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思った以上に進化していたHPの「3Dプリンタ」 その生まれ故郷「HP Parts Manufacturing Labs」を見学してきた(3/3 ページ)

» 2024年03月19日 17時00分 公開
[笠原一輝ITmedia]
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3Dプリンタが30台以上ずらっと並ぶ研究開発施設

 HP Parts Manufacturing Labsの敷地面積は1200m2ほどで、その中で30台以上のポリマー/金属3Dプリンタが稼働している。

 建物そのものは2階建てになっており、1階がラボ、2階がオフィスという構造だ。ラボは3Dプリンタが動いているエリアと、ラボで働いている研究者がいるエリアで完全に分離されている。

 3Dプリンタが動いているエリアはエアフローなども含めて完全に分離されており、研究者が常駐するエリアには3Dプリンタや研究機器が発する音などは漏れてこない。

俯瞰図 2階からHP Parts Manufacturing Labsを俯瞰(ふかん)で眺める。少し分かりづらいが、写真の右寄りにあるガラス窓/扉の内側に3Dプリンタが設置されており、その外側に研究員の研究スペースが設置されている。なお、ラボ内の騒音はオフィス/研究スペースには漏れない防音設計で、従業員の健康にもしっかり配慮がされている(写真提供:HP)

 ラボはポリマー系の3Dプリンタ(Jet Fusionシリーズ)の区域と、メタル系の3Dプリンタ(Metal Fusionシリーズ)の区域に分けられている。

 見学当時、ポリマーのエリアでは3Dプリンタに格納される「ワゴン」を自動排出する機能のテストが行われていた。3Dプリンタはワゴンの中にパウダーの層を重ねていき、その層1つ1つに印刷していくことで立体物を生成していく。その生成にはそれなりの時間がかかるが、作業が終了し次第、ワゴンを自動で排出できるようにすることで、生産性を向上できるというわけだ。

 最終的にワゴンの交換まで自動で行えるようにすれば、生産自体の完全自動化も可能となる。このテストは、将来的な「生産の自動化」を視野に入れた開発の一環として行っているそうだ。

内側 HP Parts Manufacturing Labsの内部。3Dプリンタはたくさん並んでいるが、ポリマー系と金属系は区画を分けて設置されている(写真提供:HP)
箱にはパウダー ラボ内ではさまざまなテスト(研究)が行われている(写真提供:HP)
箱 写真に写り込んでいる茶箱にはパウダーが入っている。その容積は1箱で300L(約130kg)になるという(写真提供:HP)
ワゴンたち 立体物は、このワゴンの中で生成される。生成が終わればワゴンを交換して次の生成に入ることになるが、現在はワゴンを自動交換するための仕組みを研究/開発しているそうだ(写真提供:HP)

 「持続可能な3Dプリンティング」を目指して、Parts Manufacturing Labsではパウダーの再利用も行われている。

 3Dプリンタでは、ワゴンにパウダーを敷き詰めて一層一層印刷していく。そしてパウダーを取り除くと立体物が姿を見せる。これは先述の通りだが、見方を変えると、固まらないパウダーは無駄になってしまうということでもある。

 そこで最終工程で吸い取ったパウダーの一部を、再利用する取り組みを進めているというわけだ。本ラボでは、新品のパウダーを2割、再利用パウダーを8割という利用比率とすることで、無駄による環境への負荷を抑えている。

 ラボでは新しいアプリに関するテスト、3Dプリンタを製品の量産に利用する際に必要な検証、品質や耐久性などの実証も行われている。これらの結果は、3Dプリンタを利用する顧客企業にも共有されているという。

活躍の場が広がる3Dプリンタ 身近なアイテムに使われているかも

 HPがバルセロナで研究/開発している3Dプリンタは、年々適用範囲が広がっている。既に紹介した事例以外にも、例えば靴の中敷きや底部を3Dプリンタで作るという取り組みがなされている。

 フランスのスポーツ/アウトドア用品メーカーのDecathlon(デカトロン)は、「HP Jet Fusion 5200 3D Printer」を使ってスポーツシューズの底部にあるミッドソールとアウトソールを作る取り組みを公表済みだ。靴の底部には衝撃吸収性能を求められるが、その点はBASF製の専用パウダー「BSAF Ultrasint TPU01」で解消している。

ランニングシューズ ランニングシューズの底部を3Dプリンタで出力する取り組みもある。衝撃吸収性に優れた専用パウダーも開発され、その“実用性”は一層高まっている

 個人的には、義肢が3Dプリンタで製造されることにはとても納得が行った一方で、メガネフレームや義歯を3Dプリンタで製造するというのは意外に思った。

 しかし、いわれてみれば、メガネフレームにせよ、義歯にせよ、個人に最適化する必要があるものであり、それを3Dプリンタで製造するというのは理にかなった話ではある。その意味で、3Dプリンタの可能性は果てしないと感じた。

 日本では3Dプリンタの活用がどのように進むのだろうか。やはり、日本最大の産業である自動車産業が鍵を握っているように思える。

 ミネック氏によれば、先に挙げたVolkswargenだけでなく、GM(ゼネラルモーターズ)もHP製3Dプリンタを利用して商用製品の生産に取り組んでおり、その事例は増加傾向にあるそうだ。日本の自動車メーカーでも、3Dプリンタを活用する動きが出てくるのは時間の問題だろう。

 その意味で、いつメタル3Dプリンタを日本市場に投入するのかを含めて、日本HPと3Dプリンタの動向には要注目だ。

ポリマー系 ポリマーの3Dプリンタを活用した自動車用部品。既にプロトタイプだけでなく商用製品への応用も進んでいる
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