新しい「13インチMacBook Pro」は誰のための製品か? 理想的な進化を遂げた「Apple M2チップ」の魅力本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)

» 2022年06月22日 22時30分 公開
[本田雅一ITmedia]
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Core MLと動画処理のフィール向上に期待

 M2チップでは、Neural Engineの性能向上と、Media Engineによる動画編集時の負荷軽減も期待できる。加えて、ISP(と組み合わせる信号処理ソフトウェア)の更新による内蔵カメラの画質向上なども図られる。

 ……のだが、これらの要素は、CPUやGPUのパフォーマンス向上と比べると定量的な評価が難しい。理由は簡単で、条件によって結果が大きく変化するからだ。

 Neural Engineの性能向上は、「Core ML」を用いた写真現像の自動化やレタッチ処理、フィルター処理の自動化などで効果が期待できる他、2022年秋にリリースされる「macOS Venura」に組み込まれる被写体オブジェクトの自動切り抜きや内蔵カメラに対するリアルタイム処理、動画へのテキスト認識などで応答性、動作精度などに影響を与えるだろう。

 Media Engineの搭載は、動画編集時の応答性、8K(7680×4320ピクセル)動画編集時の快適性、「ProResコーデック」で編集する際の快適性を高める他、電力効率の向上によりバッテリー駆動時の動画編集環境を大幅に改善してくれる(≒バッテリーの消費を減らす)ことも期待できる。

Media Engine M2チップには、M1 Proチップ以上に搭載されていたMedia Engineが搭載されている

実際に動画を書き出してみよう

 先述の通り、M1チップと比べるとピーク時におけるGPUの消費電力は増えているようだが、「処理能力当たりの消費電力」という意味では決して増えているとはいえない点も注意したい。「バッテリー駆動でもゲームをガンガン動かす」という話ならば別だが、GPUを活用する実アプリケーションでの性能となると、評価は“行う処理あたりの消費電力”で行うべきだろう。

 そこで、Appleのビデオ編集アプリ「Final Cut Pro」を使って、8K/10bitカラー/HLGの「ProRes 422」ストリームを17本重ねた34秒のプロジェクトを開き、中間ファイル生成後に4K(3840×2025ピクセル)のHEVC(H.265)ファイルとして書き出すテストを実施してみた。このテストはかなり負荷が高いもので、CPU、GPU、Media Engineが駆使される。

 M1チップとM2チップの違いが一番感じられる場面は、中間ファイル生成時のパフォーマンスである。M1チップでは最大で400%、平均でも120%程度のCPU負荷が連続する一方で、M2チップモデルのCPU負荷はほぼコンスタントに35%程度だった。GPU負荷はM1チップモデルで35〜40%程度、M2チップモデルで50〜60%程度だった。

 中間ファイルの生成に使われたCPU時間(延べ)を比較すると、M1チップモデルは1時間18分35秒だったのに対し、M2チップモデルは24分18秒と3分の1程度だった。CPUコアの性能差以上に差が開いたのは、Media Engineの有無の差と見て良いだろう。M2チップの方がGPU負荷が高くなるのは、ProResのデコード処理がMedia Engineで加速されるため、後段でのGPU処理が忙しくなるからだと推察できる。

 中間ファイルの生成は、別の作業をすると中断されるため、アプリの応答性に大きな影響を与えることはない。しかし、中間ファイルが完成するまでの時間が短くなるということは、作業による精神的負担を軽くしてくれる。背景処理のためざっくりとした数字だが、M2チップの方が2〜2.5倍は速いといったところだろうか。

 いずれにしろ中間ファイル生成の速さ、編集時の応答性の良さなど、ベンチマークに現れにくい部分でのM1チップとM2チップの差は想像以上に大きい。このテストは満充電状態からのバッテリー駆動で行ったが、処理の完了時におけるバッテリー残量はM1チップモデルが90%、M2チップモデルが96%だった。

 「思ったほど差がない」と思うかもしれないが、M2チップモデルの方が処理が早く完了する上にバッテリーを大して消費しなかったという事実は驚きである。

めっちゃ重い 8K動画を17ストリーム重ねたプロジェクトを4K動画として書き出すテストは、デスクトップPCでもかなり厳しい処理。しかし、Media Engineを搭載するM2チップであれば、想像以上に実用的な時間でこなせてしまう

 なお搭載するSSDに関しては、両モデル共に1TBだった。「AJA System Test」で読み書き速度を比べてみたが、結果はほぼ同じだった。恐らく、使われているSSDモジュールそのものも同じ仕様だと思われる。

AJA System Test AJA System TestでSSDの書き込み/読みだしテストを実行した結果。画像はM2チップモデルだが、M1チップモデルでもほぼ同じ数値となる

機構設計はキャリーオーバー MacBook Airの方がベター?

 ここまでM1チップとM2チップの違いという観点で書き進めてきたが、最終製品としての13インチMacBook Proについても、少し掘り下げておきたい。

 MacBook Airがフルモデルチェンジしたことで、13インチMacBook Proは外観的な意味でノート型Macとして一番古い設計となってしまった。途中でキーボード構造の変更はあったものの、長年親しまれている形状に親しみを感じる人も少なくないだろう。

 13インチMacBook Proは、ファンレス設計のMacBook Airよりも安定した冷却が行えるのは間違いない。パフォーマンスを長時間かつ持続的に維持したいというユーザーにはMacBook Airよりもベターな選択肢であることは確かだが、M1チップモデルではその差は意外に小さかった。M2チップモデルではその関係性に変化が出る可能性もあるが(現時点で新しいMacBook Airを試せていない)、変わらないのであれば一般的なユーザーであればMacBook Airの方が良い選択肢となるだろう。

 M2チップの設置面積は、M1チップ比で35%も増えている。しかし、感覚的には消費電力はそれほど増えていないように思える。M1チップのシステムにそのまま搭載できるよう設計したのではないだろうか。製造プロセスのアップデートに加え、回路設計の最適化で処理効率が高まったこともあるだろう。

 同じM2チップを搭載する新しいMacBook Airと比較して、新しい13インチMacBook Proが優れている点は以下の通りといったところか。Touch Barは対応アプリを愛用しているユーザーだけの利点かもしれないが……。。

  • バッテリー持続時間(18時間に対して20時間)
  • 冷却ファン搭載による持続的なパフォーマンス
  • Touch Barへの対応
  • 底面積がわずかに狭い

 一方で新しいMacBook Airは、フルHD(1920×1080ピクセル)で撮影できる内蔵カメラ、大きくなった画面、薄さと軽さ、MagSafe 3対応の電源入力を備えている。とりわけ、Thunderboltポートが2つしかない状況では、別に電源入力があることは非常にありがたい。

 13インチMacBook ProにするかMacBook Airにするかは、MacBook Airの評価が確定してからでも遅くはないだろう。

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