もっとも、過剰に口コミを抑え込むと、今度は製品の評価が定まらず、どこかで影響力のあるレビューが出てくる度に、評価が極端に上がったり下がったりという問題が発生する。これに対する効果的な抑止策が、近年よく耳にするようになった「アンバサダー制度」だ。
アンバサダー、つまり自分たちの息がかかったユーザーを応援団として起用し、彼らによる好意的な評価が製品に興味を持ったユーザーの目にとまりやすくなるよう、製品ページからリンクを張るなどして露出を行う。そうすれば、物量をもって、よい評価を定着させられる。また同時に、好ましくない評価を相対的に目立たなくする効果もある。
また、アンバサダー制度のもう一つの大きなメリットとして、これからレビューを投稿しようとしているユーザーの意見を、肯定的な方向に導きやすいことが挙げられる。口コミを書こうとするユーザーは、常に自身のオリジナルの意見を書くわけではなく、既存の評価を参考にすることが多い。「うっかり的外れなことを書いて恥をかかないよう、既出の口コミを確認しておこう」というわけだ。
そこでアンバサダーによる肯定的な口コミを目にすると、よほど発信しなければ気がすまないクリティカルな問題点でもない限り、それらに影響されて、全体的に肯定的なトーンへと塗り替えられる。結果、メーカーにとっては好ましい、無害な口コミが出来上がるというわけである。
余談だが、こうした手法はアンバサダー以外にも存在する。例えば、なぜか新製品が店頭に並ぶ前に公開される識者によるレビューなども、同様の効果を狙ったものと考えてよい。そこで肯定的な評価が出回れば、後続の口コミのトーンにも影響を与えるし、たとえネガティブなレビューが出たとしても、数の論理で影響を最小限に抑えられる。
前回紹介したように、販路をネット直販のみに絞る方法にはメリットもあればデメリットもあるが、こと口コミのコントロールという点にフォーカスすれば、明らかに有利な面が多い。特に、過去に口コミ絡みで痛い目に遭った経験のあるメーカーは、こうした方法を選択しがちだ。
さらに、以前紹介した、特定のECサイト限定の型番を付けて売る方法を組み合わせれば、万一ネットで悪い評価が付いても、別の製品であるかのように振る舞うことが可能になる。少なくとも、元の型番で検索してきたユーザーが、その悪評に到達することはない。
こうしたやり方に眉をひそめる人もいるかもしれないが、多くの国内のメーカーは、一部の海外メーカーがAmazon上でさかんに行っているといわれる、ヤラセレビューや悪い口コミの削除、製品の提供といった直接的な方法には極めて及び腰だ。発覚すれば、メーカーの存続を脅かしかねないからだ。
そうした背景もあって、今回紹介したような、表からはなるべく目立たない形で、口コミを自社寄りに持ってくるコントロール・テクニックが発達したと考えれば、いかに日本的なやり方として、その印象も変わってくるのではないだろうか。
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