セミナーの第2部は、授業における「VR(仮想現実)教材」や「次世代パソコン教室」の活用事例報告と、セミナー参加者による“実体験”が主な内容だった。
VR教材の授業への活用については、大阪教育大学の中野淳客員教授が「VR教材で実現する主体的・対話的で深い学び」と題して、VR教材の体験時間を交えつつ講演を行った。
中野氏は「VRというと、(教材を)作るのが大変だと思われるかもしれないが、VR撮影用の360度カメラを使えば、映像の撮影は簡単にできる。撮影した映像は、専用のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)だけでなく、(児童/生徒が使う)学習用端末でも自由に見ることができる」と語る。
とはいえ、実際に体験しないとVR教材のメリットは分かりづらい。そこでセミナーの参加者を幾つかのグループに分けて、HMDやタブレット端末を使って「オーケストラのVR映像」を視聴することになった。
このVR映像については、大阪府豊中市立第七中学校の内兼久秀美教諭が利用に至った経緯や効果を説明した。
小中学校における音楽科の授業は、音楽的な見方や考え方を働かせ、生活や社会の中にある“音や音楽”と豊かに関わる資質や能力の育成することが目的とされている。その一環として行われるのが「音楽鑑賞」だ。
従来、音楽鑑賞ではDVDに収録された映像などを用いることが多かった。しかし、内兼久氏は「2Dの映像では、オーケストラのように数多くの楽器が一斉に演奏される楽曲では、いろんな音が同時にたくさん聞こえてくる。しかし、画角が(映像の)編集者の意図によって決まっているので、生徒たちが『この楽器はどんな音色をしているんだろう?』とか『この楽器はどんなメロディーを奏でているんだろう?』といった“気付き”を得ることが難しい」と課題を指摘する。
その点、VR映像は360度見渡すことが可能で、生徒(や児童)が学習用端末で見たいと思った視点に切り替えながら見ることもできる。確かに、内兼久氏の指摘する課題を解決する手段として有用だ。
音楽鑑賞にVR映像を活用する――この取り組みは、内兼久氏が前任校である大阪教育大学付属池田中学校に在籍していた頃に実施された。
同中学校では、中学3年の音楽の授業でVR映像による「ブルタバ(モルダウ)」の鑑賞を行った。ブルタバはチェコ出身の作曲家スメタナの代表曲の1つで、鑑賞の目標は「曲想や音楽の雰囲気と、音楽の構造がどのように関わっているのかということを理解すること」だ。
この曲は、チェコを流れるブルタバ川(モルダウ川)の様子が全編を通して描かれる。「この部分はこんな川の様子かな、水量はこれぐらいで、川の太さはこれぐらいというのが、音楽を聞くだけで想像できるような楽曲」(内兼久氏)……なのだが、学習用端末で個別に鑑賞すると音が混ざり合ってしまうので、イヤフォンを装着した上で、鑑賞してもらったという。
生徒に気付いたことを「ワークシート」へと記入してしてもらったところ、ハープに注目した生徒がいたという。通常の2D映像と音の組み合わせだと「『ハープ、演奏してたかな?』と思うような、すごく弱い音色」(内兼久氏)にもかかわらず、だ。
存在感が薄いはずのハープの音色に、なぜ気が付けたのか――それはVR映像でハープの奏者を“見つけられた”からだ。
生徒たちは、視点を変えつつVR映像を見回す。するとハープ奏者がいて、手を動かしていることに“見て”気が付く。すると、奏者が手を動かしている前後の映像を繰り返し再生し、最終的にハープの音を特定できたようだ。
内兼久氏の言う通り、これは「VR映像でないと、なかなか気付くことができない」。
上記の授業で使われたブルタバのVR映像は、4台の360度カメラと、全体を映す1台の2Dカメラによって撮影された。スライドにもある通り、授業の目標を達せられるようにカメラの位置を工夫したという。配信アプリケーションは「Blinky」を、VRゴーグルは「PICO G2」を使っている内兼久氏によると、この鑑賞を通して「言葉で表さなくても、音楽を通じて自分の思いを相手に伝えることができる」「音楽はコミュニケーションの(手段の)1つではないか」といった感想を寄せた生徒が複数いたという。また、先のハープの“発見”にもあるように、楽器の音色に対する理解も深められたという。「自分で見つけたということは、人に伝えられるようにもなる」という観点から、VR映像は音楽文化の深化に資するものにもなりそうだ。
自ら進んで楽器の音色を見つけて共同的に学ぶ姿、そして気付きから生まれた新たな疑問を自ら探求する姿勢――VR映像による音楽鑑賞は、一定の効能があったようだ。
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