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Qualcommの最新SnapdragonからPC市場のトレンドを考えるWindowsフロントライン(2/2 ページ)

» 2021年12月07日 12時00分 公開
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カメラ性能とセキュリティの強化

 個人的に14インチや16インチの新型MacBook Proで評価している点に、FaceTime HD Cameraと呼ばれるフロントカメラを強化している点にある。昨今、テレワークの需要増で改めてノートPCやタブレットへのビルトイン型カメラに注目が集まっているが、PCメーカーはコスト増の要因になるカメラの強化にあまり力を入れてこなかった。

 結果として、Microsoft TeamsやZoomなどの画面に映る自分の姿はお世辞にもベターなクォリティとは呼べない映像で、スマートフォンなどと比較して遠く及ばないものとなっている。スマートフォン向けSoCが発祥のSnapdragonでは、既にスマートフォンカメラで実績のあるイメージ処理プロセッサの「Spectra ISP」を搭載しており、そこそこの性能のカメラを組み合わせれば比較的高品質のリアルタイム映像を取得できる。

 さらにマイクでのエコー防止やノイズ低減の仕組みも利用できるため、遠隔会議そのものの品質を向上させられる。QualcommがSnapdragon 8cx Gen 3でこの点を改めてアピールしているのは、PCメーカーにとって良いプレッシャーになると筆者は考える。

Qualcomm カメラ イメージ処理プロセッサによりカメラを使ったビデオ会議映像の品質も向上

 もう1点はセキュリティだ。PC向けのSnapdragonではHyper-V対応など順次機能拡張が行われており、SoC内へのセキュリティプロセッサ実装と合わせ、ビジネス現場で求められるセキュリティ機能を備えつつある。

 以前に、Microsoftがパートナー企業らと共同で発表した「Pluton」のコンセプトについて紹介したが、近年のトレンドではTPMモジュールはプロセッサ内に包含するのが最も安全と考えられるようになっており、特にAMD、Intel、QualcommといったWindows PC向けにプロセッサを供給するベンダーについては、標準でセキュリティプロセッサの機能をSoC内に包含し、OS本体とは独立した形でMicrosoftのセキュリティモジュール(ソフトウェア)が動作するよう求めている。

 Qualcommでは今回のSnapdragon 8cx Gen 3発表にあたって下記のようにPluton対応を明確にうたっており、マルウェアを介在させての盗聴や乗っ取り行為などをチップレベルで防止する。

Snapdragon 8cx Gen 3 security solutions keep you secure from the chip to the cloud. Layered secure boot and the new Microsoft Pluton TPM architecture running on the Qualcomm Secure Processing Unit (SPU) help ensure your device starts securely. Snapdragon 8cx Gen 3 is Microsoft Secured-core PC capable for the most secure devices out of the box, with Windows Hello face and fingerprint login features to enable secure access. Runtime memory encryption helps keep your data secure, and you can connect securely over 5G, and 4G LTE cellular, and trusted Wi-Fi networks.

Pluton Chip to Cloud Pluton対応で「Chip to Cloud」のセキュリティ強化をうたう

 地味ではあるが、エントリーモデルとして投入されるSnapdragon 7c+ Gen 3では「5G」「Wi-Fi 6E」対応が行われ、ネットワーク接続が大幅に強化されている。

 以前にQualcommの幹部に「エントリーモデルでの5G対応は?」という質問を投げたとき「価格帯に応じた機能提供を行っている」ということで、一種の価格戦略で5Gのプレミア化を行っているという印象を受けた。

 ただ、現状でスマートフォンではミッドレンジの製品でも5G対応が進んでおり(KDDIのように全機種5G対応をうたう携帯キャリアもある)、既に5Gは特別なものではなくなりつつある。その意味で、PC向けSnapdragonのエントリーモデルにも5Gが入ってきたことは、本格的な5G普及期に突入したことを示す兆候だろう。

 製品としては「Snapdragon 7c Gen 2 Compute Platform」はそのまま残るため、LTEのみのモデルは今後も継続する。より低価格で、かつ小型フォームファクターで低消費電力動作が期待されるPCでは、エントリーモデルにおける下位バージョンとしての需要が見込める。

Snapdragon 5G PC向けSnapdragonではエントリーモデルでも5G対応が進む

改めて「Windows on Arm」は華開くのか

 今回のラインアップで見えたのは、Qualcommはパフォーマンスと“コネクティビティ”の両面で製品全体の底上げを行いつつ、カバー範囲を少しでも広げようとしていることだ。問題はこれで“低空飛行”を続ける「Windows on Arm(WoA)」の世界が次のステップに移れるかという点だが、正直いってまだ市場をドライブする力はないというのが実情だ。理由の1つとしては「Windowsの世界において、あえてWoAを選択する理由がない」ということに尽きる。

 とはいえ、特定機能の部分的なパフォーマンスや低消費電力、そして「Always Connected PC」のコンセプトに代表される常時接続環境など、今後アプリケーションや用途次第では華開く可能性が多分に秘められている。

 Qualcomm TechnologiesのCompute製品を担当するミゲル・ヌネス(Miguel Nunes)氏は現状について「モバイル市場と比較してPC市場は非常に歩みの遅い業界だ。浸透には時間がかかり、ポートフォリオの拡充にも時間がかかる。だが、我々は正しい選択をしていると信じている」と述べている。

 また同氏はAppleのM1 Macについても見解を述べており、「他のプレイヤーが市場に入ってくるのを歓迎している。AppleはArmやモバイル技術がPCの未来であることを示してくれた」と一定の評価をしている。少なくとも、WoAの市場は今後もまだまだ続いていき、Qualcommとしても製品を供給し続けていくというスタンスのようだ。

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