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OpenAIのお家騒動の実際とMicrosoftのAI開発の今後Windowsフロントライン(2/4 ページ)

» 2023年11月21日 12時00分 公開

今回の騒動における誤解と実際

 経過の整理に入る前に、ちまたでウワサされるような事案について少し触れる。

 ナデラ氏は今回の騒動後もOpenAIとの提携は有効であると述べているが、同時に創業メンバーのうちのアルトマン氏とブロックマン氏を同社のAI新部門のトップとして迎えることにも成功している。

 IT業界の常として、こうした有力なリーダーが他社に移籍すると、時を同じくして率いていたチームやそのリーダーを慕う従業員らが一斉に移動するため、結果的にOpenAIで開発や研究の中核だったメンバーの多くがMicrosoftへ集まる形となる。

 Microsoftは、OpenAIとの関係を維持したままChatGPTなどを含む既存のリソースへのアクセスを可能とする他、アルトマン氏とブロックマン氏を中核とした新メンバーで社内でのAI開発も可能となるため、「結局はMicrosoftが全てを手に入れた」ということで「Microsoftが仕掛けた陰謀では?」という声も聞こえてきたりする。

 だが実際のところ、Microsoftが今回の事態を引き起こすメリットがないばかりか、経過によってはマイナスの効果しかないといえる。過去にも触れたが、Microsoftは2019年以来、5年弱にわたって数十億ドル規模の投資をOpenAIに行ってきた。

 昨今のAI開発で最も重要なのは計算リソースで、MicrosoftのOpenAIに対する最大の貢献はAzureのデータセンター内の膨大なコンピュータリソースへのアクセス権にあったと考えられる。

 通常であれば立ち上げ初期のステージのスタートアップには入手が難しい量のコンピュータリソースであっても、OpenAIは“Microsoft Azureのリソースを独占的に使う”ことを条件に潤沢に手に入れることができた。

 結果、誕生したのが、いわゆる「Generative Pre-trained Transformer(GPT)」の進化バージョンであり、後のChatGPTなどのサービス登場につながっている。

 大規模言語モデル(LLM)を使った一連の製品群に関してOpenAIの功績が語られがちだが、実際のところは潤沢なリソースを提供したMicrosoftの存在が大きい。

 同時に、OpenAIならびにGPTを表舞台に引き出したMicrosoftの功績は大きい。従来、GPT-3くらいまでの段階では動作にあたってプロンプトを含むAPI操作の知識が必要だったため、一部の開発者らの間で「知る人ぞ知る」という存在だったと筆者は考えている(実際、Microsoftの搭載製品として最初に登場したのはコード記述を行う開発者向けの「GitHub Copilot」だった)。

 ところが、利用方法がより簡素化されたChatGPTが登場し、GPTの仕組みをBingを始めとする一般ユーザー向けの自社製品群へと本格的に取り込み、毎月のようにOpenAIとの協業で誕生した新製品やニュースを発表して、話題を常に盛り上げてきたのは他ならぬMicrosoftの力による部分が大きい。それを今回のような醜聞でOpenAIの評価に“ミソ”つけるメリットはMicrosoftにとって全くない。

 世間的には、OpenAIとMicrosoftの取り組みが抜きん出ている印象を受けている人がいるかもしれないが、実際のところ、LLMの開発は各社団子状態でひしめき合っており、大きく抜きん出ている組織は存在しないというのが筆者の考えだ。

 Microsoftによる宣伝が絶妙で、OpenAIがひときわ大きくフィーチャーされてきたという意見だ。ゆえに、ここでOpenAIに少しでも悪い印象が付くのであれば、これまでMicrosoftが行ってきた宣伝の多くが無に帰す可能性があり、望むべきことではないだろう。前述のOpenAIの取締役会と交渉を行った出資者の中にMicrosoft関係者も含まれると思うが、おそらく同社幹部らは取締役会の突然でかたくなな対応に頭を抱えたことだと思う。

 こうした中、わずか2日間ほどの間に「OpenAIとの関係継続とアルトマン氏らの自社への取り込み」を決断したナデラ氏を筆頭にMicrosoft経営陣の迅速な動きを称賛するとともに、どうすることが互いにダメージが少ないかを考え、おそらく現状でベストな手段を選んだ点を評価したい。

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