しかし、M3 Ultraチップには他にはない特別な強みがある。それが最大512GBという膨大なユニファイドメモリの搭載だ。
この巨大メモリが本当に意味を持つのは、ローカルでの大規模言語モデル(LLM)の運用をはじめとする、大規模モデルをフル活用する場面である。
近年はパラメータ数を効率的に削減しつつ高性能を維持した「Llama 3.3」などのLLMが登場し、これらを8bit量子化で利用することで128GBでも動作させることは可能だ。
Llama 3.3の700億パラメータモデルは8bit量子化で75GBのサイズだ。しかし、ご存じの通り世の中にはさまざまなモデルがあり、用途ごとに特化したAIモデルもあり、また場合によってはカスタム学習させた独自のAIモデルを有しているケースもあるかもしれない。
メモリに余裕があるならば、長大な文章を把握できるコンテキストウィンドウの広さを求めたり、マルチモーダルのRAGによる処理、あるいはWhisperなどを用いてリアルタイムに文字起こしをさせながら、その内容を分析させ続けるといったアプリケーション構築なども視野に入る。
また、実際にLM Studioを使ってみると分かるが、高品質な推論結果を得るには量子化は8ビット程度までに抑えたい場面が多い。
“単に動く”だけではなく「ローカルLLMと実務アプリの並行利用」を行いたいのであれば、メモリはいくらあっても無駄ではないことも事実だ。
もっとも、これまではそうした新しいワークフローが頭をよぎったとしても、実際に構築することは難しかった。しかし、M3 Ultraなら高コストではあるが可能だ。
例えば「Cinema 4D」を使った制作シーンを想定すると、PythonスクリプトをローカルLLMに自然言語で依頼することで、デザインの繰り返し作業や複雑な処理を自動化することができる。
「半径10cmの球体を100個ランダム配置し、それぞれ異なる色を割り当てる」といった具体的な作業指示も、スクリプト生成によって即座に実現可能だ。クリエイターは単調な作業から解放され、純粋に創造的な部分に注力できる。
当然ながら、本来のクリエーションツールであるCinema 4Dで扱う3Dモデルの規模は落としたくない。となれば、LLMを手元で走らせながら大容量の3Dデータを同時に扱う必要が出てくるだろう。レンダリングエンジンと並列でLLMを走らせ、細かく“撮影アングルを自然言語で指示する”といった複合タスクを実現するには、やはり512GBの大量メモリが頼もしい。
もちろん、ソフトウェア開発用途でもM3 Ultraチップの大容量メモリを生かした新たなワークフローが広がる。Xcodeを用いた大規模プロジェクトでは、コードリファクタリングやバグ修正提案をリアルタイムにローカルLLMに任せ、効率的な開発環境を構築できる。
LM StudioはOpenAI APIとの互換性も備えているので、Visual Studioと接続して活用するのもいいかもしれない。
もちろん、クラウドの方がパフォーマンスは良いだろうが、ローカルのマシンにあらかじめプロジェクト全体のコードやシステム構成などを学習させたり、特定のライブラリ仕様を使わせるなどのカスタム化はやりやすいだろう。
ただし、メモリ容量は大きくとも、GPUパフォーマンスはM3チップ世代の80コアであり、規模が大きくなりすぎるとトークンの出力速度に不満が出るかもしれない。
あるいは仮想マシンを多数、同時に展開して複数のマシンが連携する大規模プロジェクトをメモリ上に展開してテストするなどの使い方もできるだろう。
ソフトウェア開発、クリエイティブ領域での自動化や日常ビジネスのAI支援まで、ローカルにLLMを展開して併用するワークフローに関しては、まだ始まったばかりで、洗練されているとはいえない。
今後、さらに洗練された使い方や異なるアプリケーション間での連携が行える可能性もあるが、まだこうした使い方の提案は始まったばかりだ。
価格を考慮すれば手が届かないと嘆く声もあるだろうが、M3 Ultraチップの512GB構成が示すのは単なるスペック競争ではなく、ローカルLLM活用という選択肢が示す可能性といえるだろう。
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