会話が禁じられた謎のメタバース空間「ぷらっとば〜す」なぜ炎上? 内閣府の孤独・孤立対策強化月間企画だが……(3/3 ページ)

» 2024年05月30日 12時00分 公開
[武者良太ITmedia]
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最終的に悪ノリネット民の遊び場となってしまった

 筆者は5月1日前後のプレスリリースをチェックしてはいましたが、自分ごとではないと感じてスルーしていました。あらためて古市憲寿さんの発言によって「ぷらっとば〜す」に興味を持った1人です。まずは実際に体験してみなければ判断はできないと感じて公式サイトにアクセスした瞬間、これは危うすぎるとがくぜんとしました。

photo え?

 ぷらっとば〜すは孤独・孤立対策強化月間を周知するためのコンテンツのはずです。しかし、サイトのタイトル名が「ぷらっとば〜す|孤独・孤立強化月間 特設メタバース」だったのです。肝心の“対策”の2文字が削られており「孤独・孤立を強化するためのメタバース」という、意味が逆転する名称となっていました(現在は修正済み)。

photo サイトのタイトル名が「ぷらっとば〜す|孤独・孤立強化月間 特設メタバース」になっていた

 本来ならば、コンテンツの入口、ランディングページとなる公式サイトの名称は念入りに校正・校閲するべきです。しかし「後から見る人がチェックするはず」「先に見た人が確認したはず」と“仕事猫”が集まった現場のように、校正・校閲が機能していない。これではサイト内の他のコンテンツや、ぷらっとば〜す内で記されているであろう文言に信頼を寄せることができません。

 気を取り直してぷらっとば〜すへのログイン作業を進めると、入場前の設定項目や入場後の作業の説明、BANされる条件があれもこれもとズラリ並んでいます。ログインをさせたくないのではと感じるほどです。

photo ズラリと並ぶ注意書き

 ログインしてからも、ワールド内に「ユーザー同士のコミュニケーション禁止」「静音モードのスイッチを設定」といった禁止事項が書かれたパネルが貼られまくっています。

photo ワールドの至る所に注意書き

 設定変更をしていないユーザーのアバターには「けいびのひと」アバターが寄っていって(1人のアバターに、2人の「けいびのひと」が付きまとい続けて)、設定変更のための案内をかたくなに見せつけてきます。頻繁に「設定を変更してください」といった音声アナウンスも流れます。

photo 「けいびのひと」アバターが寄ってくる

 これはひどい。そもそもメタバースの重要な定義の1つにコミュニケーションがあるのに初手から禁じてくるし、コミュニケーションをさせないための機能設定もユーザーに押し付けてきます。

 ぷらっとば〜すは企業内で、あるいはグループ間でのリモートワーク時に、自然なオンライン通話ができるという触れ込みのバーチャルオフィス「Gather」をベースとして作られたメタバースゆえに、コミュニケーション機能が前提として備わっています。しかし今回のようなケースにおいて、これらの機能をOFFにすることはできなかったのでしょうか。いったいどのような開発の経緯となったら、ここまでユーザーにストレスを与えられるコンテンツが作れるのでしょうか。

 そうこうしているうちに、ぷらっとば〜すのログインユーザー数は200人を超えました。数字だけを見れば盛況といえるでしょう。しかしテキストチャットはできなくてもユーザー名でコミュニケーションできることに気がついたユーザーが自由勝手な振る舞いを加速させていきます。

photo ネット特有のお祭りで大盛況に
photo 名前を変更して遊べることに気付いてしまった人たち

 2ちゃんねる時代の匿名掲示板のノリをご存じの方は、見た覚えがあるはず。これは「VIPから来ました」のノリそのものです。ネット民の悪ノリによって、行政が伝えたかったメッセージはほぼ見えない状態となりました。

余裕があるスケジュールならばこの事態を回避できたのでは

 どうすれば、このような事態を防ぐことができたのか。筆者なりに考察してみました。そこで見えてきたのが、制作期間が極めて短かったのではという点です。

 「孤独・孤立対策強化月間 企画 制作」などの文字列で検索すると、告知日が2024年1月15日、入札日が1月30日の公募と、告知日が2024年3月8日、入札日が3月26日の公募が見つかりました。

 どちらがぷらっとば〜すの制作に関わる公募かは判断できません。しかし5月1日に公開するコンテンツをプラットフォームごと制作するというのは無理難題すぎます。有り物のプラットフォームを使って実装するにしても、数カ月の制作期間を必要とするでしょう。

 しかも、例えば「チャット機能を使わせるとして、マルチビジネスをしているユーザーとか、未成年者につきまとうような怪しいユーザーがきたら、どうするんだ! 問題がおきたら責任はどう取るんだ!」の1点ですら、数回、数週間のミーティングを必要とするはず。

 メタバースの定義が完全に定まっているわけではなく、共通の理解を周知させる時間もありませんから、クライアントが説明した要件を満たすだけで精いっぱい。制作会社が顧客が本当に必要だったものを追求したいと考えていたとしても、時間が足りなかったのではと考えられます。

 つまり問題となるのは、2024年5月に孤独・孤立対策強化月間を実施すると決めた行政が早い段階で要件のイメージをまとめ、余裕を持ったスケジュールで入札告知をすることだったのではないでしょうか。またこういう公募を行うこと、その周知にコストをかけるべきだったのではないでしょうか。

photo 悪評のせいか、ぷらっとば〜すは5月30日時点で閉場されている
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