コロナウイルスの流行から世界情勢の不安定化、製品供給網の寸断や物流費の高騰、そして急速に進む円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。前編の記事はこちら。
2022年の日本での活動について、インテルの鈴木国正社長は、「学ぶ」「知る」「つなぐ」という言葉に集約されると振り返ってみせた。重点領域として掲げたのは、ゲーミングPCとクリエイターの2つの分野だ。
ここにおいても「学ぶ」こと、「知る」ことは重要な取り組みになったという。その一方で、2023年の日本における取り組みは「肇(はじめ)」という漢字で示してみせる。その意味は果たして何なのだろうか。鈴木社長へのインタビュー後編では、2022年の日本におけるインテルの取り組みを振り返ってもらうとともに、2023年の方向性について聞いた。
―― 日本における2022年の取り組みは、何がポイントになりましたか。
鈴木氏 一言でいえば、2022年は「学ぶ」「知る」「広げる」「つなぐ」といった取り組みをしてきた1年でした。「つなぐ」は、もともと当社が得意としてきた領域で、そのためのコミュニティー活動などを多数展開しています。それらの活動や新たな活動において、「学ぶ」こと、「知る」ことに多くの力を注ぎました。これは「インテルっぽい活動」と言うことができるかもしれませんね(笑)。
―― 「学ぶ」「知る」というのは、どんな取り組みになりますか。
鈴木氏 例えば、2022年の重点的な取り組みの1つとしてゲーミングを挙げました。ご存じのように、世界中でPCゲームの需要拡大の動きが起きており、コロナ禍によって創出された巣ごもり需要もそれを後押ししました。
しかし、ここで目指しているのは、ゲーミング市場全体の活性化であり、同時に裾野を拡大することです。コンソール機によるゲーム利用者や、スマホによるゲーム利用者をゲーミングPCで置きかえて、プラットフォームのパイを取ることは全く考えていません。
むしろ、コンソール機によるゲーム市場はもっと先に進んでいくことになるでしょうし、それに対してPCはハイエンドのゲーマーからライトユーザーまで、ゲーミング市場の裾野を拡大する役割を担うことができると考えています。
しかし、市場を活性化するにはどうするか、裾野を拡大するにはどうするか、そして日本のゲーム開発会社がPCゲームの開発優先度を高めている中で、当社はどんな貢献ができるのか。それを考えたときに、改めて、ゲーミング市場を学ぶこと、知ることが大切だと考えました。
2022年6月に「インテル Blue Community Project」をスタートした狙いは、そこにあります。ゲーム開発者を支援するグローバルレベルの「ワールドクラス ディベロッパー リレーション プログラム」に加えて、日本のゲーム開発者の支援などを行うBlue Community Projectによって、ゲームソフトウェア開発メーカー、PCメーカー、周辺機器メーカーなどとの連携のみならず、ゲーマーコミュニティーを形成することで、ゲーミング市場を学びながら、市場を活性化し、裾野の拡大につなげたいと思っています。
また、情報発信にも力を注いでいます。ゲーミングコミュニティーサイトである「RUGs(ラグス)」を開設し、ゲーマーのための情報に加え、Intel製CPUを搭載したゲーミングPCに関する最新情報、ゲーマー目線でのさまざまな情報も発信しています。
2022年10月に開催された「東京ゲームショウ2022」の当社のブースでは、PCメーカー10社と、ゲームソフトウェア開発メーカー9社が出展し、13タイトルのゲームが展示され、約5000人が来場しました、これは、PCを軸にしたゲーミング市場が、これまで以上に本格的に動き出すきっかけになる象徴的な出来事であったともいえます。
他にも主要小売店との協力関係の強化、PCメーカーとの連携強化、そしてゲームシーンにおけるEvoシステムの利用例の紹介も進めています。単にCPUやPCのパフォーマンス向上だけを訴求するのではなく、私たちは「学び」「知り」、それをもとにエンドユーザーとの接点でも使い方を分かりやすく伝え、具体的な利用シーンを示していきます。そして、それと同時にゲーム開発者を支援することにも取り組んでいきます。
―― 2022年は、クリエイターに対する活動を前面に打ち出したことが特筆できます。
鈴木氏 それも、「学んで、知って、つながる」という活動を軸に行ったものです。コンテンツクリエイターたちが、コンテンツ作りのワークフローをどう構築しているのかといったことを知り、クリエイターには最新技術を活用してもらう機会を提供し、制作を支援したり、作品を世界に発信するお手伝いしたりといった活動もあります。それだけでなく、パートナー企業を巻き込みながらクリエイターの市場を盛り上げ、こうした活動から得られたクリエイターの声を、今後のPCやサーバーの在り方にも生かすことができると思っています。
当社は2022年3月から、クリエイター向けプロジェクトとして「インテル Blue Carpet Project」を開始しています。このプロジェクトでは、最新PCやテクノロジーを通じて、クリエイターの創作活動をサポートします。
トップクリエイターを中核としたコミュニティーである「インテル Blue Carpet Club」には、約20人のクリエイターが参加していますし、学生向けアートフェスの展開などによる次世代クリエイターの育成や、セミナーやワークショップ、コンテストの開催も行っています。
また、PCの貸し出しによって、最新のテクノロジーに触れてもらう機会を増やしたり、日本のクリエイターのワークフロービデオを制作し、当社のグローバルサイトである「Intel create」で展開したりといったことも行っています。
先日も、クリエイターたちの会合があったので、私も参加してきました。さまざまな会話ができましたし、気づきを得ることも多かったです。頭の柔らかい人たちと会話することで、私ももっと頭を柔らかくしなくていけないと思いました。これは、普段から心がけていることなのですが、経営トップの立場で数字とにらめっことしていると、知らないうちに頭が固くなっている部分があったかもしれません(笑)。とても刺激を受ける場になりました。
このとき私は、参加者に対してクリエイター同士が刺激し合えるような活動をもっとやってほしいということ、そのためには、いちいち当社にお伺いを立てなくてもいいので、自由にやってほしいと言いました。クリエイターの皆さんが好きなことを始められたり、新たなテクノロジーの使い方をクリエイター同士で共有したりするためのサポートを行い、その中で何か提案したいことがあれば言ってほしいというのが、私たちの姿勢です。
クリエイターの皆さんに、当社はしっかりと寄り添っていきます。この活動を一時的なものにはせずに継続的に行っていくつもりです。
このように、2022年は当社の活動の場を、ゲーミング分野やクリエイター領域に広げていきましたが、第13世代インテルCoreプロセッサの登場によって、この取り組みはさらに加速し、プロジェクトの活動にも弾みがつくことになります。私自身、日本におけるゲーミングおよびクリエイターの領域における市場成長を、とても楽しみにしています。
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