パッと見で分からない細かいこだわりも バッファロー開発陣に聞くWi-Fi 7ルーター「WXR18000BE10P」の秘密【後編】(3/3 ページ)

» 2024年05月01日 15時00分 公開
[井上晃ITmedia]
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「4096QAM(4K QAM)」がもたらすメリットは?

 Wi-Fi 7において必須となる機能は「4096QAM(4K QAM)」への対応だ。

 「QAM?」と思う人がいるかもしれないので、簡単に解説したい。QAMは「Quadrature Amplitude Modulation」の略で、日本語では「直交振幅変調」あるいは「直角位相振幅変調」と訳されることが多い。電気信号と電波を相互に変換する「変調」方式の1つで、頭に付いている数字が大きければ大きいほど、より多くの電気信号(≒データ)を一気に伝送できる

 Wi-Fi 6の「1024QAM」では、10bitのデータを伝送が可能だった。それに対して、Wi-Fi 7で対応必須となった4096QAMでは、12bitのデータを伝送できる。電波の帯域幅が同一なら、1024QAMから4096QAMになるだけで理論上の通信速度が1.2倍向上する。

QAMのイメージ図 Wi-Fi 6では1024QAMで変調を行っていたが(左)、Wi-Fi 7では4096QAMで変調を行うようになった(右)。これにより、同じ帯域幅なら理論上の通信速度が1.2倍に向上する

 この4096QAMによる恩恵は、特に“近距離”で通信する際に得やすいという。成瀬氏は、こう説明する。

 QAMにおける信号点を増やすと、信号点間の距離が縮まり、密度の高い状態になります。ゆえに、電波の精度がより高く求められるようになります。

 分かりやすいことで説明すると、従来のWi-Fiでも、アクセスポイントから離れると障害物の有無を問わず通信速度が段々下がるという現象が起こります。距離による伝送のロスは避けられません。

 このロスは基本的にQAM変調が高度化するほどに起こりやすくなり、Wi-Fi 7で使われる4096QAMでは、使う周波数帯にもよりますが、5〜10mの距離で50〜70dBのロスが生じます。ここまでロスが大きくなると、復号(電波を電気信号に戻す処理)を行うための精度が足りなくなります。アクセスポイントと端末が互いに“見通し”の効く場所で使うと、速度面での本領を発揮しやすいと思います。

6GHz帯のポテンシャルとユーザー体験

 Wi-Fi 6Eと同様に、Wi-Fi 7では2.4GHz帯/5GHz帯/6GHz帯の3つの帯域を利用できる。中でも、6GHz帯を使うメリットは大きい。バッファローの市川剛生氏(ネットワーク開発部 FW第一開発課 課長)は、6GHz帯のアドバンテージをこう説明する。

 Wi-Fi 6EやWi-Fi 7では、大きく分けると2.4GHz帯/5GHz帯/6GHz帯の3帯域に対応しています。これらのうち、2.4GHz帯は電子レンジの動作で干渉が発生しますし、5GHz帯は一部のチャンネルで「DFS」がレーダーを検知すると、一定時間は通信が阻害(中断)されます。その点、6GHz帯には通信を阻害する要素がないため、より快適な通信を期待できます。

 DFSは「Dynamic Frequency Selection」の略で、日本語では「動的周波数選択」と呼ばれる。

 無線LANで使われている5GHz帯の一部帯域は、航空レーダーや気象レーダーと重複している。当該帯域は日本の大部分において無線LANに問題なく使えるのだが、これらのレーダーが発射される区域で使うと、レーダー波に干渉してしまう可能性がある

 そこで導入されたのがDFSという仕組みだ。アクセスポイントがレーダー波を検知すると自動的に通信を遮断し、干渉のない帯域(チャンネル)を検索し、チャンネルを切り替えて再度接続できるようになる……のだが、この一連の流れに1分ほど掛かる。その間、5GHz帯(厳密にはレーダー波と重複する部分)での通信はできなくなる。

 その点、6GHz帯で現状利用できる帯域は、干渉に特別の配慮をしなければならない用途に使われていないため、DFSによる通信中断なく快適な通信を行える。これだけでも、メリットは大きい。

例え バッファローでは、Wi-Fi 6Eの登場時にDFSを横断歩道に例えていた。横断歩道に人がいる場合、車両は一時停止しなくてはならない。人を「レーダ波」、車両を「データの流れ」と考えると、DFSの仕組みを理解しやすい。一方、横断歩道自体が存在しない現状の6GHz帯は、より快適な通信を期待できる

本機ならではのメリットも

 ここまで触れてきた通り、Wi-Fi 7対応ルーターたるWXR18000BE10Pは、主に以下のメリットを備えている。

  • MLOによる通信の高速/安定化
  • 320MHz幅チャンネルを使った通信の高速/安定化
  • 4096QAMによる近距離での高速化
  • 電波への干渉やDFSによる通信阻害の少ない6GHz帯での通信を利用可能

 また、本稿では割愛するが、1ユーザーあたりの周波数割り当てを細かく制御する「Multi-RU」という技術や、それを前提にした干渉波に対する「パンクチャリング」といったWi-Fi 7ならではの機能にも対応している。

 ……と、ここまでの機能は、他社のWi-Fi 7対応ルーターでも満たしているものは存在する。では、WXR18000BE10Pならではの特徴は、どこにあるのか。市川氏はこう語る。

 従来の当社製品と同様に、WXR18000BE10Pでは「ネット脅威ブロッカー2」を引き続き搭載しております。ルーターレベルで一定のセキュリティ水準を確保できるので、特にスマート家電やスマートTV、ゲーム機も安心して使えます。

 また、古いWi-Fiルーターの各種設定をスマートフォンアプリを介して引き継げる「スマート引っ越し」にも対応しています。ちなみに、本製品のリリースに合わせて、スマホアプリの名称は「StationRadar」から当社の無線LANルーターのブランドと同じ「AirStation」に変更されました。名前が変わっただけでなく、ルーターの初期設定もアプリから行えるようになり一層便利になりました。

アプリ バッファローの無線LANルーター用アプリは「StationRader」から「AirStation」に改称され、アイコンも変わった。旧アプリは「無線LANルーターの検索」「ルーターの設定画面への誘導(表示)」「ネット脅威ブロッカーの設定」が主な目的だったが、新アプリではWi-Fi 6/6E/7対応モデルでは「ルーターの初期設定」も行えるようになった

 成瀬氏は、ハードウェア面での配慮を説明した。

 本モデルは、温度や湿度への耐性にもこだわっています。具体的には≪室温は0〜40度まで、湿度は10〜85%までカバーしています。

 Wi-Fiアクセスポイント(ルーター)は、エアコンが効かないような部屋に置かれることもあります。比較的気温や湿度の高い環境でも、ファンレスで安定して動作する――ここは開発面で妥協できないポイントです。

 今後、Wi-Fiルーターはもちろん、PCやスマホに関してもWi-Fi 7対応製品が続々と市場に投入されるだろう。ぜひ本稿で解説したような仕様や機能のポイントを押さえて、各製品の特性をある程度理解した上でWi-Fi 7のメリットを享受してもらえれば幸いだ。

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