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» 2018年08月15日 15時29分 公開

「大和研究所は憎悪の対象だった」――初代IBM PC開封の儀で明らかになった「ThinkPad誕生の奇跡」 (2/4)

[長浜和也,ITmedia]

IBM PC互換機で日本語が使えるまで

 IBM PC互換機(IBM AT互換機)が日本で普及したのは、ソフトウェア(ここ大事)で日本語を使えるようにした開発者たちの功績なくしては実現しなかった。彼らによって「DOS/V」が誕生し、IBM PC互換機が日本で実用可能となった。

 イベントではCFコンピューティング代表の西川和久氏や、当時、大手家電メーカーの社員としてDOS/Vが登場する以前にIBM PC互換機で日本語を扱えるようにする共通規格の策定に関わったフリーランスライターの塩田紳二氏、そして、当時はIBMの大和研究所でDOS/Vの基本設計を担当した羽鳥正彦氏が、当時のエピソードを紹介した。

塩田紳二氏
西川和久氏
IBM AT互換機で私的に組み込んでいた日本語フォントカードを掲げる羽鳥正彦氏

 羽鳥氏がIBM ATで個人的に用意したソフトウェアを使って日本語を表示させ始めていたのは1987年ごろのことだ。当時はハードウェアで用意した日本語フォントデータを拡張カードとしてPCに接続することで日本語を表示するのが通常で、実際、ソフトウェアで日本語を使う環境では、竹村氏によると「速度が遅くて業務にはとても耐えられない」状態だったが、羽鳥氏が当時最新のグラフィックスカードを使うことで動作速度が画期的に速くなるから大丈夫と力説していたという。

 塩田氏は、1986年ごろにChips&Technologyとアスキーが開発したEGA(解像度は640×350ピクセル)で日本語を表示するハードウェア(今でいうところのグラフィックスカード)「JEGA」や、同じくChips&Technologyとアスキー、そしてMicrosoftが開発したJEGA(解像度640×480ピクセル。日本語表示に適したEGA日本独自拡張規格)で日本語を表示するハードウェア(同じくグラフィックスカード)規格「AX」など、「IBM PCにハードウェアを追加して日本語を表示する規格」というDOS/V登場前の動向からAX規格を普及する目的で立ち上がったAX協議会に「協議会に参画した家電メーカーの社員」として関わったときのエピソードを紹介している。それによると、あるメーカーがAXに準拠しようとすると、そのメーカーの“独自”仕様で必要になる“独自”割り込みの調整がとても難しく、打ち合わせている段階でAX準拠を断念するケースが数多くあったという。

 西川氏は、DOS/Vの正式発表前に存在した「一部の関係者にのみ配布されたDOS/V」について言及している。この事前配布は正式発表の半年前のことで、西川氏は、この事前配布DOS/Vのエピソードとして「発表直前に発覚したRS232のバグ」「/HS=LC」「V-Text」を取り上げた。

 RS232のバグは、RS232Cの通信がストップしてしまう症状として出荷直前に発覚した。この原因について羽鳥氏は「開発初期のDOS/Vは動作速度が遅く、その改善のために数多くの割り込み処理を止めていた。その影響としてRS232Cの通信も止めていた」と明らかにしている。「VGA回りはハードウェアをガンガンたたいていたので直すのが大変だった」(羽鳥氏)

 また、DOS/V登場当時、グラフィックスカード「ET4000」で正常に表示するために、デバイスドライバの設定オプションで必須だった「$DISP.SYS /HS=LC」の「LC」について、羽鳥氏は「ET4000の表示不具合が判明したとき、部内のエンジニアでは解決できず、ET4000のメーカーであるTseng Labsに確認したところ、ラインコントロールの使い方で解決できることが分かり、そのオプションを用意したという。その/HS=LCのLCはラインコントロールを意味していたことを羽鳥氏は紹介している。

 あわせて羽鳥氏は、DOS/Vに関するノウハウが商用パソコン通信のコミュニティーを中心に情報を交換していくという、それまでにはない形態だったこともDOS/Vの普及と改善に大きく影響したと述べている。

 西川氏は、この「商用パソコン通信コミュニティー」による普及した典型的な例として自ら手掛けた「V-Text」を取り上げた。当時のDOS/Vによる日本語表示は640×480ピクセルのグラフィックス画面に16ドット描画のフォントを「80文字×25行」固定で表示していた。V-TextではDOS/Vとは別に高解像度(800×600ピクセル〜1600×1280ピクセル)のグラフィックス画面を用意することで表示文字数と行数を増やすことを可能にするとともに、高速描画を可能にするグラフィックスドライバの拡張を一本化したフォントドライバとディスプレイドライバのセットで、商用ネットのコミュニティーを中心に利用者を増やして完成度を高めていった。加えて、スプレッドシートの「Lotus 1-2-3」のV-Text対応も西川氏が開発したことを明らかにした(訂正:講演では「MIFES」についても「自分が対応した」と述べていたが、本人によるとMIFESの開発には携わっていないとしている。2018年8月16日15時27分訂正)。

 V-TextはDOS/Vエクステンションとして正式にDOS/Vに組み込まれることになるが、そのおかげでスクロール速度が当時主流だったPC-9800シリーズの2.7倍に達したという。しかし、IBMが打った比較広告では「IBM広報の指示で」(竹村氏)約2倍という文言に抑えたという。

※記事初出時、羽鳥氏の名前を「昌彦」と誤って記載しておりました。正しくは「正彦」です。おわびして訂正いたします(2018年8月17日18時33分訂正)

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