不具合品の交換用にメーカーがキープしている「ウラ在庫」とは?牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2020年12月28日 11時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]
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 PC周辺機器に何らかの不具合が発生し、メーカーに連絡した場合、修理対応ではなく交換になることが多い。「新品になって戻ってきた」と無邪気に喜ぶユーザーもいるが、原因が全く究明されないまま、同じ不具合を持つ可能性のある個体と入れ替わっただけかもしれず、あまり歓迎できる話ではない。

 こうした不具合の代替として出荷される機材は、幾つかのランクがあって管理されていることはご存じだろうか。もちろんメーカーによって差はあるが、保証期間内に繰り返し不具合が発生したとして、回を重ねていくとランクが異なる機材、要するに不具合の確率がより低い品が届くというのが、よくあるパターンだ。

 メーカーによってこうした対応は千差万別であることをお断りした上で、PC周辺機器業界で多く行われているパターンについて、今回は紹介する。

良品交換はくじをもう一度引き直しただけ?

 PC周辺機器の中でもコモディティ化している製品、例えばマウスやキーボードなどの製品は、不具合が起こった場合、修理ではなく新品交換になるのが普通だ。メーカーのサポート窓口が直接対応することもあれば、不具合品を持ち込まれた販売店が自己判断で店頭の在庫と交換し、後からメーカーに強制返品するパターンもある。

 いずれの場合も、新たにユーザーに届く交換品は、店頭で新たに新品を購入するのと同等の品ということになる。つまり、元の品と同じ検品基準で、同じように入庫してきた製品であり、従って不具合が発生する確率は等しいことになる。くじをもう一度引き直したにすぎない。

 不具合品を交換する以上、動作確認を行ってから出荷すべきだろうと憤るかもしれないが、単発の不具合が起こる度に抜き取り検品を全数検品に切り替えたり、はたまた在庫を一つずつ開封し、再検品したりする余裕は全くない。不具合のない製品がユーザーの手元に届くまで、繰り返し交換を行うことになる。

 つまり検品業務を実質的にユーザーに行わせているわけだが、そもそもロット不良でもない限り、同じユーザーが何度も繰り返し不具合品を引き当てる可能性は低いし、またPC歴の長いユーザーほどこうした対応には慣れており、ここから大きなクレームに発展することはまずない。

クレームのステージが上がると登場する「ウラ在庫」とは?

 上記の交換フローには、大きく分けて2つの問題点がある。

 一つは、交換した品にもまた不具合があり、再交換を余儀なくされるケースがあることだ。前述のように確率は高くないが、通常であれば不良品とみなされないような点、例えば塗装の細かい剥がれや、樹脂成型のひずみなどにツッコミを入れてくる神経質なユーザーの場合、同じクレームが二度、三度続くことがある。

 もっともメーカーとユーザーが直接やりとりしている限り、どんなに話がこじれても、せいぜい愛用してくれていたファンを1人失うだけで済む。最近はモンスターカスタマーの存在も認知されてきたため、ネットで告発したり不買運動を起こしたりしても、そのユーザーが「ヤバい人」というレッテルを貼られることも少なくない。メーカーにとってあまり痛手はないケースだ。

 問題になるのは、こうした繰り返される不具合交換の対応が、販売店経由で行われている場合だ。メーカーはファンを1人失ってもそうダメージはないが、販売店にとっては、巻き込まれて不買の対象にされてはたまったものではない。その結果、ユーザーは至って冷静であるにもかかわらず、間に入っている販売店の店員がブチ切れる場合がある。

 怒った店側はメーカーに「迷惑を掛けるのもいい加減にしろ、これ以上不具合が続くならお前のメーカーの製品は取り扱いを止めるぞ」と脅しをかけてくる。実際、売る側からすると、不具合が続くメーカーに不信感を抱くのは当然だ。もしそうなると、メーカーはファンではなく販売チャネルを1つ失うことになりかねない。これはさすがに都合が悪い。

 そこでメーカーはこうした場合のために、入庫時の検品とは別に社内でチェックを行い、不良の疑いが限りなくゼロの良品在庫を、帳簿外の個体としてキープしている。名目はサンプルだったり、修理用部品だったりとさまざまだが、不具合交換がこじれてクレームのステージがワンランク上がると、これらを交換用の機材として出荷し、事態の収拾を図る。

 こうした「ウラ在庫」があるかないか、あったとしてどの程度の数量がキープされているかは、メーカーによっても異なるし、製品によっても違う。全社的に行っていることもあれば、危機管理能力の高い担当者が個人的にやっているだけで上司も把握しておらず、その社員の退職や異動によって、それまでできていた対応がボロボロになることもある。

 ともあれ、不良率が高くモメやすい製品は、交換にあたるサポート窓口の社員が、空き時間にちまちま検品を行い、ウラ在庫を「生産」していたりもするし、シリアルなどで不良率が高いロットとそうでないロットを明確に見分けられる場合は、有事に備えて安全なロットをキープしていたりする。もちろんこうした行為は、表からは見えることはない。

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