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インクジェットはまだまだ進化する エプソンの碓井会長が語るマイクロピエゾからPrecisionCoreへの歩みIT産業のトレンドリーダーに聞く!(セイコーエプソン 前編)(1/4 ページ)

» 2023年06月14日 07時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

 コロナウイルスの流行から世界情勢の不安定化、製品供給網の寸断や物流費の高騰、そして急速に進む円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。連載第6回はセイコーエプソンだ。

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 セイコーエプソン(以下、エプソン)が手がけるインクジェットプリンタのコア技術である「マイクロピエゾ」が開発されてから30年を経過した。

 初めて、マイクロピエゾを搭載したインクジェットプリンタ「MJ-500」が登場したのは1993年3月だ。その後、写真印刷における強みを生かし、家庭向けプリンタ市場を確立する役割を担ったのは周知の通りである。

 また、2013年9月に登場した「マイクロピエゾの理想形」と位置づける「PrecisionCore」(プレシジョンコア)によって、この10年はオフィスでの利用を促進。いよいよ2026年にはレーザープリンタの販売から撤退することを発表し、インクジェットプリンタに事業を一本化する。

 このマイクロピエゾの開発をリードしたのが、セイコーエプソンの碓井稔会長である。前編では、マイクロピエゾ開発前夜から家庭向けプリンタ市場の確立までの取り組みを、碓井会長に熱く語ってもらった。

セイコーエプソン エプソン販売 碓井稔会長 インクジェット マイクロピエゾ プレシジョンコア セイコーエプソン 碓井稔 取締役会長。同社本店があるJR新宿ミライナタワーでお話を伺った

インクジェット技術が進化する中で芽生えた危機感

―― 1993年に登場したインクジェットプリンタのコア技術となるマイクロピエゾは、どんな経緯で誕生したのでしょうか。

碓井 エプソンは、1979年に当社初のドットマトリックスプリンタ「TP-80」や、1980年に発売した「MP-80」によって、圧倒的なシェアを獲得していました。当時は、プリンタはPCメーカーの純正品を使用することが一般的だったのですが、エプソンはそうした常識を打破することに成功したのです。

 しかし、1984年に、米ヒューレット・パッカード(HP)がレーザープリンタの「LaserJet」を発売する一方、同時期にキヤノンが電子写真方式のレーザープリンタ「LBP-CX」を投入し、デスクトップパブリッシング(DTP)という新たな市場提案を開始。さらに1988年には、HPがサーマル方式のインクジェットプリンタである「DeskJet」発売したことで状況が一変し始めました。

 特にDeskJetは、ノズルの数を増やすことが容易で高密度化しやすく、サーマル式インクジェットプリンタの弱点であった耐久性についても、交換式という仕組みを用いて課題を解決しました。そして、何にも増して驚いたのは、ボディーを開けてみると、ヘッドの駆動ドライバーなどがかなり小さく、電圧も低く、コスト競争力が発揮しやすい構造だったことです。実際、当初は高い価格で商品化していましたが、想定したようにアッという間に価格が安くなりました。

 当時、エプソンが主力にしていたドットマトリックスプリンタ事業にとっては、LaserJetだけであれば、ドットマトリックスプリンタのハイエンド領域に影響する程度でしたが、DeskJetは、印刷品質やコスト競争力という点でも、メインストリームのプリンタを置き替えることが想定され、当社は強い危機感を持ち始めました。

セイコーエプソン エプソン販売 碓井稔会長 インクジェット マイクロピエゾ プレシジョンコア

 私は、1983年から通電熱転写方式によるビデオプリンタの開発を担当していましたが、当社のプリンタ事業全体が厳しい状況に置かれ始めたことは強く感じていました。

 実は、当社が1984年に初めてのインクジェットプリンタ「IP-130K」を発売していました。しかし、当時49万1000円という価格であり、約10万円だったドットマトリクスプリンタを置き替えられる商品でもなく、レーザープリンタに対抗できる品質でもない。

 ヘッドも100Vの電圧で駆動するものであり、それに伴い、回路回りが大きくなり、コストも上がる。信頼性にも課題があった。HPのレーザープリンタやインクジェットプリンタに太刀打ちできる商品ではなかったのです。

セイコーエプソン エプソン販売 碓井稔会長 インクジェット マイクロピエゾ プレシジョンコア インクジェット技術の歴史
セイコーエプソン エプソン販売 碓井稔会長 インクジェット マイクロピエゾ プレシジョンコア 当時競合であったHP(現在の日本HP)やキヤノンとしのぎを削っていた

―― サーマル方式のインクジェットを採用したり、レーザープリンタに力を注いだりという議論はなかったのですか。

碓井 インクジェットプリンタには、HPとキヤノンが商品化したサーマル方式と、当社が力を入れて取り組んできたピエゾ方式があります。サーマル方式については当社も研究したことはありましたし、電磁式や静電気式という仕組みも検討しました。

 ただ、当社はずっとピエゾ方式にフォーカスしてきたこともあり、サーマル方式では特許が少なく、代わりにピエゾ方式では、周辺技術を含めて多くの特許を有していました。例えば、ヘッドの製造方法にはカイザー方式を採用していましたが、そこに当社独自の人工水晶を用いた手法を取っています。

 これは当社が長年培ってきた、クォーツ時計の水晶振動子製造に関するノウハウを活用したものです。そして、耐久性が求められる事務機には、そこに課題を持つサーマル方式は使えないという基本的な考え方をしていたことも、ピエゾにこだわった理由の1つでしたね。

 一方、レーザープリンタの領域については、電子写真方式に取り組み、ここに当社が得意とした液晶技術を使った液晶ヘッドを開発して、商品化をした他、LED方式を研究したこともありました。

 しかし、電子写真方式にしてもエンジンは他社から調達しなくてはなりませんし、液晶ヘッドではランプを使用するため効率が悪く、結果として、競争力を発揮できないという結論に至りました。

セイコーエプソン エプソン販売 碓井稔会長 インクジェット マイクロピエゾ プレシジョンコア 当時エプソンが採用していたインパクトドット方式では、強みを打ち出せなくなっていった
セイコーエプソン エプソン販売 碓井稔会長 インクジェット マイクロピエゾ プレシジョンコア 旧来からあるピエゾ方式の原理

 そこで当社は、多くの特許を持っていたピエゾ方式に集中することになるのですが、最初のピエゾ方式では100Vで駆動させても0.1μm以下と変位が少ないため、その分、インク室を大きくしなくてはならず、小型化や低コスト化では、どうしてもサーマルには勝てない状況でした。

 ただ、ピエゾ方式に活路を見いださないと当社のプリンタ事業は生き残れないのも確かです。私も、ビデオプリンタなんかをやっている場合じゃないということになり(笑)、最後は2人だけでやっていたビデオプリンタの開発を終わらせて、1988年からインクジェットプリンタの開発に携わるようになりました。

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