PCアクセサリーのパッケージ裏事情 店で売るには細かな変更が必須 ブランディング目的の刷新はコケる牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2020年08月30日 09時30分 公開
[牧ノブユキITmedia]
work around

 今年の6月ごろ、とある製品パッケージのリニューアルがネットで物議を醸した。著名デザイナーを起用して、ローソンにおけるPB(プライベートブランド)製品のパッケージを全面刷新した結果、ひとめ見ただけでは区別が難しいデザインが続出したのだ。SNS上で激しい論争が巻き起こったのは記憶に新しい。

 こうしたパッケージの一斉リニューアルは、現場から声が上がるのではなく、トップダウン案件で行われることがほとんどだ。その裏には「広告代理店の口添え」があることもしばしばなのだが、いずれにしても、崇高なお題目を掲げてプロジェクトを進めていくうちに、ユーザーが必要としているパッケージデザインとは乖離(かいり)することも少なくない。

 実作業に当たるスタッフも、デザインが降りてきた段階で「ズレ」に気が付くものの、トップダウン案件なので口を出せずにそのまま実施に至ってしまう。むしろ「言う通りにやって爆死すれば、二度と口出しして来ないだろう」という意図で、炎上を期待している節すらある。そもそもこれまでディレクションをしてきたスタッフが、その程度のことを分からないわけがないからだ。

 今回のローソンの件が、こうしたケースに該当するかは明らかではないが(ちなみに同月の時点では、この件による売上減少はないとされている)、本連載で扱っているPCアクセサリーやパーツの業界におけるパッケージ変更は、こうしたケースとは趣旨がかなり異なっている。PCアクセサリー・パーツ業界ならではの事情をみていこう。

PCアクセサリー・パーツは小まめなパッケージ変更が求められる

 PCアクセサリーやパーツは、冒頭に挙げたローソンPBブランドの食品などと違い、本体のデバイスありきの製品であり、本体デバイスの新製品が出れば、既存製品の対応がガラリと変わってしまうことが大きな特徴だ。

 例えばLightningケーブルを例に挙げると、発売当初はパッケージに「全てのiPhone・iPadに対応」と記載していたのが、USB-C対応のiPad Proが登場すると、「Lightningコネクターが搭載されたiPhone・iPadに対応」に修正しないと、つじつまが合わなくなってくる、といった具合である。こうした修正が、事あるごとに繰り返される。

 このように対応機種が変更になった場合、短期的にはパッケージにシールを貼って対応するのだが、これが積み重なってくると、パッケージが破綻の様相をきたしてくる。シールを貼るスペースがなくなったり、あるいはシールを貼った上からまたシールを貼らなくてはいけなくなったりする。これが全製品に及ぶのだから実にカオスだ。

 そこでキリのいいタイミングで、パッケージを作り直し、ついでに不ぞろいになりつつあったデザイン自体も統一しよう、となるわけである。このように、適当なタイミングごとに、ひとくくりのジャンルごとにパッケージのリニューアルが行われるのが、この業界の製品の特徴といえる。

手間を掛けずに勝手に売れるためのパッケージ

 一見すると手間ばかりが掛かるこれらの作業だが、体力のないメーカーはこの作業がおろそかになりがちだ。シールの貼り付けなどによってパッケージの対応機種は更新したものの、パッケージは不ぞろいのまま放置されることも少なくない。そしていつしか、対応機種の更新すらも止まってしまうのがお決まりのパターンだ。

 量販店のバイヤーは、こうした部分を見逃さない。なぜなら量販店にとって、PCアクセサリーはいちいち接客して売る商材ではなく、放っておいても勝手に売れてくれることが重要だからだ。そのためにはユーザーが疑問を自力で解決できる情報を盛り込んだパッケージでなくてはならない。

 もちろん重要なのは品ぞろえであることは言うまでもないが、量販店で面を取って陳列するからには、最低限まとまったデザインが求められる。特に新店がオープンするとき、定番メーカーとしてバイヤーから指名されるのは、こうした更新作業がきちんと行え、かつデザインもある程度統一され見栄えのよいメーカーに限られる。パッケージの更新作業すらできないメーカーが選ばれることはない。

 一般的に新店のオープンにあたっては、PCアクセサリーやパーツのように小物で占められる棚が、丸ごと1社のメーカーに任せられる傾向がある。「このコーナーは任せるから、過不足ないようにラインアップを考えておいて」と丸投げし、オープンしてから売れ行き不振の製品が出てくれば、メーカーの責任で入れ替えさせる。こうすれば、バイヤーは手を煩わせずに済むからだ。

 こうした場合、パッケージに対応情報がきちんと記載され、かつデザインが統一されていることは、選定にあたって大きなウェイトを占める。メーカーにとっても、新店オープン時のまとまった額の売り上げはばかにならないし、いったん棚を取ってしまえば、後は他社に棚を奪われないようメンテをしていれば、着実に売り上げが上がっていく。最初に他社に取られてしまうと、あとからひっくり返すのは困難だからだ。

 結果的に量販店の新店では、デザインの見栄えがよく、また接客なしで売れるよう対応情報が整理され記載された製品が、ズラリと並ぶことになる。普段からパッケージの更新作業もできないメーカーとの差は、開く一方だ。

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