コロナウイルスの流行から世界情勢の不安定化、製品供給網の寸断や物流費の高騰、そして急速に進む円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。連載第5回はVAIOだ。
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VAIOが大きな変革への一歩を踏み出した。新たに発表した個人向けPC「VAIO F14/F16」と、法人向けの「VAIO Pro BK/BM」は、Windows PCの「定番」といえるモノ作りを追求。これまでのVAIOが得意としてきた“プレミアムニッチ”のモノ作りとは一線を画し、より多くのユーザーにVAIOの価値を届けるものになる。
さらに、成長戦略を加速し、2022年5月期には224億円だった売上高を、2024年5月期には、2倍以上となる500億円を超える事業規模にまで拡大する計画も打ち出す。新たな戦略の背景にあるのは、「このままではVAIOは生き残れない」というVAIO 山野 正樹社長の強い危機感だ。
インタビューの前編となる今回は、山野社長が抱いたVAIOに対する危機感、そして「定番」と呼ばれる新PCの開発に向けた挑戦について聞いた。
―― 2021年6月にVAIOの社長に就任してから、まもなく2年が経過しようとしています。もともとVAIOには、どんな印象を持っていましたか。
山野 私は大学卒業後に三菱商事に入社し、長年に渡ってITサービス分野を中心に、国内外でさまざまなビジネスに携わりました。しかし、その間、自分自身でVAIOを使う機会は1度もありませんでした。IBM時代のThinkPadを始め、富士通(FCCL)/NEC(NECPC)/パナソニック/レノボ・ジャパン/デル・テクノロジーズ/日本HPなど、あらゆるPCを使ってきたのですが、よりによってVAIOだけは唯一使ったことがなくて……。
そういった背景がありましたから、これまで1度も使ったことがないVAIOの社長に就くことになったのは、むしろ運命的なものを感じました。
―― なぜ、VAIOを使う機会がなかったのでしょうか。
山野 偶然にも使う機会がなかったというのが正直なところです。ただ、その一方で、多くのPCユーザーが感じていることかもしれませんが、VAIOは、お洒落なPCブランドという印象とともに、ガジェット好きの人たちが使うというイメージもあります。
熱狂的なファンが多いブランドですから、普段使いのPCユーザーにとっては、そこに入っていきにくい(笑)という感じもしていました。
もちろん、実際に使ってみると、品質や質感にはとても満足していますし、なぜ、これまで使わなかったのかと反省はしています。
―― VAIOの中に入ってみて、どんなことを感じましたか。
山野 社長に就任する1カ月前から、部長以上の社員全員と面談をしました。そのときに感じたのは、VAIOという会社には大きな可能性があるということでした。いい製品を作っており、知識と経験を持った、まじめな人がいる。VAIOというブランドにプライドを持ち、このブランドを守るという使命感も強い。
しかし、ビジネスという観点から見てみると、いい製品を作っている割には売れていない。業績も伸び切れていない。そして、思ったほど認知度が高くない。しかも製品の価格が高いという課題を感じました。
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