最も華やかで最もモヤモヤする Apple M1搭載「iPad Pro」レビュー(4/5 ページ)

» 2021年06月24日 12時00分 公開
[refeiaITmedia]

超重量級イラストで使用感をチェック

 さて、気を取り直しまして。

 何はともあれ前のモデルより良くなっているのは確かです。そこで今回は、自分の制作歴の中で最も大きい類いのイラストを用意して、それをiPad Proで作業できるかを見ていきたいと思います。

12.9 iPad Pro テストに使ったイラスト

 制作当時の条件は以下の通りです。

  • 多少トリミングしても大判の高精細印刷に耐える、長辺9700ピクセル
  • 効果レイヤー/調整レイヤー/テクスチャレイヤーの大量使用
  • 第2世代Core i7/メインメモリ16GB
  • Windows/Photoshop

 iPadにはフル機能のPhotoshopは無いので、CLIP STUDIO PAINT形式に変換して、容量を2分の1、4分の1、8分の1に縮小したものを用意しました。そして、それぞれをiPad Proや比較用のWindows PCで作業していきます。

 読み込み、ズームイン/アウト、キャンバスのスクロール、レイヤーの表示非表示、服とクッションの彩色、レイヤーグループの移動と変形、別名で保存、PSDで保存、という一定の操作です。完全に一定にはできませんが、作業できるかどうかは分かるはずです。その結果がこちら。

12.9 iPad Pro Windowsは2019年発売のCore i7搭載の薄型ノートPCです。重いファイルでストレスを受け続けるという“マゾいテスト”の割に、質素な見せ方しかできなくて心が痛みます

 ファイルの保存時間も見せたかったのですが、作業状態やプラットフォームによってばらつきが大きすぎるため省略しています。2分の1サイズ以上だと保存するにも1分〜数分かかることが多くて、実用には厳しい印象でした。

 ここから2つのことが言えます。1つが、同等のメインメモリを積んだWindowsよりも作業性が悪いことです。iOS系デバイスを評してよく言われる「他のデバイスの1.5倍〜2倍はメモリがある感覚で使える」とは真逆ですね。今回はアプリが確保可能なメモリの差が出てしまったのでしょう。

 もう1つが、PCでも元サイズの作業はつらい=フル機能のPhotoshopが使いたい! です。Photoshopは軽いファイルのサクサク感はイマイチですが、マルチコアやGPUの利用、バックグラウンド保存など、ファイルが巨大になってきたときに操作感の悪化を押しとどめる仕組みが機能しています。CLIP STUDIO PAINTにあるイラスト特化の便利機能の数々は本当に素晴らしいのですが、iPadではPhotoshopの選択肢が道半ばでしかないことも、また重要な点です。

 あと1点、テストには含めていませんが、ブラシやレイヤー表示/非表示などの操作はメモリ不足の影響下でない限りは、iPad Airの方が明らかに軽かったことも添えておきます。CLIP STUDIO PAINTはコア数の増加に恩恵がある操作は少なく、画面のピクセル数に対しては素直に遅くなる傾向があります。iPad ProのCPUコア増分はメリットにならず、12.9インチの大画面はハンデになっている、ということですね。

イラスト用途のまとめ

 さて、そろそろまとめていきましょう。まずはイラスト用途として。

 最大で16GBのメインメモリに対応した2021年のiPad Proは、6年前にApple Penciと共に登場してからイラストや漫画制作ユーザーと共に歩む中で、最大の悩みの1つだったメモリ不足問題に、完全解決の筋道をつけた1台です。しかし、16GBモデルが高額なこと、仮にそれを得たとしても、現状のOSとアプリからは十分な恩恵が得られないことを考えると、実際に購入するかは容易な判断ではありません。

 またApple Pencilも、充電などの使い勝手は大きく進歩しましたが、ガラスにぶつけるような感触の悪さ、皮脂や汗に影響されて滑ったり引っかかったりする摩擦、ペン先の感覚と実際の描画位置のずれ、急いで書いた文字やハッチングにカギ状の乱れが出てしまう「空中筆圧」問題など、初代から6年経ったのでそろそろどうにか……と言いたくなる弱点が数多く残っています。

12.9 iPad Pro ペン先がわずかに浮いていても線が出てしまい、素早いストロークを繰り返すと影響が出やすいです。丁寧に描けば済む話ではあります

 また、12.9型とイラスト用途という鉄板の組み合わせについても、イラスト用途のユーザーの多くは画面にフィルムを貼るので、漆黒を表現できる高級ディスプレイに払った費用が無駄になります。

12.9 iPad Pro 左から、クリアフィルム、フィルム無し、ペーパーライクフィルムです。ペーパーライクフィルムは言わずもがな、クリアフィルムでも、本体の低反射コーティングが無効化されてしまいます

 といったように、華々しい仕様なのに、それとも華々しい仕様だからこそなのか、イラスト用途のユーザーにとってはなかなか悩ましいのが2021年のiPad Proです。

 自分は2020年のモデルを持っているので買い換えませんが、もし買うとしたら、ボリュームゾーンを離れすぎない、あまり高くないメインメモリ8GBのモデルでふんわりと恩恵を受けて過ごしながら、OSやアプリの変化を見ていくと思います。

 iPad Proにおける最大のメリットの1つは「つぶしが利く」ことです。仮にクリエイティブ用途に十全に使えなかったとしても、いろいろ活用できるのがiPad Proです。対して、2021年のモデルは以前よりもクリエイティブ用途を見込んでガチガチに費用を積みやすくなっています。

 これは同時に、その用途が成就しなかったときに費用が埋没しやすいことも意味します。20数万円のデバイスでYouTubeを見てマンガを読んで、後は…………ウッ頭が……ボクも気を付けたいです。

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