セイコーエプソン(エプソン)は11月17日、A3複合機/プリンタの中速機種「WorkForce Enterprise<LM>シリーズ」(以下、<LM>シリーズ)を発表した。
同シリーズは、オフィスに最適なプリンタや複合機を月額利用できるオフィス向けサブスクリプションサービス「エプソンのスマートチャージ」対応モデルとなる。いずれも2023年2月上旬に提供開始予定だ。
同日、同社は「オフィス・ホームプリンティング事業戦略説明会」を実施し、<LM>シリーズを開発するに至った経緯を説明した。
エプソングループでは、グループパーパスとして、『「省・小・精」(しょう・しょう・せい)から生み出す価値で人と地球を豊かに彩る』を掲げている。効率化、省スペース化、精緻化により実現することで、顧客価値を提供し、さらに社会課題の解決にまでつながるという。
同社 代表取締役社長 小川恭範氏は「社会課題を解決することで事業を成長させられ、その成長により、さらに多くの社会課題を解決していきたい」と語り、社会課題を解決するのに取り組むべき重要なテーマを4つ挙げた。
これを実現するための長期ビジョンとして「Epson 25 Renewed」を打ち出しており、省・小・精の技術とデジタル技術により持続可能で心豊かな社会を共創したいとしている。
そのための5つのイノベーション領域を同社は設定しており、その中でもプリンティングソリューションズ事業本部が担当しているのが「オフィス・ホームプリンティング」と「商業・産業プリンティング」領域だ。
オフィス・ホームプリンティング領域では、インクジェット技術により生産性の向上を、紙再生技術で環境負荷の低減を、オープンソリューションの提案により分散化を実現していく。
商業・産業プリンティング領域では、デジタルによる繊細な印刷を、工場一括ではなく消費地に近い場所で分散生産することで小ロット化し、環境負荷の低減や生産性向上につなげていきたいとした。
いずれの領域でも、イノベーションをけん引するコアな技術は「マイクロピエゾインクジェットヘッド」だという。同技術は、電圧を加えることで収縮するピエゾ素子と振動プレートを組み合わせ、熱を使わず、インクを吐出するというものだ。このセットを数千という単位で並べることで、精緻な印刷を実現している。
「マイクロピエゾインクジェットヘッドというコア技術は、オフィスやホームだけでなく、高集積の商業・産業系の印刷まで幅広くカバーできる。幅広い用途への応用を可能にしており、さまざまなタイプの顧客へ価値を提供することができるし、オフィス・ホームプリンティングの戦略シナリオを推進することができている」と、同社 プリンティングソリューションズ事業本部長 吉田潤吉氏は述べた。
同社 プリンティングソリューションズ事業本部 副事業本部長兼Pオフィス・ホーム事業部長 山田陽一氏は、インクジェットプリントの価値は「熱を使わないシンプルなプロセスにある」という。レーザープリンタでは、帯電/露光/現像/転写/定着という複雑なプロセスにより印刷しており、当然、部品も多くなる。
その点、インクジェットプリンタであれば、インクを吐出するだけとシンプルで、レーザープリンタのようにプリンタがウォームアップするまで待たなければならないというストレスも回避できる。
「熱を使わないから消費電力が少ないし、シンプルだから定期交換部品や消耗品の廃棄物が少ない。ウォームアップの時間が不要だし、高速印刷を行える。環境負荷の低減とストレスフリーという2つの大きな価値を顧客に提供できるのが、インクジェットプリンタだ」(山田氏)
しかし、これまで同社ではサブスクリプションサービス「スマートチャージ」対応機として、A3用紙を最大毎分26枚印刷できる安価な低速機<PX>シリーズと、最大毎分100枚印刷できる高価で高速な<LX>シリーズしかなかった。“中速帯”(毎分40〜60枚の印刷に対応する)の複合機がラインアップに欠けていた。
最もボリュームが見込まれる中速機が後発になった理由について、山田氏は「開発が困難で時間がかかったから」という。「高速機では接地面積が大きくなり、そのぶんコストもかかってしまう。『よりコンパクトなものを』と求められ、フィニッシャー(ステープル止めユニット)を接続するための中間ユニットを廃止するなどしたが、それ以外にもライン型ヘッドの配置、印刷で濡れた紙を正確に高速に搬送するための技術開発にも時間を要した」と解説した。
環境負荷が低く、ストレスがないオフィス向けインクジェットプリンタに中速帯が加わることで、レーザープリンタに頼る必要がなくなった同社では、環境意識の高い欧州も含め、ワールドワイドな展開を本格化できるようになったという。
「1984年にエプソン初のインクジェットプリンタを開発し、1993年にコンシューマー向けカラーインクジェットプリンタを発売してから、ハイエンドも含めたオフィス向け製品へと発展させてきた」とし、「国内外で、今でもレーザープリンタからインクジェットプリンタへ切り替えることへの不安の声を聞くが、技術や価値を解説したValue Bookを作成し、不安を払拭(ふっしょく)してもらえるようにした。これからも、インクジェットの価値をより多くの顧客に届けていきたい」と山田氏は締めくくった。
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