―― シャープの技術戦略において、どんな課題がありますか。
種谷氏 1つ挙げるとすれば、AIにいかに対応していくかという点です。AIに関する動きはスピードが速く、技術進化が激しくターゲットも刻々と変わっていきます。当社が持つリソースでどこまで戦うべきなのか、協業をどう広げていくのか、お客さまにどう提案していくのかといったことに対して、激しい変化の中で迅速に手を打っていかなくてはなりません。
また、これまで以上にスタートアップ企業との連携も進めていく必要があり、スタートアップ企業の動きに当社が合わせていくという判断をすることも増えると思っています。
今のAI技術のトレンドは、外資系大手ソフトウェア企業が中心となり、クラウドベースのサービスに注目が集まっています。しかし、その状況が将来に渡って変わらないかと言えば、決してそうではないでしょう。価値観の多様化やユースケースの多様化といったことを考えると、求められるAI技術が変化したり、よりエコシステムが重視されたりといったことも想定されます。当社のポジションから見ると、家電やスマホといったハードウェアによってお客さまと接点を持つ強みを生かし、そこでAIをどう活用するか、どう利益を生むかということを考える必要があります。
―― シャープでは、エッジAIとして「CE-LLM(Communication Edge-Large Language Model)」を発表しました。SHARP Tech-Dayでも、いくつかの展示技術に反映されるように、エッジAIは、これからのシャープの技術戦略において重要な意味を持ちそうですね。
種谷氏 当社が取り組むAIは、エッジAIの領域になります。では、エッジAIとは何か。人に例えて説明しましょう。
人の脳は、記憶などをつかさどる知能としての役割を果たす大脳と、本能に近い役割を果たす大脳辺縁系があります。それらが神経でつながり、さまざまな行動に移すことができます。AIの世界もこれと同じで、クラウドで提供される生成AIがあり、GPT-4を始めとするLLM(大規模言語)が、ネットワークでつながり、答えを返してくれる仕組みが構築されています。
これらの大規模なクラウドAIは、人間の大脳のような役割と同じだといえます。しかし、本能をつかさどり、リアルタイムで危険を回避するような大脳辺縁系のような動きはできません。クラウドとの距離があり、速いレスポンスでは答えが返ってきませんから、瞬時に判断し、瞬時に返事をすることができません。
さらに人間の大脳と、クラウドで提供されるAIとの大きな違いは、個人のものであるのか、パブリックで利用されるものであるのかという点です。既に生成AIでは、学習に用いられる個人データや企業の機密情報が漏れる可能性が指摘されており、リスクがあることも認識しなくてはなりません。
こうしたクラウドAIが持つ課題をカバーするのが、エッジAIとなります。エッジAIは利用者の身近にあり、一人一人に寄り添うAIであるともいえます。ネットワークを介すことなく、それぞれの端末の中でいろいろな処理を行うため、リアルタイム性が高まり、より自然なコミュニケーションを実現します。
処理できる能力は、クラウドAIに比べると格段に小さいものですが、個人や企業にとって大切なことはしっかりと押さえ、そこで分からないことがあれば、その部分はクラウドAIに聞くことができます。これが、当社が考えるエッジAIの基本的なコンセプトです。
エッジAIは1社でやるには限界がありますから、CE-LLMの仕様を公開し、組み合わせ可能な技術を持つスタートアップ企業との連携も進めています。SHARP Tech-Dayにおいては、miibo/デジタルヒューマン/a42x/Gatebox/ICOMAの5社が持つ技術と組み合わせた展示を行います。
エッジAIでは、多彩な企業とタッグを組みたいと思っています。これらの展示を見て、うちにも使える技術があると感じたスタートアップ企業は、ぜひ声をかけてほしいですね。
このCE-LLMが、初めて広く公開されるタイミングが、Sharp Tech-Dayとなります。将来、当社のエッジAI戦略を振り返ったときに、ここに起点があったと思ってもらえる場になるといえます。
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