Windows 10Xの迷走にChromebookの陰Windowsフロントライン(2/2 ページ)

» 2021年03月30日 12時00分 公開
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拡大するChromebookの市場と忍び寄る影

 前項の説明にあった(シングルスクリーン版)Windows 10X搭載PCが、どの商戦期を狙うのかという話だが、これまで説明した経緯にあるようにChrome OS、より具体的にはChromebookの市場を攻略するという意味で2021年夏時期のBack to School商戦を狙うのだと筆者は考える。

 通常のコンシューマー市場を狙ったPCであれば、2021年末のホリデーシーズン商戦が最適だが、今の時点でChromebookの勢いを削いでおかないと、今後教育分野でMicrosoftが取り返すのが難しい状況に陥る可能性が高い。

 このChromebookの現状について、西田宗千佳氏がImpress Watch上にまとめたレポートが理解に適している。

 日本政府が学校へのスマートデバイス配置プロジェクトとして進める「GIGAスクール構想」について、ベンダー別シェアではAppleがトップの座に位置するものの、これがChrome OSベースの製品というカテゴリーで分けると43%の単独首位となる。MicrosoftのWindowsを搭載した製品はシェア3位であり、実質的にChromebookの2020年の躍進を受けて後じんを拝した形となる。

 いずれにせよ、管理の容易さを軸にWindowsよりも安価な価格帯で“それなりに”動作するハードウェアが各社から供給されており、教育用途に十分なニーズを満たしている。2020年に日本でもこの傾向はさらに進んだと考えられ、おそらくMicrosoftが巻き返すのはこのままでは難しい。

 米GoogleでChrome OS担当プログラムマネージャーのジム・デーノ(Jim Deno)氏が2021年1月に投稿したBlog記事によれば、Chromebookは提供開始から10年を経て順調に成長を続けており、現在では教育市場で4000万台のデバイスが稼働しているという。同氏の記事には年ごとの推移が紹介されているが、英語圏を中心にシェアが過半数に達しているところも少なくない。

各国での教育市場におけるChromebookのシェア(出典:Google)

 この辺りはThe Informationの記事でも触れられている(要登録)

 同誌が調査会社IDCのデータを引用して報告するところによれば、2019年に米国の教育市場におけるChrome OSのシェアが62.5%、Windowsが30.42%、Macが7.08%だったものが、2020年にはChrome OSが63.96%、Windowsが30.05%、Macが5.99%となり、わずかではあるがWindowsとMacのシェアを着実に削っている。

 iPadなどのデバイスも合わせれば、メーカー別ではAppleが単独1位となるのは米国でも日本と同じ状況だが、これはもともとAppleが教育市場に力を入れていた背景によるもの。それでもなお、Chrome OS勢の勢いを止めるには至っていないというのが現状だ。

Chromebook 10年前にスタートしたChromebookは世界の教育市場で着実に浸透しており、今では4000万人の学生と教育者が利用しているという(出典:Google)

 これが結果として、教育以外の市場にも影響を及ぼしつつある。GeekWireの2021年2月16日の報道によれば、2020年に世界の“PC”市場においてChromebookがMacの販売シェアを抜いたという。

 同誌の記事中でも触れられているが、もともとGartnerといった調査会社のPC市場の台数集計にはChrome OSデバイスが含まれないため見落とされがちだが、PCの世界シェアで1割強を維持するといわれるMacをChromebookが抜いたということは、既に1割以上のシェアを獲得していることを意味する。

 2020年は半導体などの部品供給が追いつかなかったことで、PCが販売機会を失ったという話があったが、それでも市場そのものは成長している。IDCの報告によれば、2020年第3四半期に世界のPC出荷台数は前年比で14.6%成長し、同年第4四半期には26.1%もの成長を見せている。

 近年、PC市場は横ばい、あるいは減少を繰り返していたことを考えれば、これは驚異的な成長率だ。それでもなお、この成長にChromebookが食いついてくるということは、いわゆる従来の“PC”という市場をChrome OSが浸食し、規模そのものを拡大させつつあるということを意味する。

 筆者の予想では、コロナ禍もあり例年にない好況に沸いた2020年のPC市場だが、この反動は遠からずやってくる。もしそのとき、教育市場を地盤に支持を獲得したChromebookが引き続き市場を拡大させていくのであれば、Windowsが盤石といわれたPC市場を揺るがしかねない。おそらく、リリースに混迷を極めるWindows 10Xがその門出に慎重を期するのも、こうしたトレンドをひっくり返すだけの期待が込められていることの裏返しなのかもしれない。

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