2020年はモバイルとPCのテクノロジーが交差・融合した年だった。
思い返せば20年前。Intelが「Pentium 4」をリリースするころ、テクノロジージャーナリスト仲間の間では「PC業界はいつまで今の規模を維持できるだろうか」と疑問を投げかける者も少なくなかった。
さらにさかのぼること5年、25年前に登場した「Pentium Pro」が作り出した「クロック周波数絶対主義」の流れが極まったのがPentium 4だったが、その後の行き詰まりもそれとなく想像できていた。
そのままではパフォーマンスを得るために電力が無限に必要だと思えたからだ。しかし、世界の天才が生み出す英知は凡人の懸念など吹き飛ばし、高効率化こそが高性能をもたらすと方向を定めた「Pentium M」が2003年に登場して現在への進化の流れを作り出した。
このように「パソコン」という視点でみたとき、世の中が変化する節目は、これまでにも幾度となく存在してきたが、2020年も後になって思い出される年になるだろう。Windows PCとMac、いずれのプラットフォームもスマートフォンなどモバイル端末の長所を取り入れ、大きく進歩する年となったからだ。
ここでCPUやGPUの性能だけではなく、コンピュータを構成するプラットフォーム全体が改善され、ノートPCの利用体験が大幅に、革命的によくなったと言いたいところだが、実際には「ノート型パーソナルコンピュータのモバイル体験が、スマートフォンやタブレットに追い付いた」と言うのが正しいだろう。
Intelは「第11世代Core」プロセッサ(開発コード名:Tiger Lake)を中心に構築した「Intel Evo」プラットフォームでモバイルPCの体験を大きく向上させ、Appleは主にiPhone向けとして培ってきたさまざまな技術を「Apple M1」プロセッサに統合することで持ち歩き系Macの体験を高めた。
どちらもアプローチは違うが、狙いは同じではないかと感じている。
Evoは特定のCPUやインタフェースを示すのではなく、プラットフォームを構成する要素とそれらを組み合わせることで実現できるさまざまなな要素を総称したものといえる。
Intelはこれまでもプラットフォームにブランド名を付け、メーカーの垣根を超えて採用する製品全体が大きく前に進んだことを示すプロモーションを行ってきた。Wi-Fi標準搭載で省電力CPUを搭載した「Centrino」、薄型軽量ノートPCトレンドを作った「Ultrabook」などがそれだ。
しかし、Wi-Fiスポットの世界的な普及を促したCentrinoは大成功事例といえるが、薄さを主たる目的に据えたUltrabookはメーカーの違いによる多様性を殺した側面があったように思う。
これらに対してEvoというブランドは、ノートPCを使いこなす際の一定の体験レベルを定め、そのレベルを引き出すために必要なツールを半導体チップと開発ツールの両面でIntelがサポートしたものといえる。
その結果、パフォーマンスやバッテリー持続時間、サスペンドおよびレジュームの俊敏性、深掘りするなら発熱の少なさや急速充電性能など、さまざまな面でノートPCの基礎体力を高め、これまでとは違うノートPC体験を引き出している。
筆者も富士通クライアントコンピューティング「FMV LIFEBOOK UH」やレノボ・ジャパンの「ThinkPad X1 Nano」などで、その実力を体感することがあった。
スマートフォンやタブレットで当たり前のことがWindows PCでも当たり前になった(つまり大きく前進しているのではなく、モバイル体験としては他ジャンルとはいえ追い付いた)だけにもかかわらず、実際に体験するとここまで使用感は高まるのかと感心した。
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