「VRのビジネス活用は、まず会議でブレークする」
VRを取材していれば、一度や二度は耳にする言葉だ。だが、実際にVRで会議を「業務」としてやっている人はまだまだ少ない。いわゆる「コンセプト検証」の段階にとどまっているところがほとんどだ。
だが、既に実ビジネスで利用し、ユーザーへの販売も始めようとしている開発者がいる。彼の名は桜花一門。VR関連クリエイターであり、VR体験イベント「JapanVR Fest.」を主催してきたVRイベント&コミュニティー NPO法人オキュフェスの代表理事で、VR関連エヴァンジェリストの一人である。
彼がOculus Go向けに開発中のVR会議システム「桜花広場」は、高級エステサロン「HSbodydesign」を運営するアキュートリリーにテスト導入が予定されており、3月からはBoothで動作用のコード販売が行われる。
彼はなぜ桜花広場を作ったのか? VR会議システムの可能性と難しさはどこにあるのか? 桜花一門氏に聞いた。
「どうして作ったかって、自分が使いたい、必要だと思ったからですよ」
桜花氏が会議システムを作ろうと思った理由はとてもシンプルだ。桜花氏が運営する「株式会社 桜花一門」は、社員が集まって仕事をすることがほとんどなく、リモートワーク率は「100%に近い」という。ほとんどのコミュニケーションは、メッセンジャーやSlack、タスク管理ツールの「Trello」などのオンラインサービスを使って行われている。
中でも重要だったのが、タスク管理だ。
桜花氏は、プロジェクト内でのタスク管理方法に「チケットシステム」を導入している。まず目標を設定し、その中でやるべきことを「チケット」の形にし、チケットを各担当者に割り振ったり、担当者の側が手を挙げてチケットを取ったりして、仕事全体を個別に処理していく……というやり方だ。
リモートワーク+チケットシステムで制作を進めてきた桜花氏だが、困ったこともあった。やはり細かな打ち合わせをするには、会った方が楽、ということだ。特に複数人での打ち合わせは、ビデオ会議などではうまくいかない。そこで思い付いたのが、VR内で会議をする、ということだ。
ビデオ会議とVR会議の違いはどこにあるのか?
「それは顔の向きです。ビデオ会議の場合、3人以上の会議では、誰が誰の方を向いて話しているかが分かりにくい。ですが、VRだと顔の向きがきちんと分かるので、会議が進めやすくなります」、桜花氏はそう説明する。
とはいえ、当初から自分で会議システムを作るつもりだったわけではない。Oculus Goには、Oculus自身が作ったチャットシステムである「Oculus Room」がある。当初はこれを使っていた。
「インド−東京間での会議も問題なくできました。『おお、これでいいじゃん』と思ったんですけど、やっぱり足りない機能がある……ということになりました」(桜花氏)
実際に使ってみて問題になったのは、Oculus Roomの中ではWebや資料を見ることができないことだった。また、Oculus Roomへのログインが意外と面倒であることも、日常的な会議にはマイナスだった。
「問題を全て吸収したシステムはないか」ということで、結局自分たちで開発をしたのが「桜花広場」だった。
アプリを立ち上げれば、ログインは簡単。会議の「議長」を決め、そこに他の人が参加する形。1つの会議には20人までが参加できる。
Webの閲覧・表示は、議長が見ている画面を他の人がシェアする形式だ。議長役の会議室空間にはWebブラウザのウィンドウが浮いており、ここに表示した情報が、参加している各人の会議室空間にも表示される。逐一、リアルタイムに近い形で更新することもできるが、相手に見せたくない情報もあるだろうから、「ボタンを押したときだけ更新」というやり方もできる。
「作ってみると、予想以上に便利でした。VRの中に『現実とつながる穴』があるといい、ということが分かったんです。それがWebでした」(桜花氏)
業務に使っているサービスをWeb経由で使うこともできるし、Web上の資料を見ながら話すこともできる。ハンドコントローラーにも対応しているので、レーザーポインターのように、一部を示しながら話すのも簡単だ。筆者も試してみたが、話しているとVR内なのに「ろくろ」を回すように手を動かしてしまっていたのが妙に面白かった。
そして、想定以上に便利だったのが「Twitterなどを使い、メッセージをやりとりできることだった」と桜花氏はいう。
「VRで待ち合わせる、というのは結構大変です。しかしWebが表示できれば、TwitterのDMなどで『もうVR内にいますよ、こちらで会議を』などと伝えて、入ってもらうことができる」
文字については、一応Oculus Goから入力することもできるが、手元にあるスマホを、HMDと鼻の間の隙間から見て、音声で入力するのが現状のやり方になっている。
一方で、会議に参加する人が全員VRから参加する必要はない。PCから参加できるようにもなっているからだ。「中継モード」と呼ばれる機能なのだが、これは主に議事録をとる人のことを考えてのものである。だが、Web上での情報をPC側の人がまとめ、議長にメッセンジャーなどで伝えることで、タイプによるVR内への情報入力を補足する役割も担う。
中継モードでの情報はYouTube Liveを介して見るようになっている。だから、会議の様子を後から映像で確認することも可能だ。
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