WWDC24で見えたAppleのもくろむ未来 “5+1”の視点で読み解くソフトウェア開発、新時代の幕開け(3/4 ページ)

» 2024年06月20日 12時30分 公開
[林信行ITmedia]

数億台ある同じ製品を自分だけの1台に変える「パーソナライゼーション」

 3つ目の「パーソナライゼーション」、これはiPhoneがずっと目指し続けてきた進化の方向性だ。見た目も機能も全く同じiPhoneという商品が年間2億台近くも製造されて売られているにもかかわらず、一度、オーナーを見つけたiPhoneはひと目見ただけで、他の誰のものでもない自分のiPhoneという個性を持つ。

 これを可能にしてきたのが、毎年少しずつ積み重ねられてきたさまざまな「パーソナライゼーション」の機能だろう。

 新しいiOS 18では、ホーム画面のパーソナライゼーションがさらに一歩進むことになる。現在は、せっかくお気に入りの壁紙写真を選んでも、その上をアプリのアイコンが覆い隠してしまっていた。iOS 18とiPadOS 18では、アイコンをもっと自由に配置できる。例えば壁紙の被写体を覆わないように背景部分の上だけにアイコンを並べるといった配置ができる。

 また、アプリのアイコンの色調を変えられるようにもなる。通常のアイコン表示も可能だが、新たに黒背景を基調にしたダークというアイコン表示のモードが加わり、さらにはアイコンの色彩を統一して同一色で描く表示モードが加わる。

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photo iOS 18、iPad OS 18では、ホーム画面がさらにカスタマイズできるようになる。壁紙の重要な部分を隠さないようにアイコンを表示する位置を微調整したり、アイコンをダークモードで表示したり、さらにはダークモードのアイコンの色調をそろえたりできる

 自分自身、ホーム画面でも自分の世界観を表現していきたいと思っているので、大変楽しみにしている機能だが、一方で標準のカラーピッカーで無限に近い選択肢から、ユーザーに好きな色を選ばせるという実装の仕方が少しAndroid的というか、これまでのAppleっぽくないなと感じる部分もあった。

 色選びにはセンスやスキルが問われる部分があり、スキルのない人が間違った色選びをすると、とんでもなく悪趣味なホーム画面にもなりかねない。これまでのAppleのデザインなら、壁紙から特徴色をピックアップして、相性の良い色を計算して「この3色の中からどうぞ」といった形で、ユーザーが間違った選択をしないための補助を行うもう少し親切な設計になっていたのではないかと思う。

photo iOS 18/iPadOS 18のホームアイコンの色のカスタマイズ操作は、画面下に表示されるカラーピッカーを使ってユーザーが無限に近い色の中から好みの色を選ぶ。これまでのAppleだったら、センスの良い色が選べるようにあらかじめ色の提案をしていたと思う。この辺りはAppleの開発体制が少し変わったのを感じた

 WWDCで発表された機能は、デベロッパーらの意見を受けてリリースされるまでに改善されることも多い。この機能の実装は個人的に是非とも改善して欲しいと思っている。

 さて、パーソナライゼーションと言えば、個性がさらに重視されるのがApple Watchだ。watchOS 11では、写真の文字盤が、最も見た目を自由にカスタマイズできる文字盤へと進化している。写真はあらかじめ指定したコレクションの中からOSが自動的に選んで表示する仕様だが、そこに重ね合わせ表示する時刻の文字種(アラビア数字以外も選べる)や色、レイアウト(表示位置)などをカスタマイズできる。

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photophoto Apple Watchでも「写真」文字盤で表示する数字の種類や色などがカスタマイズ可能になる。「写真」文字盤は、機械学習を使って何千枚もの写真を分析したあと、カスタムのアルゴリズムで最適な構図を見いだすことによって、ユーザーが最高の写真のオプションを選べるようサポートする。こちらはこれまでのAppleらしいアプローチで実装されている

 Apple Watchに触れたついでに、パーソナライゼーションの機能ではないが、健康機能の変化にも少しだけ触れよう。

 watchOS 11では新たに「バイタル」といういくつかの健康指標を標準状態と比較する機能が追加される。対象になっているのは心拍数/呼吸数/腕の温度/血中酸素濃度、そして睡眠時間などだ。まずwatchOS 11を使い始めて4週間はひたすら記録を取り続けて、利用者にとっての標準的な状態を探り出す。

