Zen 5アーキテクチャのCPUコアについて、もう少し詳しく見ていこう。
フロントエンド部では、命令発行部がZen 4の6基から8基に拡張された。また、分岐予測器も劇的にパワーアップ。分岐予測精度を改善した上で、分岐予測が失敗した際の「パイプラインストール」を最小限に留めることに成功している。
最近のCPUのトレンドになるつつある「順不同命令実行(アウトオブオーダー)」については、並べ替えられる命令数をZen 4の最大320命令から最大448命令に拡大された。言い換えると、アウトオブオーダーのカバー範囲が1.4倍に拡大している。命令実行部を見てみると、整数命令や浮動小数点命令の実行ユニットをシンプルに“増量”することでパワーアップしている。
SIMD命令の実行部に関しては、「AVX-512」命令にネイティブ対応を果たした。具体的には、レジスタ用のデータバスを256bitから512bitへと拡張したことで、512bitレジスタに対して1クロックでアクセスできるようになり、結果としてAVX-512命令の実行効率が改善している。キャッシュメモリへのアクセスアルゴリズムも改良している。
上記の取り組みの結果、既に相当に優秀だったZen 4のIPC(1サイクル当たりの命令数)が、Zen 5では平均16%も改善したという。
Ryzen 9000シリーズのリリースと合わせて登場するAMD 800シリーズチップセットだが、CPUと同時に発表されたハイエンド向け「AMD X870E(Extreme)」「AMD X870」に加えて、エントリークラスの製品として「AMD B850」と「AMD B840」が登場する。
600シリーズの次なので、順当に行けば「AMD 700シリーズ」になるところ、今回は800シリーズとなっている。その理由について、AMDから特に説明がないが、一説によるとIntelが2024年後半にリリースするとされているデスクトップPC向けの「Core Ultraプロセッサ」(開発コード名:Arrow Lake)のチップセットが「Intel 800シリーズ」になることを“意識”したマーケティング戦略だと言われている。
ハイエンド向けのX870E/X870は、GPUとNVMe SSDの接続の両方にPCI Express 5.0バスを利用できることが特徴だ。また、両チップセットを搭載するマザーボードではUSB4ポートの搭載が必須(Mandatory)となる。加えて、オーバークロック機能はCPUとメモリの両方にフル対応可能だ(詳細は後述)。
……と、これだけ見ると、X870EとX870の違いが分からないが、実はチップセット経由で提供されるPCI Express 4.0バスのレーン数が異なる。X870Eは20レーン用意されているのに対して、X870では12レーンにとどまる。「グラフィックスカード(GPU)を2基以上搭載したい」「NVMe SSDをたくさん使いたい」という人にはX870Eをお勧めするが、ゲーミングを含む一般用途ではX870でも十分だ。
メインストリーム向けの上位モデルであるB850では、原則としてグラフィックスカードをPCI Express 4.0 x16で接続する。ただし、NVMe SSDの接続数を妥協(削減)すれば、PCI Express 5.0 x16接続に変更可能で、そのような仕様のマザーボードも出てくるようだ。USBポートは、最大でUSB 3.2 Gen 2x2(USB 20Gbps)となる。オーバークロック機能は、CPUとメモリの両方にフル対応可能だ。
一方、メインストリーム向けの下位モデルとなるB840は、グラフィックスカードがPCI Express 3.0 x16接続となる。USBバスもUSB 3.2 Gen 2(USB 10Gbps)までとなる。オーバークロック機能はメモリに対してのみ対応する。あえていうなら、B840は「Socket AM5対応CPUをとりあえず動かすためのチップセット」で、ゲーミングPCやクリエイター向けPCには向かない。
先述の通り、Ryzen 7000シリーズに合わせて登場したAMD 600シリーズチップセットは、Ryzen 9000シリーズでも問題なく対応している。ただし、言うまでもないが、マザーボードの出荷時期によってはUEFI(BIOS)の更新が必要だ。マザーボードによっては、UEFIの更新に“古い”Ryzen 7000シリーズを用意する必要があるかもしれないので注意したい。これから購入するのであれば、Ryzen 9000シリーズに対応済みのマザーボードを選ぶと良さそうだ(参考記事)。
なお、AMD 800シリーズチップセットは「順次提供」とのことで、最初は搭載マザーボードがそれほど潤沢でなさそうなニュアンスだ。当面は、AMD 600シリーズを搭載するマザーボードが主流となるだろう。ただし、Ryzen 9000シリーズの新しいオーバークロック機能は800シリーズでのみ利用できるとのことなので、Ryzen 9000シリーズは800シリーズチップセットを搭載するマザーボードと同時購入したい。
Ryzen 9000シリーズと、B840を除くAMD 800シリーズチップセットを搭載するマザーボードを組み合わせると、新しいオーバークロック機能「Curve Shaper(カーブシェイパー)」を利用できる。
その名を聞いて、過去のRyzenシリーズにもあったオーバークロック機能「Curve Optimizer(カーブオプティマイザー)」を思い出す人もいると思う。端的にいうと、Curve Shaperは、Curve Optimizerの設定をよりきめ細かくできるようにしたものだ。
Curve Optimizerでは「電圧」と「動作クロック」の組み合わせを設定できる。Curve Shaperでは、その設定値を土台とした上で「温度ポイント」3点と「周波数ポイント」5点の計15ポイントにおいて電圧の微調整を行える。例えば「安定している領域は電圧そのまま」「不安定な領域は電圧アップ」といった設定が可能だ。
説明からも分かる通り、Curve ShaperはCurve Optimizerと同様に上級者向け機能であることに変わりはない。
Zen 5アーキテクチャは、モバイル向けAPU(GPU統合型CPU)であるRyzen AI 300シリーズでも採用されている。
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