桜花広場の最初のバージョンができたのは2018年12月のこと。2月半ばにはバージョン40を超えており、「ほぼ毎日、何かのアップデートをしている」状況だ。まさに日々「使いながら作っている」ような状況である。
こうして開発されたサービスのマネタイズについて、どう考えていたのか? 桜花氏は「最初は何も考えていなかった」と笑う。冒頭で述べたように、あくまで自分たちのために作ったものだからだ。
「他のVR会議システムとの最大の違いは、本気で私たちが使っているからです。『中継モード』を作ったのも、全ての人が常に、いつでもVRを使えるわけではないからです。深夜しか時間を割けない人でも、中継モードを使って録画した映像があれば、あとから会議の様子を確認することができます。いろいろな働き方の人に対応するには、そうした仕組みが必要です。でも、『ここはどうしてもよく分からない』という部分が出てきたら、そこは改めてVRで会議し、個別に説明すればいい」
会議の記録は重要だが、基本はやはり議事録。会議を毎回録画している人はあまりいないだろう。またVR会議システムやVRチャットシステムでも、「録画機能があることを前提」としているものは少ない。少なくとも筆者は知らない。
「現状、自社内であれば、実際に会わないといけない状況は『ゼロ』になりました。ただ、ネットワーク関連のテストをするときは頭数がいるので、実際に会った方がいいですね。あと、意外と総務作業などは、書面のやりとりを含めた物理的な作業があるので、対面の必要もあります。でも、ことソフトウェアの開発についてであれば、顔を合わせる必要はないですね」
一方、リモートワークの在り方について、桜花氏はこうも話す。
「全てをVRでやる必要はない、と思っています。現在のものは、本気で使う、必要なものだけを作っている状況です。情報共有はチャットなどでもいいですし、ブレインストーミングであれば、ホワイトボードを囲んで実際にやった方がいい。ですが、各人にチケットを渡して働いてもらう、といった部分については、必ずしもお互いに近くで働く必要はない」
戦略やアイデアなどをやりとりする部分は顔を合わせた方がいいけれど、そうでない部分は情報のやりとりで済む部分もあるし、ミーティングが必要ならばVRで会議をしてもいい。現在できないことをうまくミックスすることが重要だし、「いまできない」のがVR会議だったので作った……というのが桜花氏の発想だ。
いま必要な機能を問うと、桜花氏は「今、VRで会議に誘っていいかが分かるような仕組み」と説明した。
「実際に同じオフィスで仕事をしていると、背中で『いま話しかけていいか』を語っていたりするじゃないですか(笑)。同じように、今忙しいのか、それとも会議に誘っていいかを、わざわざ聞かなくても分かるシステムが欲しいです。カメラで仕事中の姿勢を認識し、そこから推測したりすれば判別できるのではないか、と思うのですが」
集中している、忙しい相手を邪魔しないで会議に入るための配慮が必要、という発想だ。確かにこれは、VRとは直接関係ないものの、必要な仕組みのように思える。
冒頭で述べたように、桜花広場は2月から高級エステサロン「HSbodydesign」を運営するアキュートリリーにテスト導入が検討されている。
だが、これもビジネスベースで決まった話ではない。「いくら頂くか、相場もないものなので話し合って進めていきたい」(桜花氏)という状況だ。
そもそも、アキュートリリーとの関係も、本当に草の根の活動が元だ。アキュートリリー社長の白鳥紘子氏が、Twitter上で「店舗間での申し送り会議を遠隔でやる方法はないか」と困っているのを桜花氏が見つけ、桜花広場のテスト利用を持ちかけた……というのが経緯になる。桜花氏はVRのエヴァンジェリズム活動の一環として、VRについて困っている人を見つけると、進んで助言などを行っている。その延長線上で、今回の話も進んでいる。
「これから桜花広場をビジネスにしていきたいとは思っています。ですが、どうもうけるか、どういうビジネス形態がいいのかは、考えているところです」
2月中旬に取材した際、桜花氏は筆者にそう答えた。その後桜花氏は、桜花広場のビジネス化に向けて、創作物のオンラインマーケットである「Booth」を介し、まずは「クライアント用アプリの利用コードを売る」形でビジネスを開始した。これは本格的な展開というより、「会議システムとして使ってみたい人を募り、磨いていく」一環といえそうだ。
今後、大手ITサービス提供企業もVR会議には参入してくることだろう。だがその前に、「VR会議を実際に使うと何が必要か」を検証して作り上げた桜花広場から得られた知見は、とても貴重なものとなるだろう。
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