コロナウイルスの流行から世界情勢の不安定化、製品供給網の寸断や物流費の高騰、そして急速に進む円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。前編の記事はこちら。
米HPが発表した2022年度(2021年11月〜2022年10月)の業績は、売上高は前年比0.8ポイント減の629億ドル、営業利益は54億ドルだった。そのうち、パーソナルシステムズの売上高は前年比1.7ポイント増の440億ドル、プリンティングは6.1ポイント減の189億ドルとなった。
PCは継続的な成長を続ける一方、プリンティング事業は今後の巻き返しが注目されている。そして、業績発表とともに公表した最大6000人規模の人員削減は、業界内からも大きな注目を集めた。
その一方で、新たに打ち出したサービス事業の強化は、HPの次の一手として2023年の同社事業戦略の目玉となりそうだ。日本市場で展開する日本HPにとって、2023年は、果たしてどんな1年になるのだろうか。後編は、プリンティング事業への取り組みや、岡戸社長が最重点のテーマに掲げるサステナビリティー、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)などへの取り組みについても聞いた。
―― 2022年11月からスタートした日本HPの新年度では、どんな点に力を注ぐことになりますか。
岡戸氏 グローバルの事業方針に則った形で推進することになりますが、日本では、幅広いポートフォリオの価値をしっかりと市場に伝えていくことが重要なポイントだと思っています。また、2023年の重点テーマとして、サービスやソリューションを強化したいと考えています。
ハイブリッドワークは不可逆な変化ですが、まだ3割の人たちしか利用できていないのが実態です。特に地方や中小企業では、まだまだ拡大の余地があります。このようにハイブリッドワークが広がっていくと、デバイスの管理やセキュリティがより大切になってきます。
オフィスで仕事をする環境と、自宅やカフェなどで仕事をする環境が混在して利用され、それに合わせた新たな管理や運用が求められるからです。今後、サービスやソリューションに対するニーズは、ハイブリッドワークの浸透とともに、拡大していくことになるでしょう。ここは、当社にとって重要な強化ポイントとなります。
HPにとって2023年は、事業ポートフォリオの1つとして、サービス事業を確立していくことになります。これまでは、PC事業を担当するパーソナルシステムズと、プリンタ事業を行うプリンティング部門という2つの事業軸で構成していましたが、2022年11月に、サービス事業を担当するWorkforce Services & Solutionsと呼ぶ組織を新設し、この組織が、3つ目の柱としてサービス事業を担うことになります。
PolyのCEOであったデイブ・シャルが新組織のプレジデントに就任し、サービス、ソフトウェア、セキュリティの各事業を統合し、事業を推進することになります。日本においても同様に事業責任を明確化し、対外的にもサービス事業の強化を訴求する1年になります。2023年は、HPがサービス事業に重点的に取り組むことになる「元年」ともいえます。
一方、個人向け市場においては、ゲーミングPCのトレンドがさらに拡大すると見ていますし、これも2023年においては、重要な柱の1つにしていきます。今後、Windows 11へのマイグレーションといった動きも顕在化してくると考えており、GIGAスクール構想の更新需要も数年後には到来します。2023年は、そうした次の動きに向けた準備もしっかりと行っていきます。
このように、日本では、引き続きハイブリッドワーク、ゲーミング、周辺機器、デジタル印刷、3Dプリンタに加えて、サービス分野を強化領域として事業を進めていきます。
―― 一方で、米本社では大規模な人員削減を発表しています。日本への影響はありますか。
岡戸氏 HPが新たに打ち出した「フューチャー・レディ」戦略は、コストを削減し、主要な成長施策に再投資することにより、将来に向けて、お客さまによりよいサービスを提供し、長期的な価値創造を可能にすることを目指すものです。
この戦略の一環として、今後3年間で、グローバルで4000〜6000人の従業員を削減する計画を発表しました。日本を始めとして、地域ごとの数字については公表していませんが、これは私たちが大切に思っている仲間に影響を与えるため、最も難しい決断となります。私たちは、社員が次の機会を見つけることができるよう、経済的支援やキャリア・サービスなどのサポートを含め、社員に対して配慮と尊敬をもって接することを約束しています。
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