IEEE 802.11beでは、6GHz帯において320MHz幅での通信に対応している。これは、何を意味するのか。
無線LANでは、利用できる電波の帯域をある程度まとめて幾つかの「チャンネル」に分けている。IEEE 802.11シリーズの規格が生まれた当初は20MHzごとに1チャンネルだったが、連続する複数のチャンネルを束ねて通信する「チャンネルボンディング」によって帯域の幅を広げてきた。
月並みな例えだが、伝送されるデータを「自動車」、帯域幅を「道路の幅(レーン数)」だと考えると分かりやすい。自動車は、道路のレーン数が多ければ多いほど流れがスムーズになり、スピードも出しやすくなる。だからこそ、無線LANを始めとする無線通信では、通信に使える帯域の“幅”をいかに広げるかということに注力してきた。
Wi-Fi 5(IEEE 802.11ax)では、5GHz帯と6GHz帯でそれぞれ最大160MHz幅で通信できるようになった。Wi-Fi 7では、6GHz帯に限りさらに倍の320MHz幅での通信通信を実現したわけだ。
しかし、Wi-Fi 7の規格では、320MHz幅での通信はオプション扱いとなっている。実装するかどうかは“任意”なのだ。バッファローの成瀬廣高氏(ネットワーク開発部 第一開発課 課長)はこう語る。
Wi-Fi 7への対応をうたう上で、320MHz幅の通信は必須事項ではありません。つまり、「Wi-Fi 7対応機器」であったとしても、320MHz幅で通信できないこともあり得ます。
ルーターや端末が320MHz幅に対応しているかどうかは、パッケージやカタログ、Webサイトなどに記載されている「製品仕様」を良く見る必要があります。当社のWXR18000BE10Pは、しっかりと320MHz幅の通信に対応した上で、パッケージにも320MHz幅対応であることを明記しています。
バッファローのWi-Fiルーターは、パッケージの正面に主要な対応機能を明記している。WXR18000BE10Pも例外ではなく、320MHz幅での通信やMLOへの対応も明記されている(MLOへの対応も、規格上はオプション扱いとなる)Wi-Fi 7では、320MHz幅通信だけでなくMLOへの対応もオプション扱いとなる。
ルーターの場合、対応する機能が仕様書やパッケージに記載されることが多い。一方で、クライアント機器は対応する規格は明記されていても、対応機能を含む無線LANのスペックが詳細に書かれることはめったにない。通信速度(帯域幅)やオプション機能への対応はメーカーに問い合わせて分かれば良い方で、問い合わせても明確にならないこともある。
クライアント機器におけるWi-Fi 7対応に関して、下村洋平氏(コンシューマーマーケティング部 次長)はこう語る。
率直にいうと、クライアント機器のWi-Fiに関するスペックについては、従来と同じく詳細に出てこないことが予想されます。また、Wi-Fi 7に対応できるチップを使っていても、性能のバランスを取る観点から、あえてWi-Fi 6/6E対応としてリリースされる可能性もあります。
Androidスマートフォンでいえば、Qualcommの「Snapdragon 8 Gen 3」はWi-Fi 7をサポートしています。このSoCをきっかけに、ハイエンドモデルを中心にAndroidスマホにおけるWi-Fi 7対応が進むと期待しているのですが、先述の通り同SoCを採用しつつもWi-Fi 6E対応にとどめる機種が出てくる可能性もあります。
これまでの傾向を鑑みると、スマホの仕様表には「Wi-Fi 7対応」とは書いてあっても、対応する帯域幅(通信速度)まで記載されることはほとんどないと思われます。我々としても、接続テストをして初めて詳細なスペックを知るという感じになるでしょう。
永谷卓也氏(コンシューマーマーケティング部 BBSマーケティング課)は、通信に必要な消費電力という観点からこうつけ加えた。
通信速度との「トレードオフ」として、Wi-Fi 7の特徴である320MHz幅の通信ではデータを送信する側の機器で電力消費と発熱が大きくなります。(対応するには)それ相応の対策が求められるので、PCやスマホにおけるWi-Fi 7対応は(コストを掛けやすい)ハイエンドモデルが中心になるでしょう。
発熱や消費電力を抑えるために、ハイエンドモデルでもWi-Fi 7対応のモジュールをあえて避けたり、対応モジュールを搭載しながらも“意図的に”無効化したりするデバイスが出てきたりすると思われます。
Snapdragon 8 Gen 3のWi-Fi/Bluetooth通信機能(FastConnect 7800)はWi-Fi 7をサポートし、最高通信速度は5.8Gbps(理論値)とされている。しかし、これはあくまでも“最高スペック”であって、同SoCを採用するモデルでもWi-Fi 7をあえて非対応としたり、対応しても通信速度を抑えたりする可能性もある永谷氏は、Wi-Fi 7ではクライアント機器だけでなくアクセスポイント(ルーター)側も消費電力や発熱面での対策が欠かせないという。
WXR18000BE10Pの開発で苦労したポイントの1つが、ボディーサイズと消費電力、放熱機構です。「先代(WXR-11000XE12)からボディーサイズを据え置きつつ、消費電力を抑制し、放熱の効率化を図りながら通信品質を担保する」ということは、デバイスのバランスを整えるという観点で難易度の高い取り組みでした。
森川大地氏(ネットワーク開発部 第一開発課)も、本機の開発に当たっての苦労をこう語った。
放熱面では、ヒートシンクやヒートスプレッダーの設計を調整したり、プラスチック製のボディーとの間に熱伝導シートを入れたりすることで、熱を本体全体に“散らせる”ように工夫をしました。作り替えた回数を数えると、100回以上になるのではないかと思います。
320MHz幅の利用やMLOのサポートがオプションと聞くと、「じゃあ何がWi-Fi 7における必須事項なの?」と思う人もいるかもしれない。次ページでは、その“必須事項”がもたらすメリットについて話を聞く。
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