WWDC24で見えたAppleのもくろむ未来 “5+1”の視点で読み解くソフトウェア開発、新時代の幕開け(4/4 ページ)

» 2024年06月20日 12時30分 公開
[林信行ITmedia]
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異なる機器を1つにつなげる「OS間連携」

 さて、最後に「OS間連携」の機能をいくつか紹介したい。異なるデバイスを使っていても、クラウドを通してちゃんとデータが共有される。これは既に他の機器でも当たり前の現代の常識だ。しかし、Appleはこれに加えて機器間での操作などの連携に非常に大きな力を注いできた。

 ハードもソフトもクラウドサービスも全て1社で作っているからこそできる高度な連携は、今やApple製品の大きな強みとなっているが、WWDC24では、この連携が今後、さらに進むことを示していた。

 最も驚いたのが、Macの画面上で自分のiPhoneを操作できるようにする機能だ。これまでもiPhoneの画面をMac上にミラーリングすることはできた。しかし、新機能はそれとは異なる。例えば、自分のiPhoneが隣の部屋でロック画面の状態で充電中でも、Mac画面上にそのiPhoneと全く同じデータが入った、バーチャルなiPhoneが再現され、これをマウスとキーボードで操作したり、Mac上の写真や動画、その他のファイルをドラッグ&ドロップ操作でiPhoneに転送したり、iPhoneに届いた通知をMac上で受け取ったりが可能になる。

 確かにPCの使用中は、iPhoneはどこかで充電中ということが多く、それでもちょっとだけiPhone上の情報を利用したいという場面は多いので、使うことが多い機能になるかもしれない。

photo 近くにある自分のiPhoneをMac上で再現して操作できるようになった
photo 実際のiPhoneはロックしたままの状態でも、この機能を使ってiPhone上の情報を参照したり、Macからデータをドラッグ&ドロップ操作で転送したりできる
photo iPhoneに届いた通知をMacで受信できるようになる。PCを使っているときはiPhoneをカバンやジャケットに入れっぱなしにしていたり、別の部屋で充電したままになっているのはApple従業員も同じようで、ニーズに対して大変共感できる機能だ。ただし悪用されると危険なので、Appleにはこれまで以上にセキュリティに目を光らせてもらいたい

 OS間連携と言えば、Apple Vision ProにもMacに視線を送ると、画面が空中に飛び出して4Kの大画面化するバーチャルディスプレイという機能が用意されている。この機能もvisionOS 2で強化され、4Kディスプレイを2つ横に並べたバーチャルな大画面パノラマ型ディスプレイで利用できるようになる。視界いっぱいに広がる(バーチャルの)大画面で操作する感じは、まさに「空間コンピューティング」といった印象でこちらも早く試してみたい機能だ。

photo visionOS 2では、Macの画面を4Kディスプレイとして横に2つ並べた巨大なバーチャルディスプレイに投影できる。まさに空間コンピューティングを感じさせる環境で早く試してみたい機能の1つだ

 特にOS間というわけではないが、自分の画面を他のApple製品に共有する「画面共有」にも新機能が加わった。共有してもらった画面の上に手描きできるようになった。「ここをクリックして」などと操作方法を教えるのに役立ちそうだ。また、それでも操作方法が分からない場合、相手の許可をもらって遠隔操作をすることも可能になる。

WWDC24以降、ソフトウェア開発は新しい時代に突入した

 かなり抑えめに書いてきたつもりだが、それでもこんなに長くなってしまった。しかし、これでもまだ氷山の一角で、他にもSafariやマップ、ホームオートメーション関係などの新機能も多い。

 iOS 18/iPadOS 18/watchOS 11/visionOS 2の公式ページ(英語)や、tvOS 18のプレスリリースも是非参照して欲しい。

 しかし、そこに書いてあるのはいずれも表層的に分かる機能だけだ。OSとAIの統合が進んだ今回のWWDCで、「App Intent」という技術が重要さを増したと筆者は思っている。これは今日のPCやスマートフォン活用の基本となっている「アプリ」という概念からの脱却の第一歩となるのではないかと思っている。

 App Intentの「Intent」は日本語で言うと「意図」となる。アプリというものは、例えば「画像を明るくする」「暗くする」「白黒にする」「塗りつぶす」「文字を挿入する」など、たくさんの意図を持つ機能の集合体になっている。

 これからのApple製品向けのアプリ開発では、開発時にこうした個々の機能を開放することが推奨される。これによって将来、Apple IntelligenceなどのAI機能が「今、表示されている写真を白黒にして」と言ったユーザーの指示を解釈して、そのApp Intentに処理を振り分けることができるからだ。

 現在、他社が開発しているAI統合型OSの設計は自社が後押しするAIに全てを頼って、何でもかんでもそのAIに理解させ、処理をさせようというアプローチになっている。

 これに対してApple Intelligenceは、“餅は餅屋”で、うまく他のAIやアプリに仕事を振り分けながらさばいていく設計を採る。

 Apple製品に用意された多彩なアプリの膨大なIntent全体を理解して、ユーザーからSiriなどを通して要求がくると、その内容を理解すると「分かりました。その仕事ならこいつに任せましょう」とその処理を職人的アプリに割り振って処理する。そして「アプリがこんな風に仕上げてきました。いかがでしょう?」と結果を返してくれる設計になっている。

 これが他社のAI統合型OSとの決定的な差だ。この未来のビジョンが完成した時、開発者が提供する機能は、どのようなビジネスモデルで流通するかなど、未知の部分は多いが、先見性のある開発者たちは、このWWDC24以降、自らのAI時代に向けた開発へと一歩を踏み出すことになる。

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