―― エンタープライズ分野においても、新たな取り組みをスタートしましたね。
鈴木氏 ここも、やはり「学ぶ」こと、「知る」ことから始めている領域です。クラウドにおける当社の重要性を訴求すること、ユーザーに最適なクラウドアーキテクチャを提案すること、パートナーと新しいクラウドエコシステムを構築することを目指しました。
まず、エンタープライズ市場やデータセンターの領域に対しては、Xeonプロセッサの進化が挙げられます。データセンターにおいては、既に3億個のXeonが稼働していますが、その実績を元にデータセンター&AI向けに進化させた第4世代Xeonスケーラブルプロセッサ(開発コード名:Sapphire Rapids)を2023年早々に投入することを発表しました。
ここでは、アクセラレーターの強化により、AIパフォーマンスを最大30倍向上させることができます。また、HPCおよびAI向けの「Xeon Max」シリーズ(開発コード名:Sapphire Rapids HBM)では、チップレット方式による4つのタイルで構成し、EMIBを活用する他、シリコン同士を接続し、最大56個のP-coreを1つのプロセッサの中で接続できるようになります。
また、アクセラレイテッドコンピューティング向けには、「インテル データセンター GPU Max」シリーズ(開発コード名:Ponte Vecchio)を製品化し、1000億を超えるトランジスタを、47タイルのパッケージの中に組み込み、最大128GBの広帯域幅メモリを内蔵することができます。
ただ、こうしたCPUやGPUなどのテクノロジーの進化だけでなく、2022年からは、「エンタープライズ領域では何が起こっているのか」、「それに向けてIntelは何が貢献できるのか」ということにフォーカスした活動を強化しました。
「Intel Cloud Forum」の開催や、製造業を対象にした「インテル製造フォーラム」の開催なども、そうした活動の1つです。さらに、2022年は、SaaS事業者を対象としたビジネス促進支援や技術支援活動を行う「インテル SaaS Market Acceleration Program」を開始しました。
これは、SaaS事業者をビジネス面、技術面の双方から支援することで、中小企業のクラウド活用を促進することを狙ったもので、中小企業におけるDX/DcX(データセントリックトランスフォーメーション)の実現やクラウド利活用の推進を目指し、国内産業の成長を支援していくことになります。
―― インテルがSaaS事業者を支援することには、やや違和感があります。
鈴木氏 これは当社が得意としている「風が吹くと桶屋がもうかる」という(笑)、市場全体を活性化させるための取り組みの1つだと捉えてください。インテルは半導体を提供するだけの企業ではなく、産業の成長を支える役割を担う企業です。他の分野と同様にクラウド分野においても、エコシステムパートナーとともに日本の企業のDX/DcXを推進することを目指しています。
日本市場の課題は、クラウドを利用している中小企業が49%にとどまっていることです。これは中堅企業の76%、大企業の78%と比べても利用率が低くなっています。その背景にあるのは、デジタル人材の不足やセキュリティに対する不安、コストに対する懸念などです。日本の全企業数の99.7%を占める中小企業を支え、発展させることは日本の産業の成長にとっても重要なことだと考えています。
また日本では、小規模のSaaSベンダーが多いという傾向があります。これらのSaaS事業者をサポートすることで、中小企業のクラウド利用を促進するという点がインテルの新たな着眼点です。時間はかかる取り組みだとは思いますが、活動を積み重ねることで、確実に成果につなげていきたいですね。
インテル SaaS Market Acceleration Programでは、参加者に対して外部イベントやインテル主催イベントへの参加機会を提供しています。さらに、当社がカバーする幅広いユーザー層とのマッチメイキングの場を提供する「ビジネス支援」と、SaaS事業者を対象にしたワークショップやテクノロジーセミナーの開催、最新プロセッサの概要説明やソフトウェア戦略の提案、クラウドセキュリティを始めとした最新技術情報などの共有、アプリケーションの最適化支援や当社のアクセラレーター技術との融合、自動化ツールの提供などによる技術支援で構成をしています。
中小企業のクラウド活用の状況、日本のSaaS事業者の状況を学び/知ることで、その課題を明確にして解決に向けた支援を行い、日本の社会の活性化につなげていきます。
このように2022年の取り組みは、「クリエイターを知る」「顧客を知る」「企業を知る」といった点に集約できます。
私は、成長していくためにはキュリオシティ(好奇心)を高めること、磨くことが大切だと思っています。これは教育の原点ともいえる部分ですし、成長の原点ともいえます。当社が知らないことはたくさんありますし、成長をするためには、まだまだ学ぶなくてはならない部分が多いとい思います。当社の活動はキュリオシティに支えられているといえ、その姿勢が2022年の学ぶこと、知ることにつながったといえます。
―― Intelが打ち出している5つのSuperpowersを説明する際に使用するスライドでは、鈴木社長は日本固有の社会的課題を加えて表示することが多いですね。それがインテルの日本における活動の軸になっていると感じます。
鈴木氏 私は「デジタル人材の育成」「強靱(きょうじん)なサイバーセキュリティ」「サステナビリティ(脱炭素化)」の3点を、日本の課題だと捉えています。
中でもデジタル人材の育成は、待ったなしでの大きな課題だといえます。政府は2026年度までに、230万人のデジタル推進人材の育成および確保を目指していますが、ここは当社が貢献できる分野です。
例を挙げると、教員研修プログラムと生徒向けカリキュラムを提供する「インテル Skills for Innovation Framework」では、約60種類の生徒向けプログラムを新たに用意し、教材を日本語化して無償で提供しています。
また、STEAM教育に必要とするICTの環境構築を行う「STEAM Lab 構築支援プログラム」では、古くなったPCなどを刷新し、子供たちに好奇心や創造性を育む教育を通じて、先進テクノロジーを活用できる人材の育成を支援しており、現在18校に展開しています。
さらにデジタル人材を育成し、地域のデジタル実装を目指す新たな活動拠点となる「インテル・デジタルラボ」による新たな取り組みも開始しました。インテル・デジタルラボは、先に触れたSTEAM教育向けのSTEAM Labの他、地方自治体や地方公共団体、企業などを対象にデジタル教育やデータ活用に関する研修などを行う「DX/DcX Lab」、高等教育機関や企業、一般市民などを対象にAIに関する教育を行う「AI Lab」、クリエイターなどを対象にコンテンツ制作のための活動を行う「Creative Lab」で構成され、デジタル人材を育成しています。
埼玉県戸田市では小中学校でSTEAM Labによる活用実績が出ていますし、千葉市では「Intel Digital Readiness Programs」と呼ぶカリキュラムを通じて、DXおよびDcX研修を行い、デジタル化に適用できる人材の育成に取り組んでいます。
他にも香川県三豊市においては、AIやDXに関する学習プログラムを提供しており、さまざまな地域でのデジタル実装を目指しているところです。また、Creative Labの取り組みは、今後、芸術大学や音大などとの連携も考えており、教育分野との連携にも力を入れていきます。
各地域で始まった「点」の取り組みを「線」としてつなぎ、デジタル人材育成に向けた取り組みを、よりスケールしていきたいと考えています。
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