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創業111周年を迎えたシャープのターンアラウンド 技術を軸にエッジAIで他社と連携も CTO兼R&D担当役員に聞くSHARP Tech-Day(5/5 ページ)

» 2023年11月08日 06時00分 公開
[大河原克行ITmedia]
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エレクトロニクス企業という枠には収まらない姿に

―― エッジAIのビジネスモデルはどう描いていますか。

種谷氏 CE-LLMは、プラットフォームになることを目指します。まずは、家電に利用し、その有効性を実証していくことになります。

 CE-LLMのようなプラットフォームが家庭内にあったときに、当社の家電や他社の家電、あるいは家電以外が、これを利用することでどんなことができるのか、CE-LLMが業界横断で活用されるとどんなことが起こるのかといったことを、多くの企業と一緒になって模索していきます。

 現時点では概念ができてプロトタイプが完成した段階ですが、それにも関わらず発表したのは、当社1社でやるよりも、協業しながら一緒になってやっていく方がいいと判断したからです。当社は、プラットフォームの番人としての役割を果たしながら、いろいろな業界の人たちがCE-LLMを使ってビジネスができるような仕組みを提供していきたいと思っています。

―― エッジAIを利用した事例として、Sharp Tech-Dayでは先に触れたように、サウンドパートナーによるデモストレーションを行いますね。

種谷氏 質問の内容に応じてクラウドAIとエッジAIを切り替えて、最適な回答を行えるようにします。これまでのAIとのやりとりでは、「温度を1度上げて」といった具体的な会話で家電をコントロールしていましたが、エッジAIを利用することで、「ちょっと寒い」というだけで、その人の好みを学習して最適な温度に変更してくれるようになります。

 ただ、エッジAIは“脳が小さい”ため、考えられることが限定されます。その一方で、簡単に入れ替えて、性格をがらりと変えることができる特徴を持ちます。生物の脳に例えると、クラウドAIが人の脳とすれば、エッジAIの脳は蛇ぐらいの大きさかもしれません。

 ただし蛇の脳は、蛇として生きるには十分な知恵を持っていますし、今日は蛇の脳だが、明日はカエルの脳にできるといったように、エッジAIではニーズにあわせて入れ替えることができます。変化に適用しやすく、ユーザーのマインドの変化に合わせたり、パートナーの業態によって変化したりといったことが可能です。

 アプリケーションを支えるためのエッジAIが、さまざまな企業から無数に登場し、選択できるようになるというのも特徴であり、これらを動かせるプラットフォームを提供して仕様を公開し、このプラットフォームを活用した方が効率的であると感じてもらうことで、エコシステムによるエッジAI経済圏を大きくしていきたいと考えています。これが、当社が目指す方向性となります。

 シャープはこれまでにも「AIoT」のコンセプトを打ち出し、冷蔵庫や電子レンジ、エアコンなど12カテゴリーにおいて、877機種のAIoT家電を発売し、既に数百万台の家電が接続されています。AIとIoTが一体化することに早くから着目し、ネットワークに家電がつながり、生活を支えるというコンセプトを実践してきた点では、一日の長があります。

 他社よりも高いネット接続率を持つ家電の強みは、エッジAIで生かすことができますし、あらゆる家電をAIの入口に変えることができます。AIoTをやってきたことが布石となり、エッジAIのエコシステムの構築においても価値を提供できると思っています。

 エッジAIは当社のあらゆる事業に関係するコア技術であり、事業を進化させたり、さらに成長させたりするためには必要不可欠な技術だと認識しています。さまざまなところに、息を吹き込んでいける技術だと思っています。

 大企業の場合、事業再編や組織再編をして新たなものに挑戦するということが多いのですが、技術が事業や組織を変えていくようなことも必要ではないでしょうか。それこそが技術を原動力とする会社の姿だと思います。

 当社はエッジAIにおいて、きちっとしたポジションを取りたい。エッジAIの分野においてリーダーの存在を目指し、日本発のエッジAIのプラットフォームとし、CE-LLMを多くのスタートアップ企業などに活用してもらえる環境を作ることを目指します。

―― SHARP Tech-Dayで目指しているゴールは何でしょうか。

種谷氏 一番重視したいのは、SHARP Tech-Dayをきっかけに、開発スピードをこれまで以上に速めるということです。お客さまの声を元に、この技術を使った商品やサービスが欲しいということになれば、それが開発チームを後押しすることになりますから、開発が加速したり、技術提供を開始するタイミングが早まったりすることにつながります。

 またSHARP Tech-Dayの会場で、当社の技術を見たスタートアップ企業が、自分たちが持っている技術と組み合わせることで、こんなことができると、熱意をもって提案していただけると、お互いに出口に向けて共創できる可能性が高まります。

SHARP Tech-Day シャープ 111周年 種谷元隆氏 SHARP Tech-Day会場で開催されるハッカソンイベント

 会期中には、「Future AQUOS Hackathon in SHARP Tech-Day」と呼ぶハッカソンを行います。テーマは「TVの新たな価値を考える」です。TV事業は、市場全体が右肩下がりの状況にあります。しかし、家庭の中に大型ディスプレイが不要というわけではなく、ディスプレイの役割の全てがスマホだけで完結するわけでもありません。

 当社は放送を視聴するという切り口から、商品作りをしてきましたが、その一方で大型ディスプレイの活用方法を提案しきれていないという反省があります。お客さまのマインドと、モノ作りにギャップが生まれているのではないかということもしっかりと捉える必要があります。

 新しいTVで何ができるのか。市場の声を聞きながら、既存のTV事業をリビルドするようなきっかけ作りにしたいと思っています。今回は、AQUOS関連のAPIを公開し、参加者はアプリケーション開発に挑戦することになります。

 そこには、エッジAIをどう活用していくのか、ということも含まれます。優れたアイデアに対しては賞金だけでなく、今後の共同開発や当社からの出資、アクセラレーション支援なども行うことになります。TVを再発明するアイデアに期待しています。SHARP Tech-Dayでは、こういった成果も生みだしたいと思っています。

―― シャープが、ゲームチェンジをした後の姿とはどうなるのでしょうか。

種谷氏 ゲームチェンジというのは、一回で終わってはいけないと思っていますし、それに合わせてシャープの姿も常に変わり続ける必要があると思っています。正直な所、ゲームチェンジした後のシャープの姿は、今は明確には描けません。

 これまで以上にオープンイノベーションが進展すると思いますし、それに伴ってダイナミックに変化していくことになることが想定されるからです。あえて言葉で表現するとしたら、目指すところは「巨大なスタートアップ企業」かもしれませんね。

 そのためには、どれだけ新しい発想ができる人がいるのか、ゲームチェンジを起こしたいと思う人が次々と出てくるかが大切です。そういう人たちにとって、いきいきと働ける土壌を作ることができるかどうかも大切です。会社の風土や制度がそれに沿ったものでなくてはいけません。これが、次のシャープのあるべき姿になります。

 もしからしたら、目指すべき世界を追い求めると、これまでのようなエレクトロニクス企業という枠には収まらない姿になっているかもしれませんね。

 今回のSHARP Tech-Dayでも、展示内容はエレクトロニクス企業という枠にはこだわっていませんし、新たな発想で新たな価値を提供できるものを展示します。新しいシャープの姿を見ていただける場になることは間違いありませんので、ぜひ多くの方々に来場してほしいと思っています。

SHARP Tech-Day シャープ 111周年 種谷元隆氏 11月10日〜12日の会期で開催される「SHARP Tech-Day」。東京ビッグサイトでシャープが目指す近未来を体験できる
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