2022年に登場した新しいデスクトップMac「Mac Studio」は、同時に発売された「Studio Display」と共に新しいデスクトップコンピュータの形を提案した。
2022年の復習になるが、Studio Displayには「A13 Bionicチップ」が内蔵されている。その信号処理能力により、一体型の「iMac」が提供してきた空間オーディオ対応の高音質スピーカーや1080p(1920×1080ピクセル)撮影に対応する高画質カメラ、照明に応じて色温度やトーンカーブを自動調整する「TrueTone」といった付加価値を享受できる。
Mac StudioとStudio DisplayにTouch ID(指紋センサー)内蔵の「Magic Keyboard」を組み合わせれば、使い勝手や機能は「MacBook Pro」相当となり、モジュール型デスクトップコンピュータの柔軟性とパワフルさを教授しつつ、オールインワンのノートブックコンピュータ並みの統合された体験を得ることができる。
これらのうち、Mac StudioがSoCを「M2 Maxチップ」または新登場の「M2 Ultraチップ」に変更してモデルチェンジを果たした。最小構成のApple Store価格は29万8800円(税込み、以下同)となる。
今回、筆者は新型Mac Studioの「M2 Ultraチップ(72コアGPU)/128GBメモリ/2TB SSD」構成を試用する機会を得た。Apple Store価格で90万6800円という非常に高価な構成だったが、結論からいうと比較的コンパクトながらも、動画や音楽のクリエイターが利用する仕事用マシンとしてトップクラスのパフォーマンスを備えている。
アーキテクチャの都合から、Apple Siliconを搭載するMacは、後からユニファイドメモリ(メインメモリ兼グラフィックスメモリ)の増設/換装に対応しない。また、本体内蔵のSSDも購入後の増設/換装に対応しない。
これらの点については、Mac Studioを含むデスクトップモデルも同様だ。それだけに、購入時はどういう構成にするのか慎重な判断を求められる。
その代わりといっては何だが、Apple SiliconのMacはコンパクトな割にスループット(実効処理速度)が非常に高い。M2 Ultraチップを搭載するMac Studioも「よくこんな小さなボディーに収まっているな」と感嘆するほどに高いパフォーマンスを発揮する。
M2 Ultraチップの“作り方”は、先代Mac Studioが搭載していた「M1 Ultraチップ」と同じだ。
まず、省電力を意識した高効率な回路をレイアウトし、ベースチップを設計する。その上で、クリエイター向けにベースチップをリメイクした「Proチップ」を作り、そのレイアウトを約2倍に広げた「Maxチップ」を展開し、極め付きにMaxチップをUltraFusion(インターコネクト/連結回路)で2基連結して「Ultraチップ」とする――こんな感じだ。
台湾TSMCの「N5Pプロセス」で製造されたM2 Ultraチップは、CPUが高性能コア(Pコア)16基+高効率コア(Eコア)8基の計24コア構成で、GPUが60コアまたは76コア構成となる。これらとは別に、機械学習処理に特化した「Neural Engine」も32コア搭載されている。
M2 Ultraチップは、新型のMac Studioと「Mac Pro」に搭載されるが、チップそのものの性能はMac ProでもMac Studioでも変わらない。ボディーの容積の約半分を占める、Mac StudioのM2 Ultraチップモデルの冷却システムは長時間のワークロードを課してもいつ冷却ファンが動き始めたのか分からないほどに静粛である。そもそも、“超”が付くほどに負荷を掛けない限り、ほとんど動かない。
M2 Maxチップを2基搭載したM2 Ultraチップは、ユニファイドメモリの最大容量や転送速度も2倍となる。最大の容量は192GB、転送速度は毎秒800GBと、クリエイターの作業には十分なスペックを備えている。
この巨大なユニファイドメモリは、CPUやGPUだけでなく、ISP(イメージプロセッサ)、Audio DSPなどとも共有される。ISPとDSPはさておき、GPUやNeural Engineで処理される膨大なデータを別のメモリに移し替える(転送する)ことなく、それぞれのコアが得意な処理で効率よく動かせる所が、AppleのSoCが持つ最大の利点だ。
しかし「メリットはデメリットでもある」とは言ったもので、ユニファイドメモリはハードウェア構成の柔軟性やスケールアップに小さからぬ制約がある。
新しいMac Proが登場するまでの間、M2 Ultraチップについて「M2 Maxの4倍(M2 Proの8倍)」の規模になるなど、いろいろなうわさがあった。しかし、結局は「M2 Maxの2倍(M2 Proの4倍)」に落ち着き、従来の限界を打ち破ることはできなかった。
もしもHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)、あるいはメモリ容量が絶対的に必要な用途で使う場合、このデメリットは致命的である。しかし、Mac Studioはプロフェッショナルクリエイターの利用を想定しているモデルである。先述の通り、この用途であれば、Mac Studioはコンパクトなのに最高峰の性能を発揮できる。
もちろん、その性能は最適化されたアプリがあってこそ発揮される。そうでなければ「絵に描いた餅」になってしまう。
だが、M1 Ultraチップが登場して約1年が経過した現在では、macOS用のクリエイター向けアプリはApple Siliconへの最適化が進んだ。さまざまなコアが1つのメモリ領域を共有してデータを並列処理できるという特性を生かした処理も行えるようになったので、クリエイター用コンピュータとしてのMac Studioの魅力は、より高まっている。
合わせて「M1 Proチップ」から搭載され始めたMedia Engineの使いこなしも進んでいる。Media Engineは圧倒的に少ない電力で動画のデコードやエンコードを行ってくれる。しかも、CPUコアやGPUコアから“独立”しているので、デコード/エンコード中もCPUやGPUには“余裕”がある。
M2 UltraチップのMedia Engineは、Intel CPUのMac Pro向けに提供されていた動画アクセラレータカード「Afterburner」の約7倍に相当するパワフルさを誇る。プロの動画クリエイターにとっての“福音”となりうるハイパフォーマーだ。
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