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思った以上に進化していたHPの「3Dプリンタ」 その生まれ故郷「HP Parts Manufacturing Labs」を見学してきた(2/3 ページ)

» 2024年03月19日 17時00分 公開
[笠原一輝ITmedia]

3Dプリンタの需要な開発拠点「HP Parts Manufacturing Labs」

 HP Parts Manufacturing Labsは、Jet Fusion/Metal Fusionシリーズを始めとする3DプリンタのR&D拠点で、HPのバルセロナキャンパス内に所在する。

 バルセロナといえば、モバイルを中心とする通信業界関係者向けイベント「MWC Barcelona(旧称:Mobile World Congress)」の舞台としても知られているが、このキャンパスはバルセロナの空の玄関口「エル・プラット国際空港」から自動車で30分ほど走った、サン・クガ・ダル・バリェス(Sant Cugat del Valles)という場所にある。

 サン・クガ・ダル・バリェス周辺は「バルセロナの工業地域」という位置付けで、日本企業ではファナックやセイコーエプソンも進出し、オフィスや工場を構えている。

ファクトリー HP Parts Manufacturing Labsは、バルセロナ郊外のサン・クガ・ダル・バリェスに所在する「HP バルセロナキャンパス」に入居している(写真提供:HP)
結構開放的 新館のエントランス(写真提供:HP)
受付 「新館」というだけあって、エントランスは比較的明るい雰囲気だ。なお、かつて工場として稼働していた「旧館」もあり、そちらはオフィスや研修施設として利用しているとのことだ(写真提供:HP)
バルセロナ郊外ゆえに 都市としてのバルセロナは、ローマ時代の都市に起源を求められる。ローマ帝国とカルタゴ植民市の「ポエニ戦争」の主人公の1人、ハンニバル・バルカを輩出した名家「バルカ家」の領土で、その後ローマ帝国の植民市として発展した歴史がある。そのこともあってか、この新館を建てる時に紀元2世紀のローマ帝国時代の遺跡(墓跡)が発掘され、調査が行われた。これはそれを記念するパネルである

 HPも、そんなサン・クガ・ダル・バリェスに進出した企業の1つだ。同社のフランシス・ミネック氏(HP 3Dポリマープリンタ責任者)の話によると、HP Parts Manufacturing Labsは、米国外としては最大のR&D拠点であると同時に、3Dプリンタ事業の本社(ヘッドオフィス)も備えている。ゆえに、同ラボを含むバルセロナキャンパスの従業員数は、2500人超と大規模だ。

概要 HP Parts Manufacturing Labsは、HPバルセロナキャンパスの一部を構成している。かつてはヨーロッパ向け製品の工場だったこともあり、同キャンパスの敷地は広い
プリンタ以外もある バルセロナキャンパスには、ヨーロッパ市場向けの研修施設も設置されている。そのため、産業用の大判プリンタやPC製品に関する体験(展示/研修)施設もある

 ミネック氏によれば従来の産業用3Dプリンタは、「製品化前のプロトタイプ作成」が主な応用事例だったそうだ。しかし、最近はそれが段々と変わってきており、3Dプリンタで最終製品まで作ってしまうケースも増えているという。

ミネック氏 実際の製造の現場では、既に3Dプリンタの活用が進んでいる。3Dプリンタを利用するメリットは在庫を持つ必要がないことにあり、少量生産などにも適している

 メガネフレームはその代表例で、今までなら「顧客の注文を受けてからレンズをフレームに合わせて調整する」というような生産方法だったと思うが、今は「顧客の注文を受けてから3Dプリンタでフレームを製造する」とすることで、顧客により最適化されたフレームを生産できるし、在庫を持つ必要もなくなるというメリットがある。

 義歯(入れ歯)のシリコン部分でも同様で、顧客の口の形をスキャンしたら、それに合わせて3Dプリンタでシリコン部分を成形(製造)するといったことも可能だ。

HPの3Dプリンタの歴史 HPの3Dプリンタの歴史
展示スペース HPの産業用3Dプリンタで作成(実現)した商品類を展示するスペース
ゴーグル 3Dプリンタを使えば、ゴーグルの“つば”を頭の形に合わせて出力(製造)することも可能。本文で例に挙がったメガネフレームや義歯のシリコン部分の成形も、考え方は同じだ

 現在、3Dプリンタが一番活発に使われているのは、ミネック氏の話にも出てきた義歯産業だ。次いで、自動車産業での利用が多いという。

 義歯と同じく個人への最適化が求められる義肢(義手/義足)の製造にも、最近は3Dプリンタが活躍する場面が増えている。ロボットアームや、果ては指輪を始めとするアクセサリー(装飾品)の製造にも3Dプリンタが使われてているそうだ。

 ちなみに、ミネック氏の結婚指輪は「当社(HP)の3Dプリンタで“製造”されたもの」とのことだ。

義肢 「個人に最適化」という観点では、義肢の製造にも3Dプリンタは最適だったりする
結婚指輪 ミネック氏の結婚指輪(写真)は、HPの金属3Dプリンタで作られたという

 自動車産業での3Dプリンタの利活用は、部品などの「プロトタイプ」を作る際のニーズはもちろんだが、最近では「製品」の製造にも使われている。同社のWebサイトでは、有名な事例として、ドイツのVolkswagen(フォルクスワーゲン)が金属3Dプリンタを使ってパーツを製造する事例が紹介されている。

フォルクスワーゲンが、HPとの協業で金属3Dプリンタでパーツを製造する取り組みを進めている

 このように、3Dプリンタの利用領域は従来のプロトタイプ作成から、実際の製品の生産にまで広がっている。

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