がどこにあるか」が分かるという、そういった仕組みも可能になるのかなと思います。そこにバーチャルなオブジェクトを置いていったりですね。
そこに行き着くまでには技術的なチャレンジがたくさんありますが、その過程で何も作らないわけではありません。そのときどきで可能な技術は試していきたいです。
―― イングレスの「ポータル」が、ポケモンGOのリリース時には「ポケストップ」として再利用されたわけですが、今後もこうしたタイトル間でのデータの相互融通のようなものは行われるのでしょうか。
野村氏 イングレスで取得したデータというのは、非常に珍しいものです。お店の情報でもなければ、ビルの不動産の情報でもない、不思議なデータだと思います。ただそこには歴史的な建造物であったりとか、あるいは街にある彫刻が位置情報として詰まっており、それ自体が面白いサービスになっているわけです。
特に日本は長い歴史があり、さまざまな場所に面白い情報が存在していて、イングレスやポケモンGOのようなゲームに向いています。Tokyo Studioで作るゲームでも、ぜひ活用していきたいと考えています。
―― イングレスとポケモンGOともに位置情報ゲームというくくりで語られますが、「終わりがない」という特徴が面白いと思っています。実際、われわれもポケモンGOでレベル40に達した今でもプレイし続けています。今後Tokyo Studioで開発するタイトルも、同じような体験が得られるのでしょうか。
野村氏 確かに、Nianticの作るゲームは「ゲームの中で終わらず、ずっと続けられる」という特徴はあるかもしれません。
例えばポケモンGOを通じて子供と会話したり、あるいはイングレスでもいろいろコミュニティーがあったりします。Nianticのタイトルは、ゲームを通じて他の人と新しいコミュニケーションが生まれたり、新しい場所に行ってみる機会になったりとか、「ゲーム外での体験がゲームを通じて豊かになっていく」という強みや特徴があります。
これから作るゲームについてもそれを大事にして、家にこもってやるゲームを作るつもりはありません。
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