今回のイベントのステージに登場した半導体メーカー4社のうち、Qualcommを除く3社はデータセンター向けのソリューションも提供している。しかも、一番の稼ぎ頭は間違いなくPC向けよりデータセンター向けの製品群だ。それにもかかわらず、各社が共通して指摘するのが「AIは将来的にデータセンターからエッジへ向かう」という点だ。AIがローカル環境で実行され、より個々に最適化された形になっていくという。
ある意味でエッジAIを積極的に開拓している先駆者と呼べるのがQualcommだ。同社はデータセンター向けの製品こそ持たないものの、スマートフォンからヘッドセット、組み込みのIoT機器、自動車まで、幅広い製品ポートフォリオを抱えている。同社はスマートフォン向けSoCにおいて早期からAIエンジン(NPU)を組み込む取り組みを行っており、「Snapdragon向けに開発したAIエンジンを活用したエッジデバイス」の事例が幾つも存在する。
Qualcommのクリスティアーノ・アモン CEOによれば、AIの活用事例が過去1年で倍以上に急増しており、PC市場においても同様のことが起きれば大きなビジネスチャンスになると考えているという。
(Qualcommは)バッテリー動作での駆動時間や、パフォーマンスにおいて競合に対する強みを持っており、Microsoftとの長年のパートナーシップにおいて揺るぎない優位性がある。決して“二流のPCで“はなく、ネイティブアプリも多数存在している。そしてAI活用が進む中、1ドル当たりどのくらいのパフォーマンスが得られるのか、クラウドとエッジの競合が始まっている。
クリエイター向けのサービスを考えると、クラウドで実行する度に料金(処理チケット)が発生していた。しかし、手持ちのデバイスで実行すれば、それは料金を掛けずに自身の持ち物とかける。AIアプリは進化し、端境期にある。だからこそ私たちはAIパフォーマンスに注力しているのだ。
同様に、HPのモバイルワークステーション「Z Book」向けにチップを提供しているAMDのスーCEOも「この製品がこれまでにない特別な点は、完全な大規模言語モデル(LLM)をローカルで実行できる点にある。これまでクラウド上で行う必要があると考えられていた作業を、自宅やオフィスにあるノートPCやワークステーションに持ち込めるようになる」と説明する。
NVIDIAでもつい先日、Grace Blackwellを搭載したAIワークステーション「DGX Station」を発表しており、LLMをローカルで動作させたい研究者や開発者たちの注目を集めたところだ。それだけ、半導体各社が現在最も注目しているトピックが「AIワークロードをいかにローカルで快適に実行させるか」ということなのだろう。
このようにAI PCの強化の方向性が定まりつつある一方で、本イベントで不安材料として話題になったのが「チップの供給問題とサプライチェーン」だ。
2020年から始まったコロナ禍でサプライチェーンが大きく混乱し、半導体の製造問題に発展したこと、そして“現在進行形”で不安視されているのが、米国でスタートしたトランプ政権による製造国に応じた関税問題だ。この問題には登壇したチップメーカー4社のトップがいずれも言及している。一方で、トランプ政権が示す「米国に製造業を戻す」という方針に準じつつ、いかに迅速かつ柔軟な製造/供給体制を築くかという点に注目したい。。
HPでは、この分野のプロフェッショナルとしてCEOO(Chief Enterprise Operations Officer)を務めるエルネスト・ニコラス氏が紹介された。過去2年ほどでいかにサプライチェーンを見直し、製品供給のリードタイムを短縮できたかをアピールしており、まだまだ未知数のトランプ政権下での制限がどようにビジネスに影響を及ぼすのか、適時見極めていく形となるだろう。
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