定番のベンチマークテストについて結果を掲載したが、単純な数字だけでいえば、もっとパフォーマンスの高いシステムはある。しかし省電力なコンパクトデスクトップという意味で、ここまで完成度が高い製品はない。
言い換えるなら、電力消費や容積あたりのパフォーマンスを気にしないのであれば、別の選択肢はある。やはりHPC的な用途のMacは、今後Mac Proの後継機種として何らかの形で提供されるのだろう。
ではMac Studioの価値とはどこにあるのだろう。例えば「Mac mini」にM1 Proを搭載すれば、魅力的なコンパクトデスクトップになったはずだ。今回発表のStudio Displayとの組み合わせなら、Mac miniに不足する要素を穴埋めすることもできる。
試用して感じたのは、一貫してクリエイター向けツールから制約を取り払い、創作活動へと没頭できる環境を欲する人にとって大きな価値がある製品ということだ。
MacBook Proに搭載済みのM1 Maxを経験している方ならば理解できるだろうが、M1 Maxであっても最近の高画素な一眼カメラのRAWファイルを軽々と扱うことができる。
試用したMac Studioにはミラーレスカメラ「EOS R」で連写されたRAWファイルが3000枚置かれていたが、これをAdobeの写真管理・現像ツール「Lightroom Classic」で閲覧、ザッピングすると、まるで動画のように滑らかに表示が切り替わっていく。Adobeのツールは多くがM1ファミリーにネイティブ対応しており、まだ未対応のツールもβ版がリリースされている。
音楽制作ツールの「Logic Pro X」では、ジェイコブ・コリアーが製作中の未発表プロジェクトで、500近いマルチトラックデータを使って空間オーディオによる立体音響のアレンジを行ったプロジェクトを見た。全てのトラックが24bit・96KHzのデータで扱われていたが、プロセッサ側は余裕でこなしてくれる。
ここまではCPUタスクが重い処理だが、実はM1 Maxでも十分余裕がある。言い換えれば、恐らくM1 Proであってもメモリ容量に不足がなければ能力的に問題ないだろう。
ではM1 Ultraが使われる場面について、どのようなシーンをAppleは想定しているのだろうか。もちろん、今後より多くのアプリケーションがM1 Ultraを活用するのだろうが、筆者がデモンストレーションを受けたのは次の2つ。いずれも3Dグラフィックス処理のツールだ。
まずはGPUレンダラーの「Octane X」だが、これは映画など高品位な3D映像制作のためのツールだ。Appleはデモ用に多数のポリゴンを用いたシーンを設計しているが、今回のデモに使ったシーンはモデリングデータだけで6GBを超える、2億トライアングル近い規模の編集作業だ。
ディスクリートGPUの拡張カードは演算能力こそ高いものの、全てのデータと演算結果をGPU側のグラフィックスメモリには置けない。メインメモリへの転送も発生するなど効率が悪くなるが、Mac Studioの128GB共有メモリがあれば、M1 Ultra上の全ての処理回路がシーンデータとレンダリング結果にアクセスできる。
もう一つの事例は、3Dモデルに効果的なライティング、パーティクル、スモークを加えるツール「Houdini FX」。M1ファミリー向けのネイティブバージョンは正式リリースされていないが、β版を用いてデモが行われた。映像効果をリアルタイムで変化させながら、流動的に作業がこなせていた。
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