Appleが加速するインクルーシブな試み 2025年内に導入予定のアクセシビリティー機能を発表林信行の「テクノロジーが変える未来への歩み」(2/3 ページ)

» 2025年05月19日 12時00分 公開
[林信行ITmedia]

「拡大鏡」がついにMacにも搭載

 一方で、Appleは2025年もたくさんの新アクセシビリティー機能を発表している。最も注目すべきは「拡大鏡」機能のMacへの搭載だろう。

 2016年の登場以来、iPhone/iPadの拡大鏡アプリはただ虫眼鏡の代わりとして身の回りのものを拡大表示するだけでなく、文字を認識して読み上げたり、身の回りの物を認識して声で教えてくれたりするなど、ユーザーの目の代わりになるような機能も提供してきた。

これMacでの拡大鏡機能を紹介した米国のCMだ

 そして2025年は、ついにこの機能がMacにも搭載される。

 MacとiPhoneで同じApple IDを利用していると、iPhoneをMacの外付けカメラとして活用できる「連係カメラ」という機能がある。Macのための拡大鏡はこの機能またはUSBで外付けしたカメラを利用して、授業や会議中の黒板/ホワイトボードに書かれた文字を見るための補助をしてくれる。

 特に超広角レンズ付きのiPhoneで利用した場合には、デスクビューと言って黒板の文字を写しつつ、デスク上に置いた教科書や資料も同時に写すことができる。

 しかも、黒板の手描き文字などを認識して読みやすい活字に変換してくれる機能も備えている。

高価な点字メモ機器が不要になる「点字アクセス」

 もう1つの目玉機能「点字アクセス」も、視覚障害者向けのものだ。視覚障害者の中には、授業や会議のノートを「点字ディスプレイ(点字メモ)」という装置で行っている人たちがいる。小型のキーボードのような機器で、表面には点字を表示する帯状のエリアと、点字を入力するための特殊なキーが付いている。帯状のエリアには小さなピンがたくさん並んでおり、これらが動いて点字を形成する。

Apple アクセシビリティ 林信行 テクノロジーが変える未来への歩み Accessibility iPhone 16に表示された点字アクセス。点字アクセスにより、ユーザーは点字形式で素早くメモを取ったり、数学や科学の授業でよく使われる点字記法「Nemeth Braille」を使って計算を実行したりできる

 ノートを取る人は、この機械を机の上に置き、話されている内容を聞きながら点字キーを指で押し、メモを記録する。さらに、音声を直接聞き取れない場合には、事前にテキスト化された資料をこの装置で表示させ、ピンが動いて表現された点字を指で触りながら読んでいた。

 しかし、Appleの新しいアクセシビリティー機能「点字アクセス」を使うことで、この状況が劇的に変化する。高価で重い専用の「点字ディスプレイ」を持ち歩かなくても、普段使っているiPhoneやiPad、あるいはMacにコンパクトな点字ディスプレイをBluetooth接続して、同じことが実現できるようになる。

 具体的には、ユーザーがiPhoneと小型の点字ディスプレイを接続する。講演者の話や資料のテキストはリアルタイムでiPhoneを通じて点字ディスプレイに送られ、ピンのでこぼことして瞬時に浮かび上がる。

 それを指先で読み取りながら、必要に応じて簡単にメモを取ることができる。また点字入力用のキーで文字を入力すると、その内容は自動的にテキスト化されてiPhoneやMac上に保存される。このため、後から内容を整理したり、他の人と共有することが容易になる。

 「点字アクセス」は数学や理科の複雑な数式を点字で読み書きするための「Nemeth点字」や点字専用の電子書籍ファイル(BRF形式)にも対応するという。

さらなる新機能も多数発表

 他にも、より目的を絞った機能がたくさん発表されている。「アクセシビリティーリーダー」は、ディスレクシア(識字障害)や視力の弱い人のための機能で、文字の大きさや間隔、色のカスタマイズを可能にし、文章を読みやすく表示する。レストランでメニューが読みにくい場合でも、実世界の印刷物(本やメニュー)をカメラでスキャンして、読みやすい形式に変換することもできる。

Apple アクセシビリティ 林信行 テクノロジーが変える未来への歩み Accessibility 2台のiPhone 16に表示されたアクセシビリティーリーダー。iPhone/iPad/Mac/Apple Vision Proで利用可能な新しいシステム全体対応の読書モード「アクセシビリティーリーダー」は、ユーザーが読みたいコンテンツのテキストをカスタマイズし、集中できる新しい方法を提供する

 聴覚障害者向けの「ライブリスニング」という機能は、これまでiPhoneが捉えた音声をリアルタイムでAirPodsや補聴器に伝えるのに使われていたが、新たにApple Watchに対応し、音声をリアルタイムで文字に変換しApple Watch画面上で読めるようにしてくれる。

 Apple Vision Proも進化し内蔵されているカメラを活用して、視界に入っているものを拡大表示したり、視界にある物体を認識したりしてVoiceOver機能で読み上げてくれたりする機能が加わる。

 他にも、環境音を調整して「聞こえ」をよくする新しいイコライザー機能が搭載される。

Apple アクセシビリティ 林信行 テクノロジーが変える未来への歩み Accessibility iPhone 16とApple Watchに表示されたライブリスニング。リアルタイムのライブキャプションを含む新機能とともに、ライブリスニングコントロールがApple Watchに対応する
Apple アクセシビリティ 林信行 テクノロジーが変える未来への歩み Accessibility Apple Vision ProのZoom機能への強力なアップデートにより、ユーザーはメインカメラを使って視界にある全て(周囲の環境を含む)を拡大できる。この画面(実際は動画)では、キッチンで作業中のApple Vision Proユーザーが、レシピ本やレシピカードをより詳しく見るために長方形のビューポートで拡大し、Notesアプリで材料リストの項目にチェックを入れている様子を示している

 またiPhoneなどの画面の端に動くドットを表示することで、乗り物酔いをなくす「車両モーションキュー」という機能が、一時、日本でも驚くほど効果が高いと話題になったが、この機能がMacにも対応するようだ。

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