今、MicrosoftのArmプラットフォームである「Windows on Arm(WoA)」かいわいであるニュースが話題になっている(「Windows on Snapdragon」の名称で呼ばれることもある)。
XDA Developersが2021年11月22日(米国時間)に「Qualcomm has an exclusivity deal with Microsoft for Windows on ARM」のタイトルで報じているが、現在QualcommがMicrosoftと締結しているArm SoCの独占供給契約について、それが間もなく終了するという話だ。
両社の契約については対外的には公表されていないものの、Windows Phone(Windows Mobile)のリリースから、Windows 10リリース以降のArm PC、そして最近ではSurface X Pro向けの共同開発SoCの「SQ1/SQ2」まで、Microsoft製OSを載せるハードウェアにはQualcommのSoCが必ず採用されており、そうした契約の存在を忍ばせていた。
なお、XDA Developersによれば「いつ終了するかは不明」としており、「the deal is set to expire soon.(間もなく終了)」と書きながらも具体的な時期については触れていない。
とはいえ、最初の「Windows 10 on Arm」なコンセプトPCが2016年に発表されてから5年近くが経過しているわけで、そろそろ状況を見据えて次の手を打たなければいけない時期に到来しているのは確かだ。
Microsoftへの担当者インタビューも含め、この製品についての同社の考え方はたびたび追いかけているが、一貫しているのは「すぐの結果を求めない。どこかにブレイクスルーがある」というMicrosoftの考えだ。
Microsoftのことを知る人ならよく理解されているかと思うが、同社は非常に諦めが悪く、そうして長い間続けたものが“モノ”になったという事例がいくつか存在する。Xboxのゲーミング事業やタブレットPCはその代表例だが、少なくとも今回のテーマの「WoA」は同社にとってのXboxなどと同じ位置付けなのかもしれない。
なお、米国時間で11月30日〜12月1日(日本時間で12月1日〜2日の朝)にかけて毎年恒例となるQualcommの「Snapdragon Tech Summit 2021」が米ハワイで開催される。
ここではSnapdragonフラッグシップ製品の最新SoCの他、“PC向け”SoCのアップデートが行われる見込みだ。独占供給契約が切れるかいかんにかかわらず、Qualcommとしては何らかの結果をMicrosoftならびにOEM PCメーカー、そしてユーザーに対してアピールしなければならないわけで、このタイミングでのXDA Developersの報道はある意味で転換点といえるかもしれない。過去の事情を簡単に振り返りつつ、最新事情を合わせて考察してみたい。
初代「Surface RT」や「Surface 2」を除くと、基本的にWindows on Armの歴史は2017年12月にリリースされた「Snapdragon 835 Mobile PC Platform」にさかのぼる。世代としては、同時期に発表された「Snapdragon 845」から1周遅れだったこともあり、2018年6月にはCOMPUTEX TAIPEIで「Snapdragon 850 Mobile Compute Platform」が発表されている。
Windows on Armで重要なのは、Intel系プロセッサではオプション扱いだったLTEモデムを標準搭載している点で、「Always Connected PC(常時接続PC)」としてのアピールが行われていた。モバイルルーターやWi-Fi接続なしでインターネットが利用でき、さらにバックエンドで常にアップデートが行われる。加えてモバイル機器での重要なアピールポイントである「低消費電力による長時間バッテリ駆動」を特徴としており、Microsoft関係者らはことあるごとに「このPCは充電なしで2〜3日使い続けている」と語っていたほどだ。
ただ残念ながら、そうした努力もむなしくブレイクスルーには至っていないのが現状だろう。初期のWindows on Armは採用されるSnapdragon SoCもハイエンドに偏っており、価格面での競争力はそれほど高くなかった。
2019年以降はラインアップを「Snapdragon 8cx Compute Platform」「Snapdragon 8c Compute Platform」「Snapdragon 7c Compute Platform」の3つに分割し、特に最上位のSnapdragon 8cxはプレミアモデルとして2020年に「Snapdragon 8cx Gen 2 5G Compute Platform」と名称を変更し、特に5G対応をアピールするようになった。これにより、ハイエンドでは性能を追いかけつつ、普及価格帯のラインアップを拡充したことになる。後述する、次の世代へのシフトを意識した動きだったのかもしれない。
ことPCに関しては着実にラインアップを増やしていっているものの、それ以外の分野では必ずしも歩みが進んでいるとも限らないのがWoAの分野だ。
例えば、本連載でも以前にQualcommのデータセンター向けSoC「Centriq 2400」のローンチの模様を紹介しているが、この製品は発表から半年も経たないうちに計画がクローズされている。詳細は不明だが、最大顧客になるとみられていたMicrosoftが採用を止めたという説が強いと考えている。
そのMicrosoft自身は2020年末に「MicrosoftがArmベースの独自プロセッサを開発」という形で報道されているわけで、データセンターにおけるWoAの計画自体がクローズされたわけではないものの、ハードウェア等の選定にはいまだ慎重というのが実際なのだろう。
このように、一気に展開が進んだとみえて、気付いたら元に戻っているというのがWoAの現状といえる。
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