以上のような残念な点以外に、技術的に仕方なかろうとはいえ、実用上は問題になりうるので、何とか迂回(うかい)したい問題もいくつかあります。
まず、冷却ファンがうるさいことです。苦痛になるような音でも、うなったり止まったりを激しく繰り返すこともありませんが、顔に近いこともあってデスクトップPCとは比べ物にならないうるささです。そのため静かな自室の作業では、スピーカーで音楽を鳴らしていても微妙に快適ではなく、密閉型のヘッドフォンで音楽を流していれば問題ない、ぐらいでした。
次は、画面が熱くなって不快なことです。主にボディーの右半分が熱くなります。個人的には素手+正位置では常用は遠慮したいほど不快ですが、いつもの綿手袋をして、左右逆置きにすることで、何とか気にせずに作業することができました。
そして、かなりトリッキーなのは、バッテリーの持ちです。下のグラフのように、作業の種類によっては1時間半で残量がなくなってしまいます。
Photoshopは、特にマルチコアとGPU演算をしっかり使うので、バッテリーをガブガブ飲むようです。CLIP STUDIO PAINTは今回、彩色工程を測れませんでしたが、ブラシの処理にはマルチコアもGPU演算もほとんど(全く?)使わないため、パフォーマンスの限界が低い代わりにPhotoshopよりはバッテリーにやさしいはずです。
関連して、USB Power Delivery(USB PD)規格を採用していながら、大きくて重い専用ACアダプターしか使えない点も評価が厳しくなります。ワコムに質問したところ、本体の動作は100W(20V×5A)の入力しか受け付けず、他社のUSB PD製品は保証対象外とのことでした。電力制御はそんな簡単じゃないと言われそうですが、30Wぐらいでも受け取って、足りない分はバッテリーで動いてくれれば、モバイルの実用性が飛躍的に上がるのにな……と思います。
概ね、以上の問題はTDP 28Wという通常のノートPCの2倍近いパワーを消費する高いパフォーマンスのCPUと、高性能なGPU、画面表示のための計算量がフルHDの4倍にもおよぶ4Kディスプレイ、これらの条件が重なって起こっているのでしょう。今回はテストできていませんが、画面解像度の設定をWQHD(2560×1440ピクセル)やフルHD(1920×1080ピクセル)に落とすと、いくらか軽減するかもしれません。
冒頭にも書きましたが、先代のMobileStudio Proは、初期には安定性の問題、中後期には画面の部分変色と、画面浮きが問題になっていました。画面の部分変色と画面浮きは、バッテリーの膨張が原因だろうと言われていて、SNSを検索すると多くの方が遭遇していることが分かります。
まず安定性についてですが、2週間メインの製作機としてがっつり使って、メモリの差し替えもして、PhotoshopやCLIP STUDIO PAINT、高負荷なベンチマークテスト、大規模なWindows Updateも走りましたが、調子が悪くなることはありませんでした。長い期間でもなく、手元の1台だけの結果なので判断しづらい面もありますが、自分なら満足できる安定性と判断すると思います。
次にバッテリーです。ワコムとしては、この問題の解決に取り組んでいる様子で、先代にも「長い間、コンセントを挿したままなど長時間連続した充電を行うと、内蔵バッテリーに長時間電圧がかかり、短期間で内蔵バッテリーが膨張する現象を軽減」としたファームウエアの更新を配布しています。
一方で、ノートPCではバッテリーの充電状態を負担の小さい60%などで維持できる機種もありますが、MobileStudio Proにその機能はありません。また、この点は本当に大事なので、ACアダプターを接続したままで運用すると故障につながる問題にどう対処しているかについて、ワコムに聞いてみました。
「新しいMobileStudio Proでは、バッテリー膨張を抑えるように電源管理を行っています。さらなる更新として、バッテリーの寿命劣化の抑制を目的としたアップデートも後日リリース予定です」との回答をいただきました。後者が上に挙げた機能だといいな……と思います。ともあれ、安定性と信頼性については先代よりも改善に向かっているのは間違いなさそうです。
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