もっとも、こうした性能はM1 Max、M1 Ultraに付随するものだ。今後もAppleがSoCの開発を進めていけば、さらに高性能になっていく。そのスタート地点として、これからの進化が期待できるハードウェアプラットフォームになっているというのが、Mac Studioへの素直な感想だ。
そして商品としての完成度を高めているのが、ディスプレイとのセパレート型デスクトップのMacを、一体型ならではだった機能を失わずに復活させたStudio Displayという仕掛けである。こちらはM1 Ultraを調達できれば実現できるというものではない。
これまでデスクトップ型Macの中核機はディスプレイ一体型しか存在しなかった。理由は推測の部分もあるが、T2チップを採用して以降、Apple独自設計の信号処理回路を用いたMacユニークの機能に理由があると思う。カメラ、マイク、スピーカーなどがApple独自設計のT2チップやM1ファミリーで改善されているのはご存じだろうが、セパレート型になるとそれらの要素が提供できなくなる。
しかし、Studio DisplayにはA13 Bionicが搭載されており、ファームウェアとして組み込まれたソフトウェア処理で、カメラ、マイク、スピーカーの質を高め、True Toneによる色温度の自動調整や輝度の自動制御などをつかさどっている。
既にM1搭載の「24インチiMac」で実現していたワイヤレスキーボードでのTouch IDと併せることで、Mac StudioとStudio Displayはセパレート型のデスクトップでありながら、タイトに各機能を統合したMacBook Proと同様の体験が得られることになる。
このStudio Displayが持つ価値は、Thunderbolt 3を通じて5Kディスプレイが接続可能な全てのMac対応機種で享受できることも見逃せない。例えば、M1搭載Mac miniはミニマルなM1搭載Macとしてリーズナブルな選択肢だが、このディスプレイと組み合わせることで、24インチiMacと同様にAppleの総合的な体験が得られる。
もちろん、少し前の世代のMacBook系ユーザーも同様だ。ほとんど全ての現役Macの体験レベルを引き上げるStudio Displayは、一連の新製品群の中でも影の主役ともいえる存在だ。
カメラ、マイク、スピーカーに加えてA13 Bionicも搭載しているとはいえ、しょせんはパソコン本体内蔵、ディスプレイ内蔵のレベルだろうと考えるのが普通だが、Studio Displayに限っては中途半端な外付けデバイスは不要だ。
とりわけ内蔵するカメラとマイクの品質は高い。そもそも24インチiMacの時点で外付けWebカメラの意味はなくなっていたが、ノイズの少なさ、階調の滑らかさ、色再現性やホワイトバランスなど、iPhone内蔵カメラ級の高画質だ。
3アレイのマイクも(現時点では24インチiMacとは比べていないが)シャープかつS/Nがよく、外付けマイクに匹敵する品質だ。音質的には高域が伸びている反面、中低域の厚みがもう少しほしいところだが、素材としての質の高さには驚かされる。「16インチMacBook Pro」と比べても、明らかによいと感じるほどだ。
しかし誰もが体験すると驚くのは、内蔵する6スピーカーの音質ではないだろうか。6枚切り食パンと4枚切り食パンの間ぐらいの厚さがあるディスプレイ本体は、素晴らしく美しい仕上がりだが、一方でスピーカーからの音が出てくる部分は小さなホールが並んでいるだけで、開口部が広いとは言い難い。
27インチiMacと比べてしまうと、画面の下にあごの部分がないだけスピーカーとして内部の容積を確保できず設計上は不利なのだが、音質的には圧倒している。低域は伸びていないが、フラットかつ膨張感のない自然なフィールの低音再現で、中域から広域にかけての質感、量感もそろえられている。
空間オーディオの再現性も抜群で、Dolby Atmos対応の映像作品を見れば、驚くほど明瞭な移動感を感じられる。低域の再生能力に限界があることは確かだが、これだけ質が高ければ、デザインのバランスを崩してまで外付けスピーカーを使いたいとは思わないはずだ。
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