AMDは6月3日(台湾時間)、モバイル向け新型APU(GPU統合型CPU)「Ryzen AI 300シリーズ」を発表した。本APUを搭載するノートPCは、7月から順次発売される予定だ。
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「Ryzen 8040シリーズ 」が登場してから半年程度で登場するRyzen AI 300シリーズは、CPUコア、GPUコア、NPUコアの全てを刷新している(詳細は後述)
Ryzen AI 300シリーズのチップイメージ
Ryzen AI 300シリーズは、AMDが「Copilot+ PC 向けの最良のプロセッサ」とうたう通り、高性能NPUを統合した新型のモバイル向けAPU だ。「Strix Point」という開発コード名で開発が進められていたことでも知られる。
先代の「Ryzen 8040シリーズ 」、さらに先代の「Ryzen 7040シリーズ 」にNPUレスモデルがあり、競合のIntelからそのことを突かれたことを受けてか(参考記事 )、今後のNPU付きAPUは「Ryzen AI」のブランドで販売していくようだ(モデル名のルールは後述する)。
CPUコアは、最新の「Zen 5アーキテクチャ 」となる。AMDの説明によると最大12コア24スレッド構成(従来比で4基8スレッド増) となるそうで、従来のモバイル向けAPUよりも多くのCPUコアを備えている。同アーキテクチャの主な改良点は以下の通りだ。
分岐予測の正確性/レイテンシー(遅延)の改善
パイプラインとベクターの拡大による処理スループット(実効速度)の高速化
CPUウィンドウサイズの拡大で、より多くの並行処理を可能に
GPUコアは、現行のRDNA 3アーキテクチャを改良した「RDNA 3.5アーキテクチャ 」となる。現状で分かっている情報は演算ユニット(CU)が最大16基となった(従来比で4基増) ということだけで、他に「0.5」分のアップデートがあるのかは明らかとなっていない。
一番の改良点となるNPUは「XDNA 2アーキテクチャ 」のものに刷新される。Ryzen 7040/8040シリーズで使っていた「XDNAアーキテクチャ」のNPUと比べると、演算能力は最大5倍、電力効率は最大2倍改善されている。ピーク時の処理パフォーマンスは50TOPS(1秒当たり50兆回)で、Microsoftが定めた「新しいAI PC (Copilot+ PC)」の要件を満たす。
Ryzen AI 300シリーズでは、CPU/GPU/NPU全てのコアが刷新されている
Ryzen AI 300シリーズのNPUコアは新しい「XDNA 2アーキテクチャ」ベースで開発されている
8bit演算時のAI処理のピークパフォーマンスにおいて、最強と言われていたQualcommの「Snapdragon Xシリーズ 」比でも優位に立っている。ただし、これはあくまでも各社の公称ピーク性能なので、実際の性能は環境によって左右される
Ryzen AI 300シリーズのNPUは、世界で初めてブロックFP16(半精度浮動小数点数)演算に対応している。これにより、演算におけるパフォーマンスと精度の両立がしやすくなったという
オンデバイスでLLM(大規模言語モデル)を処理した際に、最初のトークンを返すまでの速度を比較すると、Intel Core Ultra 7 155HのNPU比で最大5倍高速だという
「AI PCの時代に相応しいモデル名の付け方にする」ために、Ryzen AI 300シリーズは従来のモバイル向けRyzen APU/CPU と異なるモデル名規則 が適用される。
例えば、今回発表される最上位モデル「Ryzen AI 9 HX 370 」の場合、モデル名の意味は以下の通りとなる。
9 HX :ブランドレベル
数字は従来通り「3」「5」「7」「9」(高いほど高性能)
アルファベットはサフィックス(従来はプロセッサ番号の後ろにあった)
370 :プロセッサ番号
百の位(3):シリーズ名(今回であればRyzen AI 300シリーズであることを示す)
十の位と一の位:モデル(SKU)を特定する番号
特徴としては、サフィックスを「プロセッサ番号の後ろ」から「ブランドレベルの数字の後ろ」に移動したことが挙げられる。
Ryzen AI 300シリーズでは、新しいモデル名のルールが適用される。Ryzen AI 300シリーズは、Ryzen 7040シリーズを「第1世代」とした場合に「第3世代」となるため、いきなり「300」という数字が割り当てられたようだ
Ryzen AIのロゴバッジは、Ryzen 8040シリーズから採用されたデザインを踏襲している。APUを搭載している場合は、画像のようにRadeon Graphicsロゴがセットになったバッジも利用できる
現時点において、Ryzen AI 300シリーズは以下の2モデルのみ用意されている。
Ryzen AI 7 365
CPUコア:10コア20スレッド(2GHz〜5GHz)
GPUコア:Radeon 880M(12CU)
L2+L3キャッシュ:合計34MB
TDP(熱設計電力):28W(設計上は15〜54Wまで調整可)
Ryzen AI 9 HX 370
CPUコア:12コア24スレッド(2GHz〜5.1GHz)
GPUコア:Radeon 890M(16CU)
L2+L3キャッシュ:合計36MB
TDP(熱設計電力):28W(設計上は15〜54Wまで調整可)
Ryzen AI 300シリーズのラインアップ
ArmアーキテクチャベースのCPUである「Snapdragon X Elite」では、世に多く出回っているx86(x64)アプリをエミュレーションで動かさなければならない。そのこともあってか、AMDはRyzen AI 300シリーズを「エミュレーション抜きで快適なCopilot+ PCですよ」という感じでアピールしていく作戦なのだと思われる
その矛先(?)はApple M3チップ搭載のMacBook Airにも向いており、Ryzen AI 9 HX 370は「超薄型/軽量のノートPCにおいてベストな生産性とコンテンツ制作パフォーマンスを発揮」としている
当然だが、Ryzen AI 9 HX 370との比較対象には一番の競合「Core Ultra 9 185H」も含まれる。特に負荷の重い作業では、Ryzen AI 9 HX 370の性能は高いことを主張している
Core Ultra 9 185Hとは、ゲーミングにおける比較も行われている。「平均フレームレートを重視するなら、やはりRyzen」というアピールでもある
Ryzen AI 300シリーズを搭載するノートPCは、7月から主要なメーカーから順次発売される
ASUSTeK Computer(ASUS)からは5モデルが登場する
MSIからは3モデルが登場する
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