2019年になぜ「スマホからPCへの回帰」が現れ始めたのか本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

» 2019年12月30日 07時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

5G時代になってもスマホの本質は変わらない

 このことは、恐らく携帯電話回線が5Gにアップグレードされたとしても変わらない。

 中国では安価な5Gスマートフォンが既に登場し、韓国は政府支援で5G端末を安価に入手できる環境を整えることで、急速に5G端末市場が立ち上がっている。米国も中国と争うように、5Gネットワークの整備に取り組んでいる。

 こうした状況にいら立ちを覚える国内の関係者も少なくないようだが、日本での5G端末の普及はさほど早くないと考えられている。IDC Japanは日本での5G端末シェアが25%、800万台を超えるのは2022年という予測を出している

IDC Japan IDC Japanが2019年6月に発表した国内5G携帯電話出荷台数(左軸)ならびにシェア(右軸)の予測

 韓国では今年、前述の施策もあって300万台の5G端末が売れたというが、日本では端末の買い替え施策を政府が支援する計画や意志はなく、5G端末が高止まりすると考えられるからだ。

 自分たちの使い方を考えてみていただきたいが、現在国内で販売されているスマートフォンはLTE世代でも十分にその機能を享受できる。スマートフォンが生まれ、育ってきた背景と5Gを重ねても「速くダウンロードできるスマホ」にしかならない。

 スマートフォンという成熟期を迎えた製品を、5Gという新しい世代の通信サービスに重ね合わせてみても、それは「より良いスマートフォン」にしかなりえず、そこにイノベーションは生まれない。

 一方で異論もある。

 5Gスマートフォンが普及し、誰もが簡単に手にする時代にならなければ、5Gを活用したアプリケーション、サービスは生まれてこないのではないか、という意見だ。日常的に5Gに接する機会がなければ、アイデアが生まれないとすることにも、一定の理はありそうに思える。

 しかし今年1年を振り返り、いやここ数年を振り返り、同じ世代とはいえLTEモデム、スマートフォンともに大きくパフォーマンスが向上しているにもかかわらず、全く新しいアプリケーションが生まれている状況にないと感じている。

 もちろん、内蔵カメラの充実は目覚ましく、画質と撮影領域の拡大を求めて買い換えるユーザーは一定層いるが、言い換えればカメラ以外に評価できる部分も少なくなってきている。

Mi Note 10 スマートフォンの内蔵カメラは複数台の搭載が当たり前、画素数は1億超えに(写真はXiaomiの「Mi Note 10」。1億800万画素カメラを含む6つのカメラを内蔵する)

 昨年はエッジAI技術の進展が、この状況変える可能性について言及したが、今のところは「スマートフォン」という商品フォーマットの殻を打ち破るものではない。これは5Gになっても本質的に変わらないだろう。

5Gで世の中が変わるには時間がかかる

 いずれにしろ、日本で5Gが(かつての3GやLTEのように)対応端末の拡販を促す、いわば新陳代謝を高めて一気に勝負といった動きになる可能性は少ないだろう。5G端末市場が立ち上がっている他国でも、どのように5Gを生かしていくかについては、まだ模索しながら走り続けている印象だ。

 一方、日本はどうしているのかというと、5Gの特徴である「大容量」がまだ実現できない(最初のリリースには仕様が含まれていない)中、「ローカル5G」という特定の地域や設備、施設を5Gエリア化してB2Bでアプリケーション開発をしていくところに力を注いでいる。

 既に市場開発が進みきった「スマホの領域外」のアプリケーションを作るため、漁業、農業、スタジアム、工場などを5Gでネットワーク化し、効率を上げる手法、サービスを開発していくことで新たな価値を見いだす意図がある。

NEC NECによる「ローカル5G」の利用イメージ。同社は12月にローカル5G事業への本格参入を発表した

 ローカル5Gで用途を開拓した後、5Gが大容量に対応した段階でそれらが一気につながっていけば、自動車、工場やプラントなどの産業、ホームセキュリティ、点検・監視や健康管理、医療分野などさまざまなジャンルでイノベーションが起き、結果的により良い社会になるという考え方だ。

 つまり、端末という「モノ」ではなく、全てのモノがつながり、それらをサービスでまとめ上げることで価値を生み出すという「コト」になる。そうなると、しばらくは「ワクワクする端末」には出会いにくくなるかもしれない。

 また日本(だけではないが)の法規制は、IoTや5Gを前提としていないため、イノベーションが起きにくい状況にある。例えば身近なところでは、コンビニで公共料金が決済できるというのに、紙の支払伝票処理はなくなっていない。電子的に処理する方法はいくらでもありそうだが、実は紙の伝票での処理が法律で義務付けられているそうだ。

 上記は笑い話だが、同様のことは5Gを応用する各ジャンルで存在する。今年6月に政府は規制改革会議を立ち上げたが、これはまさに「どんな規制がイノベーションを妨げるか」を洗い出すものだという。

 例えば化学プラントは1年に1度、1日操業を止めて人間が目視で設備の点検を行わねばならない。しかし多数のセンサーや高精細カメラを配置し、秒単位でAIが異常診断や調整を繰り返す方が安全性も効率も高いだろう。

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