 その後、これらの健康情報を参照すると「標準状態」の範囲に収まっているか否かを確認できる。少し似た機能として既に搭載されているトレンドという機能がある。これは歩くペースや歩幅など自分の運動能力などに変化がみられた際に、その変化を教えてくれる機能だが、バイタルはバイタルサインが標準状態か否かを判断する機能で少し異なる。

私たちの生活を脅かす詐欺行為に備えるプライバシー保護とセキュリティ強化

 健康情報などパーソナルな情報を扱う以上、Appleはこれまで以上にプライバシー保護に慎重で、Apple Intelligenceも「プライバシー保護」に最も重点を置いた設計になっている。では、それら以外の機能に関するセキュリティ機能はどう変わったのだろうか。

 最も重要な変化は、iOSなどの「プライバシー設定」のパネルのデザイン変更だろう。さまざまなアプリに対して、どれだけのプライバシー情報が共有されているか、より見やすく確認できるようになる。

photo プライバシー設定のパネルが再デザインされ、どのアプリにどんなことが許可されているかなどが把握しやすくなった

 人に見られたくないアプリを隠す機能も用意された。隠す用のフォルダーに入れておくと、認証するまでそもそもそのフォルダーにアプリがあるかどうかも分からないという仕組みになっている。

photo 使っていることを人に知られたくないアプリを隠す機能が用意された。隠したいアプリは、専用のフォルダーに移される。このフォルダーは通常は空っぽであるように表示され、ユーザーが許可したときにだけ中身が表示される

 またFaceTimeやZoomによるビデオ会議で画面共有をする際に相手に何が見えているかを確認しやすくすることで、見られたくない情報が相手に見えてしまうことを防ぐ工夫も加わっている。

 アプリによっては情報を他のユーザーと共有できるように「連絡先」へのアクセス許可を求めてくるものがある。これまでは許可するか否かしか選択肢がなかったが、iOS 18からは、まずは必要最低限の少人数のグループの連絡先だけを共有しておき、必要に応じて連絡先情報を追加していくという設定が可能になる。

 ほとんどのユーザーは気が付かないかもしれないが、iPhoneなどに周辺機器をペアリングする際、その機器から他のどんなBluetooth機器を使っているかをのぞき見できないようにする工夫なども加えられた。日々使っているBluetoothデバイスをのぞき見することで、名前など個人が特定できてしまう場合があるからだ。

photo 周辺機器を接続する際に、必要以上の情報を渡さないようにいろいろと改良が加えられる

 セキュリティ関連では、パスワード管理の機能「Passwords」が追加された。さまざまなサービスの登録に使ったパスワードを記憶し、自動入力してくれる機能だ。クラウドに同期しておいて、同じApple IDでログインすれば、iPhone/iPad/Mac/Apple Vision Proだけでなく、なんとWindows OSでもパスワードが同期(iCloud for Windowsアプリを利用)される。

 そのためキーボードからパスワードを入力する手間が無くなり、パスワードをのぞき見される危険性もなくなる(その分、Apple IDが盗まれると大変なことになるが、そこは不審なログインを検知すると、他の機器からの承認を求める現在の設計が有効だという前提に基づいている)。

photo ユーザーがさまざまなサービスで利用しているパスワードを記憶して、ユーザーに変わって入力してくれる機能「Password」。Windowsにも対応したので、複雑なパスワードをメモなどに転記する作業がなくなる

 個人的に効果を期待しているのはメールアプリの新機能で、航空会社や宅配業者などから送られてきたメールを表示する際、その上に会社のロゴなどを大きく表示して、どこからのメールかの視認性を高める機能が加わっている。最近多いフィッシングメールは、こうした企業や業者を偽っていることが多い。

 もし、この機能がそうした悪質なメールと本物のメールをちゃんと区別してくれるなら、詐欺撲滅の大きな一助になるので大いに期待を寄せている。もし、最初の仕様がそれほどちゃんと送信者を確認していなくても、今後、電子署名を使ってしっかり送信者確認をすれば、かなり画期的と言えるのではないだろうか。

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photo 配送会社や航空会社などから送られてきたメールには特別な装飾が行われる。このため詐欺メールとすぐ見分けがつく

 そういう手間のかかる仕事こそ、Appleのような巨大企業にしかできないことだ。是非とも、そういった方向性の機能としてブラッシュアップしてもらいたい(できればSMSにも同様の機能を提供して欲しい)。

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