ここからは、Arc B580の実力を先代のArc A580と比べていこう。冒頭にもある通り、Arc B580はIntel Arc B580 Limited Editionで、Arc A580はASRock Arc A580 Challenger 8GB OCを使って比較していく。
使うPCは、以前レビューした「Intel NUC 13 Extreme Kit」のCore i9-13900K(Pコア8基16スレッド+Eコア16基16スレッド)モデルで、UEFI(BIOS)とOS(Windows 11 Pro)は最新バージョンにアップデートしている。メモリは64GB(32GB×2/DDR5)、ストレージは1TBのSSDだ。
グラフィックスドライバは、Arc B580がテスト版の「バージョン6252」、Arc A580が最新の「6319」となる。Arc A580については、カードのファームウェアも最新版としている。
Intel NUC 13 Extreme KitのCore i9-13900Kモデル(NUC13RNGi9)は、今でも検証用PCとして活躍している。サポートはASUSTeK Computer(ASUS)に引き継がれ、新しいドライバやUEFIも提供され続けているまず、3Dグラフィックスの能力を試すべく、ULの「3DMark」における主要なテストを実施した。総合スコアは以下の通りだ。
テストにもよるが、Arc A580比で約1.3〜1.6倍のスコアを記録している。環境が異なるため単純比較は難しいが、過去にITmedia PC USERで行ったもの、あるいはULのWebサイトで確認できる「GeForce RTX 4060」のテスト結果と同等か、それを上回るスコアは確保できている。
Intelが自称する「GeForce RTX 4060を上回る」といううたい文句は、大げさではない。
続けて、実際のゲームをベースとするベンチマークテストを代表して「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(FF15ベンチマーク)」を試してみた。各解像度におけるスコアは以下の通りだ。
以前のテストと比べるとArc A580のスコアが向上していることに、ドライバの“熟成”を感じるところなのだが、それ以上にArc B580のスコアは向上している。やはり物理的な改善は重要ということを物語っている。
続けて、ULの総合ベンチマークテストソリューション「UL Procyon」を使って、GPUベースのAI(人工知能)処理に関するテストを行う。
まず、画像認識のパフォーマンスを試す「AI Computer Vision」テストを実施した。本テストでは演算精度を3種類(Intenger/Float16/Float32)から、利用するAPIをWindows版では4種類(Direct ML/TensorRT/OpenVINO/SNPE)から選択できるが、今回は全ての演算精度をWindows MLとOpenVINOを使ってテストを行った。スコアは以下の通りだ。
当たり前かもしれないが、APIベースで比べると事実上ネイティブ動作となるOpenVINOの方がスコアが良い。GPUベースで比べると、Direct MLにおける整数演算を除いてB580の方が良好だ。行列演算に対するパフォーマンス向上策が奏功していることがうかがえる。
続けて、Procyonに内包されている画像生成AIのパフォーマンステスト「AI Photo Generation」を試してみた。このテストでは生成AIモデルとして「Stable Diffusion」を使っており、今回はOpenVINO APIによる軽負荷の「INT8」テストと、中負荷の「FP16」テストを実施した。スコアは以下の通りだ。
スコアだけを見ると、約1.8〜1.9倍のパフォーマンス差がある。Intelは「グラフィックスメモリの多さは、より大きなAIモデルの実行時に効果がある」としていたが、そのことがうかがえるスコアだ。
最後に、メディアエンジンの性能を試すべくProcyonに内包された動画編集テスト「Video Editing」を実行してみた。本テストは「Adobe Premiere Pro」を使って動画の作成に掛かった時間からスコアを算出するのだが、今回はGPUアクセラレーションを“オン”にした上で、スコアではなく処理にかかった時間を比べてみよう。結果は以下の通りだ(★印が付いているものはGPUアクセラレーション有効)。
重量パターンにおけるGPUアクセラレーションの効果は大きく、CPUに処理を代替させた場合の時間と比べるとフルHD時は2割程度、4K時で3%程度の時間で終わる。これはArc B580でもA580でも同様の傾向なので、解像度が高い動画を書き出す機会の多い人にはどちらもお勧めだ。
しかし、今回のテストではいずれも先代のArc A580の方が書き出しが短い時間で終わった。Premiere Proか、グラフィックスドライバのいずれかがまだこなれていないのだろうか。今までのテストはArc B580が優位だったので、ちょっと驚いた。この点は、リリースされてからしばらく経過した後に改めてテストしてみたい。
IntelはArc B580の「ワッパの良さ」を強くアピールしている。実際のところどうなのか、システム全体の消費電力を比較してみようと思う。
今回は先のベンチマークテストで使ったシステムで「アイドル状態」の時の最小消費電力と、3DMarkのTime Spy Extremeを実行している際の最大電力をワットチェッカーで計測した。結果は以下の通りだ。
着実に消費電力は削減されていた。パフォーマンスが約3割増しである一方、ピーク時の消費電力を17%削減できるのであれば、結構割に合うような気もする。
Intel Arc B580 Limited Editionを通してIntel Arc B580 Graphicsの実力をチェックしてきたが、率直にいうと思ったよりできが良い。先代のIntel Arc A580 Graphicsで課題だった点を着実に改善し、WQHD解像度程度のゲームであれば十分に楽しめる性能を備えている。日本では5万円前後の値付けが想定されているが、もう少しこなれた価格になれば人気が出そうだ。
今回は都合からXeSS 2を試す時間を十分に確保できなかったが、動画のエンコード回りの検証も含めて、機会を改めて確かめていきたい。
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