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2023年度の黒字転換に向けて取り組んだこと Dynabook 覚道社長 兼 CEOの悩みと覚悟IT産業のトレンドリーダーに聞く!(Dynabook 後編)(1/2 ページ)

» 2023年03月28日 12時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

 コロナウイルスの流行から世界情勢の不安定化、製品供給網の寸断や物流費の高騰、そして急速に進む円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。前編の記事はこちら


 2022年度のPC市場は厳しい環境にある。Dynabookも業績が悪化した1年ではあったが、Dynabookの覚道清文社長 兼 CEOは、2023年度に向けて巻き返しの準備が整ったことを強調する。そして、将来の成長に向けた鍵はソリューションビジネスになると位置づけ、2024年度までに売上構成比で25%を目指す方針を初めて明らかにした。

 今後のDynabookの成長戦略はどう描かれるのか。インタビュー後編では、2023年度の方針やソリューションビジネスへの取り組みについて語ってもらった。

Dynabook本社がある東京都江東区豊洲で「dynabook R9」手にする覚道清文 代表取締役社長 兼 CEO

2023年度の黒字転換に向けて取り組んだこと

―― 2022年のPC市場は厳しい事業環境となりました。その中で、Dynabookはどんな点に力を注ぎましたか。

覚道氏 親会社であるシャープが発表した2022年度第3四半期(2022年4月〜12月)連結業績でも示されたように、Dynabookを始めとするICT事業は赤字となりました。最大の要因は急激な円安による為替の影響です。

 DynabookのPC事業は、中国(杭州)の工場で生産し、それを日本で販売するケースが全体の約7割を占めていますから、円安は業績に大きなマイナス影響を及ぼしました。そこで、大手企業のお客さまとは売価について再交渉を行ったり、個人向け製品では売価を見直したり、収益性を考えて機種を選別したりといったことも行いました。まずは止血が優先された1年でしたが、そういった取り組みの結果、2023年度には、1ドル140円の水準でも利益が出る体制に転換できるようになります。

シャープの2023年3月期第3四半期 決算資料より抜粋。Dynabookを含むICT事業は営業利益の赤字が続いている

 また、2022年度前半は半導体不足の影響がありましたが、PC導入の年間契約をしている大手企業や官公庁などには迷惑をかけないように納期を優先し、商品を切らさないことに取り組みました。この結果、第2四半期(2022年7〜9月)は国内B2B向けノートPC市場においてはトップシェアを獲得することができました。

 日本のB2B向けPC市場は、四半期ごとに需要の変化はあるものの、想定よりも上振れているという感触があります。国内B2B向けノートPC市場では、常にトップシェアに近いところにいたいと考えており、2023年度も、この勢いを維持していきたいですね。同時に教育分野においても成果が上がっており、2022年度は高校および大学向けの受注が好調でした。

 課題となっているのは、海外PC事業です。海外PC市場の低迷が影響し、市場にも多くの在庫が滞留するという状況が生まれ、欧州を中心に販売会社の組織体制の見直しなどを行いました。海外市場においては、収益を確保できる販売ルート、お客さまに絞り込む体制へと組織を再編しているところです。ただ、第4四半期からは海外PC事業も回復基調に転じており、計画通りに推移しています。

―― Dynabookでは、モバイルコンピューティング技術による「dynabook as a Computing」とともに、AIoTソリューションによる「dynabook as a Service」を打ち出しています。ここ数年はソリューションビジネスの強化に力を入れていますが、その成果はどうですか。

覚道氏 ハードウェアへの依存が高いままでは、将来に向けた事業の継続性に課題が残ります。その観点からも、PC回りのソリューションをPCに「重ね売り」していくことが大切だと考えています。

 日本マイクロソフトの「Windows Autopilot」や「Microsoft Intune」を活用したID管理やシステム構築支援の他、各種セキュリティソリューションの提供などにより、ハードウェアの提案だけではアプローチできなかったお客さまから、新たな案件を獲得するといった成果も生まれています。

 その一例として、「ライフサイクルマネジメント運用サービス」があります。PCの運用に関わる業務負担を軽減し、ムリ/ムラ/ムダを削減する最適運用を支援でき、さらに、2023年1月にはこれをアップデートして、LCM(Life Cycle Management)運用ポータルを提供し、PCの管理運用作業を請け負うことができるようにしました。

 お客さまにPCを販売するだけでなく、その後に発生する運用/管理/保守といった場面でも、Dynabookに任せてもらうというビジネスが増えています。

ライフサイクルマネジメント運用サービスの概要

 また、シャープでAIやIoT家電、クラウドサービスを担っていたAIoTクラウドを、2021年1月にDynabookが100%子会社化したのですが、覚悟を決めて2022年10月に、240人のうち約半分を占めていたシャープからの受託開発部門をシャープに戻し、残りの120人体制によって、Dynabookのソリューション事業本部とともに、シャープグループ以外の仕事を担当することに特化した組織へと再編しました。

 既に少しずつ立ち上がりをみせ、収益に貢献できるようになっています。道交法改正に合わせて商品化したアルコールチェック管理サービス「スリーゼロ」や、IoT家電の開発を効率化するためのIoT運用SaaSである「WIZIoT(ウィジオ)」の提供を開始しており、これらの製品に高い評価が集まっています。

 2022年度下期からは、当社が提供するPC関連ソリューションと、AIoTクラウドによる特定用途向けソリューションを組み合わせて、一定規模の事業に育ち始めています。2023年度は、これらのソリューション事業をさらに強化していきたいと考えています。

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